美しいけど猛毒を持つ「カツオノエボシ」に注意!刺されたフリーダイバーのリアル体験談

毎年、海水浴シーズンになると耳にするのが青い鮮やかな浮き袋が特徴のクラゲの一種、「カツオノエボシ」。今年も早速、各地で出現情報や被害情報が続出。そこで今一度、カツオノエボシの危険性や対処法についてまとめてみた。さらに先日、実際にカツオノエボシに刺されたというオーシャナにも寄稿する、フリーダイビングインストラクターの武藤由紀氏(以下、武藤氏)のリアルな体験談から、カツオノエボシについて学んでみようと思う。

カツオノエボシとは

カツオノエボシは、クダクラゲ目カツオノエボシ科に属する生物。クラゲのような見た目で刺されると強烈な痛みに襲われるため別名「電気クラゲ」とも呼ばれているが、実はヒドロ虫という個虫がたくさん集まって形成された群体だ。カツオノエボシは美しく鮮やかなブルーの体色をしており、浮き袋の見た目が烏帽子(えぼし)に似ていることから、カツオノエボシと呼ばれるようになったそう。泳ぐ力はほとんど無く、水面付近を漂っており、一見ビニール袋が浮かんでいるように勘違いしてしまう。出現場所は日本各地の沿岸で、出現時期は春から秋頃が多い。

カツオノエボシの危険性

カツオノエボシの触手には猛毒の刺胞があり、触れると微小な毒針が発射され、毒液が対象物に注入される。刺されると電撃を受けたような鋭い痛みがあり、赤い痕やミミズ腫れが生じて痛みが数時間続く。そして、最も怖いのが、アナフィラキシーショック(※)だ。アナフィラキシーショックは頭痛、吐き気、呼吸困難、脈拍不整等の全身症状が生じて死に至る場合もある。また、激痛によりパニックに陥ることで溺れる恐れも。浜辺に打ち上げられて死んでいるカツオノエボシも、触れると刺激に反応して毒針が発射されることもあるそうなので、見つけてもけして触れないよう注意していただきたい。。

※アナフィラキシーショック
アレルギー反応によって、複数の臓器に症状が強くあらわれる状態をアナフィラキシーと呼ぶ。特に、血圧が低下して意識の低下や脱力をきたすような場合を「アナフィラキシーショック」と呼び、直ちに医療機関で適切に対応を進めないと生命に関わる重篤な状態。
浮き袋は13cmほどで触手は1m(最長で50m)前後もある

浮き袋は13cmほどで触手は1m(最長で50m)前後もある

以下は、国土交通省から発表されているカツオノエボシに対する予防策と刺されたときの対処法と応急手当てについて。

刺されないための予防策

  • ●公園や自治体からの情報を確認する。出現情報がある場合、海へ入る際にはウエットスーツ、ラッシュガード、シャツ、スパッツ等を着用し、肌の露出を避ける
  • ●刺胞にある刺糸は短いため、薄手のシャツ程度の厚みがあれば皮膚まで届きにくい
  • ●見つけても触らない。触手のみが切れて海上を漂っていることもあるため、浮遊物に不用意に触らない
  • ●海岸に打ち上げられ、死んだ個体でも、数週間は刺胞が活きていることがあるため、触らない。台風等の悪天候の翌日は漂着が多くなるため、特に注意する

刺されたときの対処法

  • ●被害者が水中にいる場合は、すぐに陸地に上げる
  • ●ショック症状がある場合は、救急車を手配する等して、すみやかに医療機関を受診する。呼吸停止・心停止に陥った場合は心肺蘇生を行う

応急手当

  • ●触手が残っていれば、こすらずに、ピンセットや細い棒を使ってつまんで取り除く
  • ●触手がまとわりついて取り除きにくければ、海水をかける、又は海水中に浸して取り除く。
  • 酢や真水、砂はかけない。酢は未発射の刺胞を不用意に発射させて症状を悪化させる恐れがあり、真水は浸透圧の差によってさらに毒が体内に流れ込みやすくなってしまう。砂は毒針を肌に擦り込んでしまう。
  • 患部を40~45℃の湯につけるか、冷やす。
  • ●医療機関を受診する。診療科は医療機関の指示に従う。

参照:カツオノエボシ科|生物被害対処ガイド

カツオノエボシに刺された武藤氏の体験談

ここからはカツオノエボシに実際に刺されてしまったという、武藤氏のリアルな体験談を紹介。武藤氏が地元である神奈川県葉山町の沖合でフリーダイビングレッスン中にその事件は起きた。

レッスンも終盤に差し掛かり、武藤氏がシュノーケルを外して、大声で「さぁ、みんな、この辺りで折り返しましょう!」と発声した瞬間、波と一緒にカツオノエボシの触手が口の中に…。さらに、口の中に入った触手を払い除けようとした手(素手)も刺されてしまった。

刺された瞬間、電流が走ったような激痛が。 “怪我などでは経験したことがない、焼けつくような毒特有の痛み”だったそう。その後、次第に患部が痺れてきて、激痛は尚も続く。武藤氏を刺したカツオノエボシは、すぐ目の前を漂っており、しかもフロートとウエットスーツに絡み付いていた。一人ではどうしようもなく、防寒対策としてグローブしていたレッスン参加者が協力して、剥がしてくれた。このとき「一人で海に潜ってはダメだと再認識した」という。武藤氏だけが刺されたため、「せっかくのレッスンを自分のせいで中断なんて」と流石に一瞬迷ったそう。しかし、ベテランの参加者の方々が「すぐ帰りましょう!」と先陣切ってくださったので、その言葉に従ったという。いざというときのためにレッスンに持参しているフロートに、お世話になりながら岸まで泳いだ。

Point!刺された直後

  • ●刺されたとき、近くに触手や浮き袋が漂っているので、まずは周りを観察し、触手を取り除くか、もしくはその場を離れることが大事
  • ●水中で刺された場合は、アナフィラキシーショックで意識を失ったりする危険性もあるため、すぐに陸に上がる
  • ●患部に付着した触手を海水で優しく洗い流す必要があるが、今回は岸に戻りながら手をヒラヒラとさせ、自然に洗い流した

レッスン参加者とともにすぐさま陸に上がり、その頃には患部が腫れ、約3時間、痛みと痺れが続き、しばらく言葉が出なかったという。クラブハウスに向かって歩きながら、できるだけ熱いお湯をかけた。「今後は、上がってすぐかけられるよう水筒にお湯を持参しよう」と振り返る。

その後、保冷剤を用いて1時間くらい全力で冷やしながら、虫さされ用クリームタイプのかゆみ止めを塗ったが、まったく痛みと腫れが引かなかった。病院に行き、温タオルで温めたら、次第に痛みが引いてきた。

Point!陸に上がってから

  • ●お湯(40~45℃程度が目安)をかける
  • ●すぐに病院に行く。海水浴場ならまずは監視所または救護所へ。適切な一時処置をより早くしてもらえる

その後、念のため、武藤氏は近くの病院へも行き、適切な対処の仕方を教えてもらった。武藤氏はカツオノエボシに刺されたことについて、こう振り返る。

カツオノエボシは浮かんで漂って生きているだけなのだから、人間を刺してしまう行為に悪気はない。だから海に入らない・近づかないことが一番の予防策ではある。けど、それを承知で海に入りたい人は、ウェットスーツだけでなくフードやグローブも着用して、なるべく肌を露出しないことが大事。

そして海には1人で入らず、バディ同士で入ることも、素早い対処につながる。今回の場合、1人ではフロートやウェットスーツに絡みついた触手を取れなかったし、万が一沖合でアナフィラキシーショックになっていたら取り返しもつかないことになる。

事前に知識を持っておくことも必須。海でパニックになると溺れる可能性もあり、非常に危険。海には毒を持つ生き物がいて、刺される危険性があることを念頭に置けば、刺された場合でも、冷静に対処できる。また、透明度が悪かったり、白波が発生している海の場合は、カツオノエボシの出現により一層注意し、海に入ることを中止したり、途中で引き返す選択肢を常に持っておく。

武藤氏のその後はというと、適切な処置が功を奏し、大事には至らず、すぐ海に入れるようになった。しかし現在も手の甲には赤い跡がうっすらとあるという。人によっては数年跡が残ったりするそうだ。

武藤氏のFacebookには「今回は幸い、周りにいた参加者にベテランの方々が多く、素晴らしい連携プレーのおかげで迅速な対応ができました!ほんと感謝。職業柄、トラウマどころか良い経験値となり、より一層海への理解が深まったというか何というか。海はそもそも人間が住む場所ではなく、人間には危険がいっぱいの場所。それを承知で、そっと慎重に楽しませてもらい、何より安全に陸に戻ってくることを大切に、楽しい2022夏にしましょー!」と投稿されている。

カツオノエボシの毒は、時にショック死まで引き起こしてしまう恐ろしいもの。肌の露出を避けるなど、できる対処を行い、海中でも浜辺でも注意しながら海のレジャーを楽しんでいきたい。

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PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
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