海で迷子にならない優れもの「ノーチラス・ライフライン」を阻む法律の壁

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やどかり仙人コラム

ダイビングをしていて、誰もがいつも心のどこかに抱いている不安。

流され、はぐれ、一人ぼっちになる。

特ににドリフトといった、あえて流されることが目的のダイビングもあります。
このヤドカリ爺にも漂流の経験がございますが、ボートを待つ間の心細さは、正直嫌なものであります。
ちょっと荒れれば、小さな西瓜ほどのダイバーの頭部など、目視できる距離などわずかなものです。

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つくづく自分の位置を知らせる方法はないかと、思います。
ボートと連絡さえとれれば、探すほうも探されるほうも、これほど心強いものはありません。

それがあるのです。

オートナビ、救難識別信号の発信器、そして船舶用VHF無線が一緒になった大変な優れもの、ノーチラス・ライフラインという、BCDのポケットに入るほどコンパクトな安全グッズであります。
もちろんダイバーの必須条件、深度約120mにも耐える、耐圧構造になっております。 

ノーチラス・ライフライン

水面ではぐれたことに気がついたら、ケースの蓋を開けて、スイッチを入れると、自動的に周囲数マイル圏にいるボートと連絡がとれるわけであります。

漂流したときなどは、自動的にGPSの位置測定と連動した識別信号MMSIを発信します。
またディスプレーには 正確なGPSによる位置が表示されるので、ダイバーはその表示をVHF無線でボートに伝えてもよいのです。
後は待つだけ。
いわば船舶用の緊急信号と無線装置をダイバーが海の中に持ち込める耐圧構造にした、大変心強い安全グッズであります。
もちろんヨットや、ウィンドサーファー、水上バイクといったマリンスポーツにも使えます。

ダイバーにとっては、この願ったりかなったりの連絡装置を発明したのは、カナダのブリティッシュコロンビアのツアーボートのキャプテン、マイク・レヴァーさん。
前々から誰かを置き去りにするのではないかと悪夢に目を覚ますことが多かったとか。
その悪夢の解決策がこのノーチラス・ライフライン。

もともとこのVHF無線というシステムは、アメリカなどの小型のレジャーボートやヨットなどの、ごくポピュラーな通信システムとして普及しており、いわばトランシーバー的に使われています。
多くが防水機能のついたポータブル型ですが、その簡易無線システムを、さらに水中持ち込みOKの耐圧モデルにしたのが、このノーチラス・ライフラインであります。

水面でダイバー同士で話ができることにもなります。
流された、はぐれたといったケースばかりではなくても、水面で体調が悪くなった、すぐに支援がほしいといったときにも、連絡手段として使えそうです。

アメリカ国内では識別信号のための登録が必要ではありますが、オンラインで簡単に手続きができるようです。

DANアメリカのオンラインショップの、安全グッズの目玉として大々的に取り上げております。
価格は299ドル。他のダイビング機材の通販サイトでも、なぜかどこでも、299ドルであります。

とまー、一見よいことばかりでありますが、メーカーのサイトでは日本にもディーラーがあるとされていますが、ダイビング現場ではあまり見かけません。
なぜか。

実際にこれを日本国内で使おうとすると、難題続出なのであります。 
 
まず、このノーチラス・ライフラインは、日本の法律では、VHFはあくまでも船舶無線、無線局として申請しなければならず、したがってそれなりの海上無線技術士の資格がいるわけであります。
しかも、ボートの付属設備として認可される。
つまりボートと同じ海に浮いているといっても、ダイバーが申請しても許可で出ないのです。
ポータブルであることが最大の特長なのですが、日本では、このVHF無線は船舶を対象にしているためにポータブルでは、認可を得るのが難しいらしいのであります。

では無線資格を持ったダイビングボートの船長さんがこのノーチラス・ライフラインを、無線局を申請して、開設するとしましょう。
このポータブル無線機を他のボートに持ち込んで使うのが、これまた違法なんですな。
ポータブル無線機なのに、ボートから移動させてはいけないというわけです。

こで使われるVHF無線というのは、船が比較的近距離で使う国際的なチャンネルだし、また識別信号も国際的な信号であります。
本来は世界的に共通な手続きで使えなければおかしいのですが、そこはそれ、規制というお役所目線の文化風土の日本であります。
ダイビング遊びの安全器材ごときに、そう簡単には電波は使わせてはくれません。
 
それどころではありません。 法律を厳密に解釈すると、使おうと使うまいと、認可を得ないで所持するだけで法律違反となり、かなりのペナルティーが科せられるようです。

一言で言えば、ダイバーなどに勝手に無線局など開設されたら、示しがつかぬということのようです。
たぶん日本の電波の管理当局には、始めからダイビングの安全のために、電波を使うという考え方がないのでしょう。
本来のこのVHF無線のレジャーの安全システムという考え方が、日本の電波管理の中では、消えうせてしまったようです。

ダイバーにとって大切な緊急用の酸素キットの事情もよく似ています。
アメリカ国内なら、立派なペリカンのハードケース付きで最も小型のシリンダーのキットで500ドルほどからありますが、日本ではなんと4倍、20万円ものお値段であります。
医療用の呼吸装置としての認可条件、また酸素シリンダーやバルブの日本の規格条件をクリアーさせるための手続きとそのための経費がかかるというのがその理由のようです。

しかし日本医療用、あるいは工業規格が厳しいからといっても、アメリカ国内だってそのためのコストは当然含まれているわけです。
法律的な規制を理由に、価格の高値安定をさせようとするグループがあるとしか思えません。

普及することが命を救うのですが、取り扱い上のトラブルのほうが問題視されるのですね。

買える安全は買うべきだと、このヤドカリ爺は信じておりますが、この法律的な規制が、安全をあがなう大きな障害になっております。
  
このノーチラス・ライフライン、ドリフトダイビングのグループの誰かが1台持つだけでも、海の上で迷子になるリスクは大きく減じるのははっきりしているのですが、こんな法律の壁が邪魔をするのです。

確信犯として、違法は覚悟で、みんなが使って、現実的な問題として提起するという策もあるのでが、持つだけで法律違反というのでは、これには勇気が要りますな。
それでも、私はお客さんのために断固使うぞって、ボートオペレーターのお方はいらっしゃいませんかな。

それまでは、編集長がおススメしている、レーダーフロートに頼るしかなさそうですな。

レーダーフロート
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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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