ダンゴウオ、冬から春の海のアイドル~生態や見つけ方、愉快な仲間まで徹底紹介~

海藻の裏にピッタリ張り付くサクラダンゴウオ(写真/ブルーライン田後)

海藻の裏にピッタリ張り付くサクラダンゴウオ(写真/ブルーライン田後)

ダンゴウオという生き物をご存じですか? 冬になると日本各地の浅い岩礁などで見られる、大きさ数cmほどの海水魚です。その愛らしい姿(写真上)はとてもキュートで、寒い季節でも「海に潜ろう!」と、多くのスキューバダイバーの意欲をかき立てるほど魅力的。今回は、そんなダンゴウオについて紹介いたします。

(※注)この記事で「ダンゴウオ」として紹介している魚は、ダンゴウオとサクラダンゴウオというよく似た2種類が混ざっています。両種の違いについては本文を参照ください。

基本情報:ダンゴウオとは?

漢字で書くと「団子魚」

ダンゴウオは成魚になっても3~4cm、よく見られるサイズは2cm前後でしょうか。小さくて丸っこい姿は和菓子の団子を連想させ、そのまま和名となったようです。
英語圏ではランプフィッシュ(lumpfish)と呼ばれています。“lump”とは(かたまり)やこぶという意味で、やはり体形からのネーミングのようですね。また、ランプサッカー(lumpsucker)という英名もありますが、これも体の特徴と関連しています(下記本文を参照)。

また、ダンゴウオは尾部を曲げている姿がよく見られます。ときに胴体に沿わせるようにしており、まさにお団子! 波の荒いところや潮通しのいい場所では、より丸っこくなることで水の抵抗を少なくしているのかもしれませんね。

背ビレも伏せ、体をより丸くしている。撮影地は宮城県・女川(写真/堀口和重)

背ビレも伏せ、体をより丸くしている。撮影地は宮城県・女川(写真/堀口和重)

ダンゴウオとサクラダンゴウオ

ダンゴウオは分類学的には、カサゴ目ダンゴウオ科というグループに属しています。Fish Baseによると世界に7属30種が確認されており、日本には2属11種が生息しています(2024年12月JAFリスト)。

この記事で「ダンゴウオ」と呼んでいるのは、日本産11種のうち、ダンゴウオとサクラダンゴウオという2種類です。
サクラダンゴウオは、以前はダンゴウオと同じ種類と考えられていたのですが、2017年に新種として独立しました。
最近まで同種とされていたくらいですから、両種は大変よく似ています。形態的な相違は「眼窩間および眼窩下の孔の有無」などなので、目視での確認は非常に困難です。

比較的わかりやすい違いは分布です。JAFリストによると、サクラダンゴウオは今のところ「山形県から兵庫県の日本海沿岸,朝鮮半島南東岸,済州島」および「山口県日本海側」で確認されており(もちろん海は繋がっているので、その周辺海域にも生息していることでしょう)、太平洋側で目撃されるのはダンゴウオと考えられます。
なお、ダンゴウオの分布は青森県以南の南日本とされてます。

ダンゴウオ科は冷たい海が好き

世界に30種ほどいるダンゴウオ科の仲間は、すべての種類が北極海を含む北半球に生息する冷たい海域を好むグループ。また、北大西洋に分布するものもありますが、ほとんどの種は北太平洋に生息しています。

今回の主役であるダンゴウオとサクラダンゴウオは、比較的温暖な南日本沿岸で見られることから、レジャーダイバーにも観察しやすい種類といえるでしょう。

色とりどりの「三色だんご」

ダンゴウオの大きな魅力のひとつに、多様な色彩変異があります。オーソドックスに見られるのは赤や茶ですが、緑やピンク、紫などの個体もいます。

色とりどりのサクラダンゴウオ。撮影地はいずれも日本海に面した鳥取県・田後(写真/ブルーライン田後)

スキューバダイバーの間で初めてダンゴウオがクローズアップされたのは、今から20年以上前のこと。伊豆半島など近場のダイビングポイントでも見つかり、愛らしいうえにカラーバリエーションが豊富とあって人気に火が付いたのです。
ダイビング雑誌などでダンゴウオを取り上げる際、当時流行していた童謡から「だんご3兄弟」、あるいは「三色だんご」などと紹介されていました。

また、孵化したばかりの幼魚の頭部にはリング模様があります。まるで「天使の輪」のようにキュートで、ダンゴウオの人気はますます高まったのです。

(上)(左)上から見ると「天使の輪」がよくわかる
(下)(右)海藻の上に乗っている「天使」たち(写真/ブルーライン田後)

生態:ダンゴウオの行動や繁殖

秘密兵器はおなかの吸盤

ダンゴウオは波の荒い岩礁や、潮に揺られる海藻の上などに生息しています。あんな小さな体で、なぜ流されたり振り落とされたりしないのでしょう?
その理由は腹側を見ればわかります。

ダンゴウオと吸盤(撮影:佐藤長明)
(上)(左)ダンゴウオを腹側から見たところ。怪獣の口のように見える部分が吸盤(写真/佐藤長明)
(下)(右)吸盤で海藻にピッタリくっ付いている個体(写真/ブルーライン田後)

ダンゴウオのおなかには大きな吸盤があり、これでガッチリと体を固定しているのです。この吸盤は腹ビレが変化して生じたもので、ダンゴウオ科の仲間たちに共通した特徴です。CTやレントゲンなどで撮影すると、内部にはきちんと骨があることがわかります。

英語圏での呼び名のひとつであるランプサッカー(lumpsucker)は、この形態あるいは生態からのネーミング。サッカーには「吸盤」「吸着盤」、あるいは「吸う人」転じて「乳飲み子」といった意味があります。

小さなハンター、ダンゴウオ

こんな愛らしい姿ですが、ダンゴウオの食性は肉食。自然界では主にアミ類やヨコエビ、ワレカラなどの小さな甲殻類を食べているようです。

なかなかのグルメで、生き餌がお好み。冷凍エサや乾燥飼料はあまり受け付けないらしく、水族館ではブラインシュリンプ(アルテミア)やシオミズツボワムシなどをわかして与えることが多いようです。

孵化まで卵を守るオス

冬から春にかけてはダンゴウオの繁殖シーズン。この時期、オスの体にはメスにはない特徴が現れるそうです。

ダンゴウオ(撮影:佐藤長明)
ダンゴウオ(撮影:佐藤長明)
オス(上)(左)の背ビレはメス(下)(右)と比べて非常に大きくなる。ダンゴウオの場合、背ビレが大きいオスほどメスにもてるらしい(写真/佐藤長明)

オスが育児を一手に担う魚類は珍しくありません。例えばテンジクダイの仲間は口中で卵を保護しますし、タツノオトシゴではオスの胎内で卵が育ち、“出産”まで行います。そこまでではありませんが、スズメダイの仲間やアイナメも、卵が孵化するまでオスが外敵から卵を守り世話をします。
ダンゴウオも彼ら同様、“イクメン”タイプの魚です。

まず、メスに卵を産んでもらうための“巣穴”探しはオスの役目。巣穴としてよく利用されるのは、岩に穿孔するタイプの貝類が開けた孔やフジツボの死んだ殻など。やっと見つけても大きさが合わなかったり、すでにギンポの仲間などの先住者がいたりと、巣穴探しはなかなか大変。

気に入った孔が見つかると、溜まった砂やゴミなどを外に捨ててきれいにします。やがてメスを誘って産卵してもらうと、オスは孵化するまで卵のそばで過ごします。

(上)(左)巣穴の中で卵を守っているオス
(下)(右)別の個体の巣穴。奥には成長して(発生が進み)眼がわかるようになった発眼卵が見える。撮影地は2点とも兵庫県・竹野(写真/堀口和重)

南三陸でのダンゴウオの観察によると、産卵直後の卵はオレンジ色で粘着物質に包まれているそうです。1つの卵塊は100卵ほどで、巣穴の内壁に付着しています。このまま孵化するまで、オスが保護しているのです。

このあたりで「オスに世話を任せっきり?」「いったいメスは何しているんだ?」という声が聞こえそうですが、メスは繁殖シーズン中に複数回も産卵するとのこと。せっせと食べて栄養をつけ、次の産卵に備えているのでしょう。

「天使」のサイズは5mm弱

やがて巣穴からは、赤ちゃんダンゴウオたちが姿を現します。孵化するまでに要する日数は、水温6~7度の場合は50日間かかるそうです。もう少し水温の高い湘南・葉山の海では、30日ほどという観察記録があります。

孵化直後の幼魚たち。今まさに巣穴から出ていくところ。奥に緑色のオスの体が見えている。撮影地は神奈川県・葉山(写真/佐藤輝)

前述にもあるように孵化直後のダンゴウオは、頭部にリング模様が見られます。「天使の輪」のようで、とてもかわいらしい。水中写真や動画を撮影するダイバーには特に人気が高いのですが、大きくなると消えてしまうのが残念。
「天使の輪」が見られるのは大きさ3~5mm程度の時期だけ。とても貴重ですね。

なお、ダンゴウオの寿命は1~2年と考えられています。「天使」たちが見られる頃、その両親はすでにこの世にはいないのかもしれません。

ダンゴウオに会いに行こう!

冬から春、浅場の海藻をチェック!

ダンゴウオのシーズンは、冬から春先にかけての寒い時期。エリアや年によって状況は異なりますが、伊豆半島では12~5月くらいが最盛期のようです。東日本やサクラダンゴウオが生息する日本海側では、6~7月くらいまで見られることが多いようです。

スキューバダイビングでは、ダンゴウオは水深数mから十数m程度の浅い岩礁や根などにいて、たいてい自分と同じような色の海藻の上に乗っています。捜索場所は薄い岩のようなエツキイワノカワやピンクの石のようなサンゴモの仲間、また幼魚は特にアラメやカジメ、クロメなど「葉っぱ」が幅広い海藻の上が狙い目です。
ダンゴウオは夜行性のため、昼間はあまり動きません。根気よく探してみましょう。

ダイビングで会える海

ダンゴウオは本州沿岸から九州にかけて、各地のダイビングポイントで確認されています。関東の近場ポイントでは湘南・葉山や城ヶ島、房総半島、岩礁の多い東伊豆(川奈など)などがアクセスもよく人気があります。

東日本では南三陸(宮城県・女川、志津川など)、日本海側では鳥取県・田後(たじり)などが「ダンゴウオがたくさん見られる海」として知られています。また、少し意外ですが、熊本県・天草諸島のダイビングポイントでも毎年見られているそうです。

「でも、寒い時期に潜るのはツライなぁ」という方は水族館へGO!
ダンゴウオの仲間は人気が高く、《八景島シーパラダイス》や《新江ノ島水族館》、《鳥羽水族館》、《海遊館》など日本各地の水族館で展示しています。特に《アクアマリンふくしま》はナメダンゴの飼育に定評がありおすすめです。

ウオッチングのポイント

防寒対策はしっかりと!

ダンゴウオのシーズンは、水温が低い時期。
発見するまで、ダンゴウオがいそうな場所を根気強く見ていかなければなりません。
そのため防寒対策はしっかりと。ウエットスーツよりはドライスーツのほうがいいでしょうし、厚手のマリングローブやフード、暖かいインナーなど防寒グッズにも工夫する必要があります。

昼間でも水中ライトが便利

小さいうえに周囲の環境にうまく溶け込んでいるダンゴウオ。捜索時にも観察するにしても、水中ライトがあると便利です。
ただ、ダンゴウオは夜行性ということもあり、強い光を嫌うことがあります。ライトを照射するときは様子を見ながら、何か異変があればすぐに光を逸らしましょう。

ダンゴウオの愉快な親戚たち

3種と思っていたら実は同種?

日本にいるダンゴウオ科の魚類には、ダンゴウオとサクラダンゴウオ以外にもホテイウオ、コンペイトウ、ヒゲダンゴ、コブフウセンウオ、ナメフウセンウオ、イボダンゴ、フウセンウオ、ヒラダンゴ、ナメダンゴがいます(2024年12月現在)。

しかし2015年、非常に興味深い研究が発表されました。上記のうち3種(コンペイトウ、コブフウセンウオ、ナメフウセンウオ)が、実は同じ種類であることが飼育研究によって確認されたというのです。詳しくは下記を参照ください。

「3種のダンゴウオは同種」を飼育で確認

さらに、2017年には1つの種(ダンゴウオ)が3種に分けられました(ダンゴウオとサクラダンゴウオ、朝鮮半島の南西岸および黄海に生息する種類)。ダンゴウオ科の分類は、今後もまだ動きがあるのかもしれませんね。

ダイビングや水族館で見られる仲間たち

最後に、日本で見られる代表的なダンゴウオ科の仲間3種と、世界的に有名な海外の大型種を紹介しましょう。

大きめのコブありボディが特徴
フウセンウオ

体側にゴツゴツした大きめのコブが1~2列あり、オホーツク海や日本海北部、北海道太平洋岸、千島列島などに生息。巻貝の空き殻に産卵し、オスが保護するとされる。最大6cmほど。北海道稚内市の《ノシャップ寒流水族館》には、2013年8月20日に約5mmだった稚魚が、5カ月後には4~5cmに育ったという飼育記録がある

体側にゴツゴツした大きめのコブが1~2列あり、オホーツク海や日本海北部、北海道太平洋岸、千島列島などに生息。巻貝の空き殻に産卵し、オスが保護するとされる。最大6cmほど。北海道稚内市の《ノシャップ寒流水族館》には、2013年8月20日に約5mmだった稚魚が、5カ月後には4~5cmに育ったという飼育記録がある

親子で姿形がすっかり変わる!
ナメダンゴ

(上)(左)幼魚は一見ダンゴウオにそっくり。この個体は北海道羅臼の海で撮影された
(写真/堀口和重)
(下)(右)成魚は全身にやや尖ったコブがある。約1年で大きさ1cmに育つことが《アクアマリンふくしま》で確認されており、成魚は最大でも5cmほど。北海道沿岸からオホーツク海、千島列島、カムチャッカ半島などに分布。画像は《アクアマリンふくしま》で展示されていた個体

北日本の冬の名物、“ゴッコ”
ホテイウオ

(上)(左)“天使の輪”がある、孵化直後の幼魚。北海道羅臼の沿岸で撮影された(写真/堀口和重)
(下)(右)でっぷりした体形、ツルンとした肌質が特徴の成魚は、大きなものでは30~40cmほどになる。産卵期の2~3月前後に漁獲され、“ゴッコ”という名で流通。食感はアンコウに似ており、鍋物や汁物が美味。画像は《新江の島水族館》で飼育されていた個体

キャビアの代用品となる大型種
ランプフィッシュ

“ランプサッカー”とも呼ばれ、北大西洋の冷たい海域に広く分布。成長すると最大60cmにもなるという超大型のダンゴウオの仲間で、“セッパリダンゴウオ”という通称がある。メスは数万~20万粒もの卵を産むことが知られ、高価なキャビア(チョウザメの卵)の代用品として世界中に広く流通している

この記事を読んで「ダンゴウオに会いたい!」と思った方は、この冬ぜひダイビングへお出かけください。
なお、ダンゴウオの出没状況や繁殖行動は、その年の水温などの環境や海域によって変動します。「確実に見たい!」という方は、事前に現地ダイビングサービスにお問い合わせください。

写真提供/ブルーライン田後グラントスカルピンダイビングショップNANA

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PROFILE
東京水産大学(現東京海洋大学)在学中、「水産生物研究会」でスキンダイビングにはまり、卒論のサンプルであるヤドカリ採集のためスキューバダイビングも始める。『マリンダイビング』『マリンフォト』編集部に約9年所属した後フリーライターとなり、現在も細々と仕事継続中。最近はダイビングより弓に夢中。すみません。
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