筑波大学の若手研究者が語る、“100年後の海”はどうなっているのか?(第2回)

【2】自然の価値をお金に換算すると、その重要さが理解しやすくなるのでは?〜酸性化への社会科学的アプローチ〜

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連載第2回目公開!
“未来の海”の価値を考える

筑波大学生命環境系助教(下田臨海実験センター)の和田茂樹先生と筑波大学芸術系准教授(人間総合科学研究科)の武正憲先生の研究に迫る「筑波大学の若手研究者が語る、“100年後の海”はどうなっているのか?」連載第二回。

▶︎研究について/「筑波大学の若手研究者が語る、“100年後の海”はどうなっているのか?」連載TOP

左:和田先生、右:武先生

左:和田先生、右:武先生

第一回目の記事では、海洋酸性化の基本と式根島CO2シープを使った100年後の海の景観予測をお伝えしました。

▶︎【第一回】海洋酸性化が進んだ未来の海が式根島にあった!〜筑波大学下田臨海実験センターの研究〜

このまま海洋酸性化が進むと、多様性が失われた単調な生物相の海になってしまうかもしれない
100年後、ダイビングを楽しめる海であるようにーー、私たちにできることはあるのだろうか。

第二回目となる今回の記事では、生態系サービスを視点に自然を守るための考え方を聞いた。

聞き手:山本晴美(オーシャナ編集長)
構成:村上隆保(湘南BBQクラブ

自然環境をお金に換算し
価値を可視化する

武正憲(以下、武)

では、現在の海の環境をどう守っていけばいいのか?

地上で考えてみるとわかりやすいんですが、国立公園のような自然豊かな場所は、かならずしも“生産の場所”にはなりません。生産の場所ではないということは、農林漁業に供する場所が限られ、お金を生み出すところではない場所が多いということです。

実は、日本の国立公園の多くは入場料が無料です。そのため、自然環境を保全するお金の確保にとても困っています。

海も同じです。魚や貝などの漁業資源はありますが、その魚や貝が生息する環境をどう守っていくかにお金がかけられていない。
それが一番の問題なんです。

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――そうですね。自然はタダだという思い込みがあります。

和田茂樹(以下、和田)

「生態系サービス」って聞いたことありますか?

――初めて聞きます。

和田

ひと言でいうと「自然の恵み」です。
「人はこの場所の生態系から、これくらいの利益を得ているんですよ」「この場所にはこれくらいの価値があるんですよ」ということ。
自然の恵みをお金に換算するとわかりやすいですよね。

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――そうですね。

和田

それも「この海から魚がこれだけ獲れます」という直接的な利益だけじゃなくて、「そこにいる海藻が人間が出した排水をどれくらいきれいにしているのか」を排水処理場と比較してお金に換算する
また「海藻が二酸化炭素をどれくらい吸収して減らしているか」を計算する。

海洋酸性化にしても「将来、この地域の海が酸性化すると、これくらいの価値がなくなります」「この酸性化を食い止めるには、これくらいのお金が必要です」ということをきちんと提示しなければ、自然環境を保全する交付金や寄付金は集められないと思っています。
今、私たちはそういった取り組みを始めています。

――自然環境をお金に換算すると、どれだけ大事なものなのかがわかりやすくなりますね。

海の環境の価値をリアルに感じる
ダイバーの力を貸して欲しい

ただ「自然環境を保護することは大事だ」とわかってもらえても、そこにリアリティを感じてもらえないとなかなかお金は集まりません。

例えば、「NINBY(裏庭問題)」(Not In May Back Yard/うちの隣はダメ)というのがあります。
これは「自分の家の隣にみんなが利用できる便利な大きなビルが建つのは嫌」だけれども、「隣町だったら自分には関係ないから別にいいよ」という考え方です。

「自然環境が大事なのはわかるけど、環境保護のために何か行動をするのは面倒くさい」となりやすいんです。
自然環境をお金に変えてアピールしても、それが自分たちにどれだけ重要で大切なことなのかをリアリティを持ってわかってもらえる人って、なかなかいないんですよね。

――なんとなくわかります。

実は、海の自然環境を守るうえで、ダイバーの人たちはとても重要だと思っています。
「海の環境にどれだけの価値があるのか」を十分に知っていて、リアリティを持って理解してくれると考えられるからです。

だって、「これまで伊豆に行けばサンゴが見られたけれども、これからは沖縄に行かなくては見られなくなるよ」って話すだけで、すぐに肌感覚でわかってもらえるじゃないですか。
ですから、私たちの研究や海洋環境の保護にぜひ、力を貸してほしいと思っています。

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――具体的にはどんなことをすればいいのでしょうか?

私がお願いしたいのは、登山者が登山道の整備をしたり維持をするように、ダイバーの人に海をきれいにするための、海洋環境の保全を行なってもらったりすること。
もちろん、ダイバー全員がやらなければいけないということではなく、興味を持っている人を増やしたいということです。そしてその人数が増えれば、大きな力になる。

――はい!

また、できれば式根島でダイビングをする人から、海洋酸性化の研究のためにダイビング料金のほかに少しだけお金を払っていただく。これは受益者負担という考えに基づきますが、まずは自分たちが大事に思える場所に対しては、費用的な援助をしてもらいたいと思っています。
そして、そのお金を出していただける方が多くなれば、沖縄・硫黄鳥島のCO2シープにも使わせていただく、というのが理想です。

――そうですね。
そういった仕組みが特定のエリアだけでなく海全体に広がっていくと、包括的な保全活動がしやすくなるように感じます。

(続きは2020年2月14日公開予定です)

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▶︎【連載TOP】「筑波大学の若手研究者が語る、“100年後の海”はどうなっているのか?」
▶︎【第一回】海洋酸性化が進んだ未来の海が式根島にあった!〜筑波大学下田臨海実験センターの研究〜
▶︎【第三回目】ダイバーの持っている情報を未来予測に使いたい!〜過去の履歴を知ることで海洋酸性化を正確に分析する〜

Profile

左:和田先生、右:武先生

左:和田先生、右:武先生

和田茂樹(Shigeki Wada)

1980年生まれ。香川県出身。博士(理学)。
筑波大学生命環境系下田臨海実験センター助教。
専門は生物海洋学。

武正憲(Masanori Take)

1979年生まれ。新潟県出身。博士(環境学)。
筑波大学芸術系准教授。
人間総合科学研究科世界遺産専攻および自然保護寄付講座を担当。
専門はエコツーリズム。

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