中村卓哉 “写真絵本”発売記念インタビュー

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第6回:辺野古・大浦湾の“写真絵本”に込めた思い(1/3)

いぬたく

お話をうかがっていると、ご自身の写真作品や写真家という職業を媒介として、人に何かを教えたり伝えたりするっていうことがもともとお好きなんですね。

中村

はい、撮る時もいつもそれを考えて撮るようにしてます。
沖縄にいた時はそういうのはなかったんですけれどね。沖縄生活時代は、まず自分が撮りたいものをどういう風に撮るかを考えて毎日潜っていて、今は撮る段階でどのように伝えるかっていうことを考えてシャッターを切ってます。

水中カメラマン・中村卓哉インタビュー

中村

例えば、3月に写真集が出るんですけど、その写真集ではターゲットを小学校低学年から大人までという幅広い層にしてるんです。
まず子どもたちに分かりやすい言葉で分かりやすい写真を、ということが頭にありました。だから撮るものもそれによって変わってきますよね。ダイバーだったらもうちょいこういうのが見たいだろうけど子どもちには分かんないよね、という風に、真っ先にその伝えたい相手ありきで。

いぬたく

ではその写真集のお話に入るんですが、辺野古の海がテーマですよね。今回の写真集を作られようと思ったきっかけはどういったことだったんでしょうか?

中村

辺野古・大浦湾に潜った理由なんですけれど、僕が沖縄に移住して生活していた時代は西海岸ばかりにダイビングスポットが集まっていて、北部や東海岸には全く行ったことがなかったんです。
それが連日ニュース報道で普天間基地の移転先が辺野古に決定した、と。その飛び込んでくるニュースを見て、自分は行ったことないし、まずどういう海か知らないので、純粋に興味が湧いたんですね。空撮とか陸から見た画しか、報道番組では出ないんです。海を守ろうと言ってるのに、海の映像が出てこないんですよ(笑)
なので、じゃあ海の中はどうなってるんだろう、潜ってみたい、という思いで通うようになりました。

いぬたく

その当時(2001年頃)って、全国どこでもそのニュースが流れていたと思うんですけれど、ちょうどその時に中村さんはその現場に潜れるところにいらっしゃったんですね。

中村

そうですね、たまたま沖縄にいたという。しかも自分が育ててもらった、子ども時代に初めて潜った海も沖縄だったりで。
それで実際に撮っているうちに、いろんな興味が湧いてきたんです。辺野古・大浦湾の海はすごく豊かで生物多様性の海って言われてるんですけども、じゃあこの海の豊かさってどこから来るんだと。他の西海岸の海とはどこが違うんだろう、と。
この大浦湾っていう湾は、深く切れ込んだ形をしてるんですね。これは沖縄本島ではすごく珍しくて、だいたい湾奥まで浅い湾が多いんですけども、大浦湾は深くラッパ状に切れ込んだ湾の形をしていまして。

(大浦湾の地形)
辺野古・大浦湾の地形

中村

潜ってみると、砂地から、藻場、珊瑚礁と、海の色のグラデーションがどんどん変わっていくんです。僕は全部ビーチから潜って撮っているんですけど、片道30分くらい泳いだりするんですね。その間に、海の色が緑色から始まって、薄い茶色の部分もありますし、だんだんエメラルドグリーンから深い青に変わっていく。
1本の中のダイビングでこれだけ海のグラデーションが変化する海って、自分はなかなか見たことなかったんです。

いぬたく

同じビーチからでもそんなに変わるんですね。

中村

なんでこういうグラデーションになるかというと、その環境が違うんですね。生物の棲み分けができているということ。
じゃあなんでこういう海ができているんだろう、その源は何だろうと調べると、周りに囲まれているやんばるの山、その山の上流から栄養分が運ばれてきて、この海を豊かにしてるんだろう、と。そこでその山へ行きたいと思ったんですね。
ですから、今回の写真集では山から順に、川、滝、マングローブ、干潟、砂地、泥場、藻場、そして外洋の珊瑚礁まで、どんどん変わる水の色を見てほしいんです。清流の透き通った色もあるし、マングローブを通る川の色は深い緑だし、海の中でも青さがどんどん変わってくるし。
写真集を印刷する時に、色に関しては「もうちょっとパキッとしたり青くしたら綺麗になるんじゃないの?」と言われたんですけど、いやいや、それはやめてくれ、と。ナチュラルな色を表現したいので。その水の色というのは栄養分が含まれて、海だったら太陽光がプランクトンに反射してできたその海の色なので。
その場所の色だからまずそこにこだわってナチュラルな色に表現したいという思いがあります。

水中カメラマン・中村卓哉インタビュー

いぬたく

中村さんがSEA&SEAさんの動画で海女さんの話をされていて、それが印象的だったのを思い出しました。

中村

そう言えばそんな話もしましたね。

いぬたく

ダイバーとも比較しての話だったんですけど、海女さんって暮らしがかかっているので、自分の漁場に対して愛情の度合いが違うっていう話で。言い換えると、海に対する行動が違うということで、海女さんは海を守るために山に木を植えるところから始めるっていう話がとても印象的だったんです。
今おっしゃっていた大浦湾のお話と通じることで、まさに周りの木や森と海の繋がりっていうお話ですよね。

中村

そうですね、はい。
例えば人間の体で言うと、酸素や栄養を運ぶのって血管じゃないですか。大浦湾でも、栄養分を運ぶのは川の役目なんですね。川が寸断されてないんですよ。山から海へと全部繋がってるんです。
でも今は沖縄でも、山と海が繋がってる場所ってあんまりないんですよ。全部開発とか護岸工事とかされていて。一応繋がってはいても、例えば滝がなかったりとか。滝壺ってプールになっていて、水の流れを抑制する役割を果たしているんですよね。速い流れからプール状のところに溜まって、流れをゼロにする。そこから流れをまた新たに生み出していく。そうすることによって、大雨が降った時も赤土が一気に海へ流れ込むのを防いだりとか、一つ一つ意味があるんです。
ちょっとね、これ長い話になっちゃうんですけど(笑)

いぬたく

はい、いくらでも話してください!

中村

話が飛んじゃう癖があって(笑)

※海女さんの話は、この動画の冒頭に出てきます。

中村卓哉 “写真絵本”発売記念インタビュー

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