ハナヒゲウツボ&ダイビングで見られるウツボ10選~華麗なる「海のギャング」とその仲間たち

ウツボは海の危険生物として嫌われ者。しかし、その仲間の中で例外的に超人気者なのがハナヒゲウツボ。その華麗な姿を見れば誰もが納得! 今回は、そんな「世界一美しいウツボ」をクローズアップしつつ、ダイビングでよく見られるウツボの仲間10種を紹介します。
ハナヒゲウツボの特徴と魅力を探る

巣穴から出ている部分はとても華奢。この個体の太さはせいぜい2cmといったところ
ハナヒゲウツボの基礎知識
ハナヒゲウツボは、名前の通りウツボの仲間。でも、「強面」とか「不気味」「危険」、という一般的なウツボのイメージからはかけ離れています。なんといっても、青いボディにイエローフェイスという鮮やかな配色が美しい。
そして、鮮やかな体色とともに目を引くのは、上アゴの先端にある1対の「花びら」でしょう。これはハナヒゲウツボに独特の形状で、ほかの種類では小さな突起にすぎません。この「花びら」の先には、前鼻孔という鼻の穴が開いています。
ハナヒゲウツボは通常、岩の隙間や砂泥の穴から顔だけのぞかせ、いつも口を大きく広げています(アゴが疲れるのではと心配)。その顔はとても小さく、「首」あたりの太さもせいぜい2~3cmといったところでしょうか。
分布は広く、インド・太平洋の暖かい浅海で暮らしています(ただしハワイ諸島、ジョンストン島を除く)。日本でも串本(紀伊半島)や柏島(四国)などから記録はあるものの、よく見られるのは奄美大島や沖縄などのサンゴ礁でしょう。個体数は多くはありませんが、現地のダイビングガイドが居場所を把握していることが多いため、海中で会うことは難しくありません。
ハナヒゲウツボは、その顔だけ見ていると小さい印象。でも、全身をさらすと意外と大きい(長い)ことがわかります。このリボンのように優美な姿から、英語圏ではRibbon eel、Ribbon morayと呼ばれています(eelはウナギ、morayはウツボ)。

全身をさらしたハナヒゲウツボ。成長すると1.2mほどになる。ひらひらした黄色の背ビレをくねらせ泳ぐ姿は、まるで新体操で使うリボンのようだ
成長につれて変わる体色

幼魚期とされる個体。黒い部分は成長につれて青くなっていく
海の中で見かけるハナヒゲウツボの色は、たいてい青です。でも、たまに黒い個体や、まれに黄色も観察されます。あまりにも色彩が異なるため、かつては別の種類と考えられていましたが、飼育下の個体で「色変わり」が観察され、同種と判明したそうです。
つまりハナヒゲウツボは成長につれて色が変わり、幼体のうちは黒く、大きくなると青くなり、さらに黄色へと変化するというわけです。


ペアの組み合わせはいろいろ

非常に珍しい「黄×黄」というペア
さらに興味深いことに、ハナヒゲウツボは雄性先熟の性転換を行うことが知られています。
雄性先熟とは「最初にオスとして成熟する」という意味で、『日本産 魚類検索~全種の同定』によると、ハナヒゲウツボは「性転換に伴い体色は黒色(未成熟期)→青色(雄相)→黄色(雌相)と変化する」と書かれています。
「雄相」「雌相」とはまた小難しい単語ですが、なぜオス・メスと断定していないのか不思議ですね。おそらく、ボディカラーと体内の性生殖腺(卵巣、精巣)の変化が必ずしも一致していない、あるいは確認できないからでしょう。
実際、自然界で見られるハナヒゲウツボのペアは、雄相(青)と雌相(黄)の組み合わせとは限りません。
水中写真の画像や現地ガイドの目撃情報によると、青と青のペアが最も多いようです。この2尾の性生殖腺は、「2尾とも精巣」「どちらかが卵巣に変化しつつある」「片方は姿が青いまま既に卵巣に変化している」など数パターンが推測されます。けれど、実際どうなっているのかは、解剖してみないことにはわかりません。
希少な種類のうえ、ダイビングポイントでハナヒゲウツボを採集するなどという行為は現実的ではないでしょう。研究が進まないのは、そんなことも関係しているのでしょう。



なお、雑誌『マリンアクアリスト』No.96(2020年)には、「青いハナヒゲウツボを解剖した結果、予想に反して発達した卵巣が観察された」という読者レポートが載っています。読者といっても、日本大学(生物資源科学部)の院生と学部生の手によるものですから、なかなか興味深いですね。