小笠原諸島でフリーダイビング!篠宮龍三の素潜りツアー

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ホエールスイムで観察したザトウクジラの親子

©Ryuzo Shinomiya フリーダイバーで写真家でもある篠宮龍三氏が撮影した沖縄近海のザトウクジラ

1970年代…
初めて女子大生が島に来たと村がざわめき「カメ食いにいきませんか?」と父島流の軟派な挨拶をされるほどだった。アメリカから返還されて間もない小笠原諸島父島の道は舗装されていなくて砂利道だったが、とはいえ当時は渋谷のセンター街すらもまだ砂利道だった時代。

東京のディスコでは飽き足らず日本の秘境を求めてやってきた彼女らは、1968年にアメリカ合衆国から返還されたばかりで、まだまだ観光地として知られておらず、誰もいない南島の美しいビーチでシュノーケリングを楽しんでいた。島内にダイビングショップがなかった当時は、フリーダイバーがイルカやクジラを観察しにくることなどなかっただろう。

世界自然遺産の小笠原諸島でドルフィンスイム

小笠原諸島ではウミガメを食べる習慣がある。昔の話ではなく、私が2021年の11月に訪れた際にも「ウミガメの刺し身」を食した。まったく生臭さは感じず、蛋白でほぼ馬刺しだ。絶滅危惧種の生き物を食べるなんて!という声が聞こえてきそうだが、小笠原諸島ではアオウミガメの人工孵化に成功しており、年間135頭の制限内で捕獲が許されている。

世界遺産に登録されて10年がたつ小笠原諸島。この島はいまだに航空便が運航しておらず、船で片道24時間かけて来ることしかできない。その不便さ故の恩恵なのか、人間によるオーバーツーリズムから守られており、島の周辺には数多くのサメやエイ、イルカやクジラが生息する生物多様性が維持されている。

モノフィンのフリーダイバーが水深15mでハシナガイルカと泳ぐ

私は10代の頃から沖縄に住んでおり、12月〜3月以外は南国の暖かい海でダイビングやシュノーケリングをほぼ毎日楽しんでいた。冬季は1週間から2週間の長期休暇があるので旅に出かけるのだが、選択肢はいつも日本より暖かい熱帯地域に位置する国への海外旅行だった。小笠原諸島には行ってみたいと思っていたが、わざわざ冬に行くのは気が向かない。

しかし、数年前に東京への転勤が決まったときには、真っ先に「ようやく小笠原諸島に行ける…!」と思った。沖縄ではイルカと泳げるチャンスが奇跡に近かったので、ドルフィンスイムができる場所への旅を夢見ていた。

ドルフィンスイムができる場所は国内では少なく、世界中の海へイルカとの出会いを求めて旅をする人たちがいる。クジラやイルカと出会うための手段として素潜りの作法を学ぶ者もいれば、フリーダイビングをきっかけに海洋哺乳類との潜水に興味を持ち始めた者もいるだろう。フリーダイバーに共通すること…それは、超越した潜水能力を持つ鯨類への畏敬の念や、水中での高いコミュニケーション能力を持ちながらも海洋という過酷で広大な地球環境に社会を形成する彼らに、大自然の学びとインスピレーションを得ることかもしれない。

鯨類のような佇まいのフリーダイバー 篠宮龍三氏

小笠原諸島のザトウクジラとマッコウクジラ

大洋で何万kmもの距離を泳いで大移動をする海洋生物のように、かつては世界中の海を旅していたダイバーたち。感染症によるパンデミック以来、海外に渡航できなくなった人は多い。そのような中、日本国内の魅力的な秘境の海に、あらためて目を向けてみてはいかがだろうか?

フリーダイバーの見る海はスキューバダイビングやシュノーケリングとは少し角度が違って、10年以上を沖縄で過ごす私でも新鮮な体験だった。沖縄がオフシーズンとなる冬季に、フリーダイバーが開催するツアーで沖縄本島の北部やハワイ島のコナへザトウクジラの観察と撮影に行ったのだが、生物に配慮したツアーガイドや、自然や現地の文化に寄り添った過ごし方など、学ぶことが多かった。

ホエールスイムでザトウクジラが大接近

©Ryuzo Shinomiya 沖縄のホエールスイムでは実際はほとんど泳がず、ザトウクジラが通り過ぎるのを観察する。

北の海から日本の海へ、毎年冬に訪れるザトウクジラ群は、沖縄では約200頭が個体識別されている。小笠原諸島では約1100頭が個体識別されており、そのうち約半数がリピーターとして2シーズン以上の来遊が確認されている。かつては捕鯨が盛んな島としての歴史もあるが、近年は確実にクジラの数が増えているようだ。

参考:生息数推定|小笠原海洋センター

父島周辺の海でスキューバダイビングをしているとザトウクジラに水中で遭遇することもある。スキューバダイバーとしては夢のような出会いだろう。小笠原諸島ではホエールウォッチング協会がクジラとのスイムを35年間ずっと禁止しており、沖縄や奄美群島のように手軽にシュノーケリングで会うことはできない。その結果として、ザトウクジラと人間との心の距離が近くなっているようだ。30年前は島を一周してやっと1頭見つけられるような日もあったが、今では港を出ればすぐに数頭が見つかるらしい。

巨体をひねらせるザトウクジラを水中で撮影

©Ryuzo Shinomiya 日本の冬は素晴らしい。群青の海を泳ぐクジラを見ることができるかもしれないのだ

小笠原諸島にオフシーズンはない。冬から春はザトウクジラ、春から夏にはケータ列島への遠征などで大型魚類との遭遇が期待できる。夏から秋は父島からわずか30分の水深1000m海域でマッコウクジラを船上から見ることができ、1年を通して島の周囲でドルフィンスイムを楽しむこともできる。

島の沿岸から離れると、水深1000m〜2000mの海域にマッコウクジラが住んでいる。父島の外洋でディープダイブトレーニング中に、水面で大きなイカの足が浮いてくるのを見たことがある。どうやらマッコウクジラが好物のダイオウイカを深海で狩っているようだ。小笠原諸島では、体長15mにもなる巨大生物同士の闘いが島のすぐそばで繰り広げられているのだ。

この海域のマッコウクジラは雌と幼体の混群で構成されており、その真っ黒な潜水艦のように進む姿や大きなヒレを高くあげて潜る姿を、船上からのホエールウォッチングで見ることができる。周辺には外洋性のハンドウイルカやマダライルカを発見することもあり、3mにもなる巨体で華麗なジャンプを披露する姿や、数百頭もの群れが船を取り囲むように跳ね泳ぐ景色を見ることもあった。

小笠原諸島父島には御蔵島よりも体の大きなハンドウイルカが生息

小笠原諸島の父島はフリーダイビングに最適だった

少し肌寒い11月の海だったが、日本の世界自然遺産の1つである小笠原諸島でイルカとクジラのウォッチングを楽しみながら、フリーダイビングのトレーニングにも参加した。

24時間をかけて東京の竹芝桟橋から航海してきたおがさわら丸が停泊している港

フリーダイバーの朝は早い。食事がアプネアに影響するという側面もあるが、海で過ごす時間の多くを水面での休息に費やすからだ。太陽が登り気温が上がると、地表や海面上の風が強くなり、波や流れの影響を大きく受ける。

まだ薄暗い小笠原諸島父島の湾内に、元フリーダイビング日本代表選手でありアジア最深記録を持つ篠宮龍三氏と、篠宮氏の師事の元で日本代表を目指す若きフリーダイバーの知野見光氏がトレーニングの準備をしていた。

私は沖縄在住の頃に仕事で公共施設の管理をしており、施設内のスイミングプールを有効活用できないかと悩んでいた時期があった。その時、たまたまプールに練習をしに来てくれた篠宮龍三氏と意気投合し、ぜひうちのプールを使ってくれという話になった。
ちょうどその年にフリーダイビングの選手を引退し、後進育成とフリーダイビングスクールに力を入れていくためにホームとなる施設やプールを探していたようだ。

フリーダイビングを理解するために、私も定期的に認定講習やディープダイブトレーニングに参加した。始めてから1年後には、当時フリーダイビングのコースができたばかりのPADIでインストラクターに認定され、沖縄のフリーダイビングを一緒に盛り上げようと広報宣伝活動にも注力していた。

知野見さんはフリーダイビングの中でもノーフィンスタイルを好む

フリーダイバー達はスキルを磨くだけでなく、素潜りのマインドをそれぞれの師から学んでいる。心と体を海に溶け込ませ、陸上で必要な脳の思考活動は限りなく停止させる。身一つで深い海に潜るフリーダイビングは、数m、数秒の判断やミスが命取りになるエクストリームスポーツだ。
熟練のフリーダイバーは己を律する能力に長けており、ただ海で遊ぶ時も水中生物へのリスペクトや他のダイバーとの協調に余念がない。陸から海、船上から海へ入るまでの流れるように無駄のない所作は、まるで武道を身につけた者のようだ。

海洋トレーニングでは水中で息止めのウォーミングアップをすることも

トレーニングをおこなう海域への移動中に船の進行方向にこちらへ向かってくるイルカの群れが見えた。船速をゆるめ、船長から「ハシナガイルカの群れが来るよ」とアナウンスが聞こえる。惰性で徐行する船をイルカの群れが通過するまでの時間は約1分。その間に慌てず騒がず冷静にカメラを準備し、器材を完璧な状態で装着し、8人のフリーダイバー全員が水面に漂っている。わずか30秒ほどで何の迷いもなく底の見えない群青の海に浮かび、リラックスしてイルカたちが泳いでいくのを静かに観察していた。

世界中のフリーダイバーが愛用するカーボンフィンのAlchemy。植林でカーボンニュートラルに取り組んでいる

ドルフィンスイムの後は自然とみんなが笑顔になる。泳ぐ姿を見るだけでも癒やされるが、透き通った海の中で、水を通して直接自分の耳に届くイルカの声を聴くことも影響があるのだろう。穏やかでリラックスした気持ちで外洋へ向かい、フロートから深海へ降ろされた1本の命綱のようなロープを使いディープダイブのトレーニングをおこなう。

小笠原諸島の父島沖。水深1000mの海域でフリーダイビング

私はフリーダイビングの持つ、アクティビティ×トレーニングというスタイルがとても好きだ。旅行先でただ遊び、うまいメシを食い、2件も3件もハシゴして酒を浴びるほど飲み、翌日は二日酔いを抑えながら観光へ行く伝統的とも言える遊び方も嫌いではないが…

世界屈指の透明度を誇る海でのトレーニングに向けて、地産地消でオーガニックな食事を取り、身の丈にあった快適な宿でしっかりと睡眠をとり、身体的にも精神的にも整った状態で哺乳類としての潜水能力を最大限に引き出す。

トレーニングの前後には、外洋で魚の群れに囲まれたり、何千万年も前に造られた海底の裂け目を探索したり、見事に成長したサンゴ礁がまるで参道の露店のように連なる水路を優雅に泳いだり、アドベンチャーとしてのダイビングも十分に満喫できる。

フリーダイビングは競技としての要素が強く、日本にはまだフリーダイビングをアクティビティとして提供できるサービスが少ない。オーシャナを通して、「自然」と「旅」にフォーカスしたフリーダイバーのライフスタイルを、これからも紹介していきたい。

監修:apnea works/沖縄フリーダイビングスクール 篠宮龍三

アジア人最深記録である水深115mへのフリーダイビングを成功させたフリーダイバー。現在は沖縄県宜野湾市を拠点としてフリーダイビングスクールを開催している。後進育成のためAIDA(International Association for the Development of Apnea)インストラクターのトレーナーとしても活動しつつ、沖縄県北部や与那国島、小笠原諸島など秘境の海へのフリーダイビングツアーを開催している。

“記事の中でご紹介したザトウクジラの写真は3枚とも沖縄本島近海にて撮影しました。 沖縄本島でも数年前からホエールスイムも行われるようになってきました。ぜひ見にきてください”
−−− 篠宮龍三 −−− 

apnea works 篠宮龍三の沖縄フリーダイビングスクール 

各コース、ツアー日程はこちらから
沖縄フリーダイビングスクール Facebook Page

撮影協力:小笠原諸島・父島のダイビングサービス FISH EYE

代表の笠井氏は、かつて東京の銀座にて水中撮影機材を販売する商社で働いていたが30年以上前に小笠原諸島に移り住み、ダイビングガイドの傍ら商社の頃から付き合いのあったレジェンド的な写真家を始め、出版社や新聞社、テレビ局の撮影に積極的に協力している。大型のダイビングボート「Beast Master Ⅲ」は九州の造船所で作られ、看板犬の「エール」と共に大時化の中を小笠原諸島まで一直線に回航してきた。
水深100m以上を潜るテクニカルダイバーの沈船調査や、特製のホエールフォンを使用したクジラ探しを得意とするホエールウォッチング、ケータ列島へのキャンプ宿泊を伴う遠征ツアーなど、小笠原諸島の海をハイレベルにガイドしてくれる。

小笠原のペンション&ダイビングサービス FISH EYE

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PROFILE
福岡県出身。18歳からスキューバダイビングを始め、翌年にプロ資格を取得。
22歳でPADIマスターインストラクターとなり、宮古島・沖縄本島・東京都内と拠点を変えつつダイビングスクールで15年間働く。
沖縄本島在住時の7年間でフリーダイビングのアジア最深記録を持つ篠宮龍三氏からトレーニングを受けてフリーダイビングインストラクター資格を取得した後に、沖縄本島や慶良間諸島で初心者フリーダイバー向けの講習とレッスンを開催していた。

現在はWebサイトのディレクション、Web広告運用、ソーシャルメディアの運用サポートなどデジタルマーケティングを主な生業としている。

オーシャナでは、取材時の写真撮影やスキンダイビングレッスンを担当。
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