メガネゴンベのラブシーンはキュン死に必至!一瞬の産卵を捉えるまで
6月。沖縄は今、梅雨の最盛期。ジメジメと空気が重たい日々が続いている。乾燥知らず、お肌ぴちぴちの毎日だ。この時期は南風が吹き、恩納村は一年でもっとも海が穏やかになる。
GWを過ぎた頃から水温が急激に上がる沖縄本島は、魚たちの繁殖行動が活発化しており、産卵だけでなく、さまざまな魚類のハッチアウトも観察できている。そのため、いたるところで幼魚が溢れてきた。こんな時はナイトでライトトラップをしても面白い。5月末からはサンゴの産卵という大イベントも続いており、寝る暇もなく潜り狂っている。
薄着で潜れるこれからの季節、サンセットやナイトダイビングをしない理由なんて私にはどうやっても思いつかないのだが、今日も逢魔時の海へいそいそとエントリーしていく物好きは私ひとりだけだ。
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恩納村の夕日
夕どき胸ドキ第3回のターゲットはメガネゴンベ
さて、第三回を迎える「夕どき胸ドキ」。第一回でナズリングというちょっとエッチなスミレヤッコの産卵前行動を、第二回では変態ちっくなオジサンの求愛行動をご紹介した。この第二回は5月のオーシャナ人気記事ランキングでなんと7位にランクインさせていただいた。誰も読まないだろうと好き勝手書かせてもらってるこんなマニアックな記事が、意外にも多くの方に見られていてなんだか恥ずかしい。が、やっぱり嬉しい。もっと多くの方にお喜びいただけるような繁殖行動をこれからも報告していく所存。
ただ、このままエスカレートしていくと「うちの子には読ませられない」なんて親御さんが出てくるかもしれないので、今回は落ち着いて、これまでと少し趣きを変えた「見た人が必ず“ほっこり”するメガネゴンベの繁殖行動」をご覧にいれよう。
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今回のターゲットであるメガネゴンベ
南日本の太平洋側に広く分布するメガネゴンベ。名前の由来となった目の模様よりも、“アゴ”の部分にあるド派手な“襟”に注目してる無類のメガネゴンベ好きの方が…もしかしたらいないとは思う。冗談はさておき、どんな人でもメガネゴンベの産卵をご覧になったら、きっと胸が熱くなるのを感じられるだろう。
メガネゴンベは枝状サンゴに暮らしている。夜間、寝ているときには同じサンゴに2匹以上集まっていることがあるが、基本、昼間は1匹毎に定位置というものがあるようだ。サンゴの上でポケーッとしている姿をよく見かける。そして日が落ちた後の薄暮の時間。完全に暗くなるまでの短い時間に彼らの繁殖行動が行われる。
胸キュン必至の求愛行動
日が傾いてくるとオスはサンゴの上に乗り出してきて、隣のサンゴに暮らすメスの様子を伺うようになる。
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メガネゴンベのオス
それに気づいたメスもまた、サンゴの上に乗ってオスと対峙してジッと見つめ返す。
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メガネゴンベのメス
しばらくすると、オスはメスが暮らすサンゴのところまでいそいそとやってくる。
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近づくメガネゴンベ
メスにオスを受け入れる準備が整っていれば、隣同士になるよう向きなおす。
ここまできたら産卵まであと少しだ。
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いちゃつくメガネゴンベ
もうここまでの観察でだいぶ私の胸はキュンキュンしているのだが、この先にさらなる胸キュン必至の求愛シーンがある。なんと、オスとメスがお互いにタイミングを図るような行動を取るのだ。その仕草がなんともほっこりするもので、腹ビレを使って交互に体を上下させる。人間でいう腕立て伏せのような感じを想像していただければいい。
まるで「いち、にの、さんでいくよ」、「いち、にの、さんね」と息を合わせるようにヒョコ、ヒョコ、ヒョコ、と屈伸しあう。最初は交互にヒョコヒョコしているのだが、そのうちタイミングが合ってくる。そして、その“キュン死に産卵前行動”が止まったかと思った次の瞬間。目にも留まらぬ速さで産卵が行われる。メガネゴンベの産卵形態もペアでの上昇産卵で、卵は分離浮性卵だ。もし、「あ、産卵する!」と力んで瞬きをしてしまったとしたら、きっと産卵の瞬間は見られず、目の前にあるのは卵が漂っているだけの光景だろう。
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ちぎれて漂う卵塊の一部
産卵の撮影は早押しイントロクイズ
以上のことを踏まえた上でメガネゴンベの産卵を撮影したいと思ったら、ちょっとしたコツがいる。それはヤマ勘を張るということだ。そのためには何度も産卵を観察しなければならないのだが、肝心なのは産卵に飛び立つ瞬間から放精放卵が行われるまでのタイミングと飛距離に慣れることだ。
まず、メガネゴンベのペアがいるサンゴに真横から臨む。しかし、カメラを向けるのは45度斜め上、30cmくらいのところだ。ファインダーの端でペアの様子がギリギリ見えるくらいがいい。ピントは、真横に飛ぶと仮定してとりあえずペアに合わせておく。あとはひたすらその瞬間が訪れるのを待つだけだ。
ヒョコ、ヒョコ、ヒョコ、と2匹の仲睦まじい様子を視界の片隅で捉えながらじっと待つ。たまにオスが飛び立ちかけるので、それに引っ張られてシャッターを切ってしまおうものなら、メスは突然のストロボ光に驚いてしまう。お手つきは禁止だ。イントロ、ドン!のように、飛んだ!と思った瞬間にシャッターを切る。速すぎて撮れたかどうかはモニターを覗くまで分からない。かく言う私も、幾度となく挑戦して敗れてきた。
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メスがあっち向いて産卵してしまった
産みの苦しみと産卵後のオス
失敗を重ねるうちに分かってきたことがある。上の写真を見たらお分りいただけると思うが、産卵をしたと同時にオスは素早くサンゴに戻っている。“賢者タイム”も何もない。あまりの速さに、タイミングが合ったと思っても、すでにオスは踵を返していてメスと卵だけが画面に残っているという写真が量産されるのだ。狙うタイミングは、オスがまだメスの横にいる、放精放卵が行われるその一瞬。
何日もかけてようやくその時は訪れた。
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放精放卵の瞬間
メガネゴンベの産卵がこんなことになってるとは大変驚きなのだが、厳密にいうと、この写真は産卵の瞬間ではなく放精放卵がなされた直後にオスが踵を返しているところだ。2匹が同じ向きで横並びにいる写真。つまりメスが放出した卵にオスが精子をかけている一瞬の出来事は、私の反射神経ではどうやっても切り取ることができなかった。是非とも我こそという方は私の代わりに挑戦していただきたい。
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産卵時のメス
それにしてもこの表情。産みの苦しみがにじみ出ている。ことが終わればすまし顔のオスとは対照的だ。
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対照的な2匹の表情
そして例に漏れず、メガネゴンベのオスもテリトリー内に複数匹のメスを抱えているので、産卵後すぐに別のメスが暮らすサンゴのお家にそそくさと出向いていく。週刊誌もびっくりのプレイボーイぶりだ。さっきまでのほっこり胸キュンも興醒めである。
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情事のあとは、メスを両側に侍らせ眠りにつく
仕事終わりに一本どう?石野昇太のゆうドキむねドキ〜夕暮れ時の生態行動を追え!〜(連載トップページへ)
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