自分の身を守るのは、自分自身〜「血の洞窟」の死亡事故を考える 前編〜
2012年6月30日、イタリアでダイバー4人が溺死。
ポイント名の「血の洞窟」がキャッチーだったことも手伝って、Yahooニュースのトップでも取り上げられ話題となりました。
本誌連載のテックダイバー田原浩一氏のコメントをご紹介すると共に、この痛ましい事故からダイバーが得られる教訓を考えてみます。
まずは、ニュースの全文を引用します。
(CNN) イタリア南西部のリゾート地パリヌーロ近郊の人気ダイビングスポットで、洞窟に潜っていたダイバー4人が出口を見つけられずに溺死した。沿岸警備隊が明らかにした。事故が起きた洞窟は岩肌が赤く見えることから「血の洞窟」と呼ばれ、観光客にも人気のスポット。
死亡した4人は30日にこの洞窟に潜って方向を見失い、行き止まりになっているトンネルに迷い込んで遺体で見つかった。
一緒に潜った他5人は無事だった。沿岸警備隊によると、死亡したのはギリシャと英国の出身者が各1人と、ローマから来た2人。
検察は事故原因やダイビング機材に問題がなかったかどうかについて捜査を命じた。洞窟を脱出して無事だったダイビングスクール経営者のマルコ・セバスティアーニさんは地元紙に対し、「ガイドが突然パニックを起こした。その時点で既に洞窟の中に入り込んでいて、どんどん奥へと進んでいた。私が先導しようとしたがもう遅かった」「気が付いたら何も見えないトンネルの中にいた」と振り返った。
経験の少ないダイバーを中心にパニックが広がり、泥と砂が舞い上がって視界が失われたという。セバスティアーニさんは一行を率いて出口を探し、光の見える方向を目指して泳ぎ進んだ。
ようやく浮上した時点で4人がいないことに気づいて探しに戻ったが、発見できないままタンクの空気が底を突いたという。パリヌーロ周辺の洞窟はアマチュアダイバーに人気の潜水スポットで、一帯の国立公園はユネスコの世界遺産に登録されている。
CNN.co.jp:「血の洞窟」でダイバー4人溺死、出口見失いパニック イタリア
以上が、全世界に最も多く配信された記事だと思われます。
ただ、この記事によれば道に迷ってパニックになり、さらに泥の巻き上げが起きて視界が失われたと書いてありますが、その後の当局の発表にはこう書かれています。
「a group of eight or nine divers originally entered as planned but became disoriented — after kicking up mud and sand from the ocean floor — and missed the exit to the cave, instead entering a nearby tunnel which led to a chamber with a dead end.」
(訳)
「ダイバー8〜9人のグループは、当初の予定通りに洞窟に入っていったが、水底の泥や砂をキックで巻き上げた後に混乱状態に陥った。そして、洞窟の出口を見失い、近くのトンネル、つまり、死を招くことになった行き止まりのトンネルに入っていった」
これを読むと、泥や砂の巻き上げが原因でパニックになったと読める気もします。
また、地元のダイビングショップオーナーのロベルトナバラ氏が地元紙に語ったコメントも洞窟を知る手掛かりとなりそうなので紹介します。
「It’s an easy cave but there is a dangerous tunnel that people never use」
「Four people swam into that channel.」
(訳)
「(血の洞窟は)基本的には簡単な洞窟だが、危険なトンネルがひとつだけある」
「(亡くなった)4人はそちらへ泳いでいってしまった」
これらの情報から、道に迷ってパニックになったというより、巻き上げが原因でガイドを始めとするダイバーたちがパニックになって道に迷った。
あるいは、巻き上げが原因でガイドが道に迷いパニックになったと考える方が自然のような気もします。
いずれにせよ、ダイバーの泥の巻き上げが死亡事故につながってしまったとしたら、よくある状況なだけに、少し怖い気もします。
この事故、どうしたら防げたのでしょうか?
田原さんに、ケイブダイバーの観点から注目すべき点、再発防止等に関してご意見をいただきました。
(以下、田原さんの言葉)
事故の全容を知る訳ではないので断定はできませんが、記載通りの内容であったとすれば、それはある意味、ケイブダイビングのトレーニングを受けていないダイバーによるアクシデントの典型のひとつです。
通常、一般ダイバーも進入可能なケイブを持つダイブサイトでは、ケイブの進入禁止の告知やライトの携帯禁止(外光の届かないエリアへの進入を防止するため)等のルールがあったり、ケイブの入り口に一般ダイバーの侵入を禁止するプレートを設置する等のアクシデント予防策が講じられています。
しかし、アクシデント予防の一番のポイントとなるのは、むしろ、ダイバー個々のリスクマネージメントだと思います。
リスクマネージメントの基本はリスクの認識ですが、リスクを認識するためには、認識のベースとなる知識や情報と経験、そしてそれらから導かれる想像力が不可欠です。
ケイブに進入するなら、当然、そこに潜在するリスクの認識が不可欠となるのですが、トレーニングを受けていないダイバーは、そこに潜在するリスクを認識するための十分なベースを持ち合わせていません。
従って、十分なリスクマネージメントも望めません。
結果、無事に戻れるか戻れないかは運任せ、というダイビングを行うことになります。
今回のアクシデントでは、そもそもガイドがリスクを認識できないレベルだったようですから、引率されたダイバーは本当に気の毒だったと思います。
しかし、自身の能力範囲を超える可能性のあるダイビングにトライする際は、インストラクターやリーダーの選択も含めて、慎重な検討が必要だと思います。
納得のいかない場合、確信のもてない場合はダイビングを中止する勇気も必要でしょう。
自分を守るのは、まず自分自身です。
後編はこちら。