筑波大学の若手研究者が語る、“100年後の海”はどうなっているのか?(第1回)

【1】海洋酸性化が進んだ未来の海が式根島にあった!〜筑波大学下田臨海実験センターの研究〜

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全3回の連載で
“未来の海”の姿に迫る!

筑波大学生命環境系助教(下田臨海実験センター)の和田茂樹先生と筑波大学芸術系准教授(人間総合科学研究科)の武正憲先生の研究に迫る「筑波大学の若手研究者が語る、“100年後の海”はどうなっているのか?」連載開始!

▶︎研究について/「筑波大学の若手研究者が語る、“100年後の海”はどうなっているのか?」連載TOP

左:和田先生、右:武先生

左:和田先生、右:武先生

第一回目となる今回は、和田先生の海洋酸性化に関する研究について取り上げる。

地球温暖化が指摘されて久しいが、忘れてはいけないのが、排出された二酸化炭素(CO2)は、すべて空気中にたまるわけではない、ということだ。

いったい和田先生は、どうやって海洋酸性化の進んだ100年後の海を予測しているのだろうか。

聞き手:山本晴美(オーシャナ編集長)
構成:村上隆保(湘南BBQクラブ

排出された二酸化炭素は
海にも吸収されている!?

和田茂樹(以下、和田)

いきなりですが、「海洋酸性化」という言葉をご存知ですか?

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――ダイバーならわかる人もいるかもしれませんが、一般の人にはピンとこない言葉だと思います。

和田

そうですよね。

地球は今、人間の産業活動などによって二酸化炭素が増え、温暖化が進んでいるということは皆さんご存知だと思います。
しかし、排出された二酸化炭素はすべて空気中に残るわけではないんです。これまで排出された二酸化炭素の3分の1から4分の1は海に吸収されたと言われています。

――かなりの量ですね!?

和田

十数年前までは「二酸化炭素が海に吸収されるのなら、温暖化が抑えられて良いのではないか」という認識が広がっていましたが、最近は「海水の二酸化炭素濃度の上昇やpHの低下(水素イオン濃度の上昇)が、海の環境に大きな影響を及ぼすのではないか」と指摘されています。

――それが「海洋酸性化」なんですね。

和田

はい。
現在の海中のpHは平均で8.1くらいですが、21世紀末にはpH7.8、2150年になるとpH7.6まで落ちるといわれています。
そして、CO2濃度を上げて海洋酸性化を模した環境の水槽でサンゴや貝などの生物を飼育したら、様々な変化が現れたという実験データが出ています。
(※pH=7を基準に数値が高くなるほどアルカリ性が強くなる。逆に低くなるほど酸性が強くなる)

――温暖化によって海が酸性化したら、海洋生物に大きな影響があるということですか?

和田

そうです。ただ、この実験は「実際は100年以上かけて変化することを水槽の中で急激に行なった」また「海洋生物の食物連鎖など、生物と生物の間の関係があまり考えられていない」などの問題が指摘されています。

――水槽実験だけでは、すべてが明らかにできないということですね。

和田

そうですね。

式根島のCO2シープから
100年後の海を考える

和田

「CO2シープ」という言葉をご存知ですか?

――はじめて聞きます。

和田

CO2シープとは海底から二酸化炭素が湧き出している場所のことです。
二酸化炭素が湧き出しているということは、その周辺には二酸化炭素が多く溶け込んで、酸性化された海が広がっている。

ですから、このCO2シープを観察することで、自然によって作られた “未来の海”がわかるということです。しかも、日本にはこのCO2シープが2カ所もある。

――日本のCO2シープは、どのあたりで見つかったのでしょうか?

和田

沖縄の「硫黄鳥島」と、伊豆諸島の「式根島」です。

――和田さんたちの研究チームは、その式根島のCO2シープで海洋酸性化の調査をしているということですね。

和田

はい。
具体的には式根島の御釜湾という場所ですが、この湾の海底に潜ると砂地や岩の隙間から小さな泡がたくさん出ているのがわかります。
ファンダイバーたちに、海中温泉とも呼ばれていますね。

「海中温泉」と書いてある場所が御釜湾

「海中温泉」と書いてある場所が御釜湾

式根島CO2噴出エリアの様子

式根島CO2噴出エリアの様子

――それが二酸化炭素……!?

和田

そうです。
本来、式根島の海は大きなテーブルサンゴや枝サンゴ、大きな海藻などが生息しているとても豊かな海です。
しかし、CO2シープの御釜湾に生息する生物の種類は、大きく異なります

CO2シープの影響のないエリア

CO2シープの影響のないエリア

――御釜湾だけ生態系が変わっているということですね。

和田

下記の動画を見ていただくとよくわかるのですが、御釜湾の海底は岩がところどころに転がっていて、その岩の表面に小さな藻類がついている景観ばかりです。

和田

そして、その小さな藻類などが岩に着底してもすぐに死んでいく。酸性化が進むと短寿命の生物が多くなる傾向があると言われていますが、その通りの光景が見られます。
しかも、その藻類は特定の種類で、それが全体の大半を占める。式根島のCO2シープは、比較的生物の種類数が少ない生態系というわけです。

酸性化が進んだ海では、特定の種類の生物だけが生きられる環境になると考えられる

酸性化が進んだ海では、特定の種類の生物だけが生きられる環境になると考えられる

――それが酸性化した海の姿だと。

和田

そうです。
他にもボウシュウボラという大きな巻貝が日本の沿岸には生息しています。一般的な海にいるボウシュウボラは貝殻が茶色く、その貝殻に藻類などたくさんの生物が付着しています。
しかし、酸性化した海にいるボウシュウボラは、貝殻が白っぽく表面は溶けてツルツルになっている。

実際に酸性化した海のボウシュウボラをスキャンしてみると、貝殻の厚みが薄く、ボロボロの状態だということがわかりました。

左が通常サイトのボウシュウボラ、右が酸性化サイトのボウシュウボラ(撮影者:Benjamin Harvey)

左が通常サイトのボウシュウボラ、右が酸性化サイトのボウシュウボラ(撮影者:Benjamin Harvey)

――酸性化された100年後の海では、生物が生きていくのはかなり厳しそうですね。

和田

そうですね。

続きはこちら↓
▶︎【第二回目】自然の価値をお金に換算すると、その重要さが理解しやすくなるのでは?〜酸性化への社会科学的アプローチ〜
▶︎【第三回目】ダイバーの持っている情報を未来予測に使いたい!〜過去の履歴を知ることで海洋酸性化を正確に分析する〜

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Profile

左:和田先生、右:武先生

左:和田先生、右:武先生

和田茂樹(Shigeki Wada)

1980年生まれ。香川県出身。博士(理学)。
筑波大学生命環境系下田臨海実験センター助教。
専門は生物海洋学。

武正憲(Masanori Take)

1979年生まれ。新潟県出身。博士(環境学)。
筑波大学芸術系准教授。
人間総合科学研究科世界遺産専攻および自然保護寄付講座を担当。
専門はエコツーリズム。

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