目の前で起った事故とイントラの保身

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伊豆に潜りに行った時のこと。

海況が悪く、泳ぐのも大変で、エグジット時にラダー(はしご)をのぼるのも
ひと苦労(金ピカだったのも原因・ 笑)。
やっとの思いでエグジットしてぐったりしていると、
ショップツアーで来ていたおばさまダイバーが、
ラダーをのぼる途中、上半身だけ船上に上がったところで、
ばったりと倒れこんでしまった。

そりゃ、イントラである僕でさえぐったりするほどなのだから、
当然と言えば当然。潜ってはいけない海だった。

エグジットを手助けしようと近づくと、なんと手から大流血。
驚いて、体ごと引き揚げた後、手をよく見せてもらうと、親指の先の肉がない……。

船のヘリにただひっかけるだけのタイプのラダーだったので、
悪海況でグラグラしてしまい、船とラダーとの間に指を挟んでしまったのだ。
(船にひっかけるタイプのラダーや折りたたみ式のラダーは、
船とラダーとの接合部や折りたたむ個所に指を挟まないよう、
その個所を触らないように気をつけよう)

今回、問題にしたいのは、事故そのものではなく
(事故については発売中のマリンダイビング10月号「スキルアップ寺子屋」を)、
インストラクターの対応、態度。

応急処置をしていると、後から上がってきたショップツアーのベテランイントラは、
その様子を見 て憮然とした態度。
「救急車、呼びましょうか?」と言っても「大丈夫です、大丈夫です」と。

直後、おばさまダイバーが泡を吹いて顔面蒼白になったので、
同船の現地ガイドが船上から救急車を要請し、急いで港を目指す。
その間も、イントラから感じるのはおばさまダイバーに対する心配ではなく、
「面倒なことになったな〜」という苛立ち。

救急車が待機する港では、野次馬やら心配するダイバーやら、多くの人が集まっていて、
こちらを見守っている(やって来た船上に金ピカがいて驚いた人多数・笑)。

港に到着して、おばさまダイバーを搬送しようと、
「持ち上げるのを手伝います」と言うと、
「大丈夫です、大丈夫です、歩けますから」とイントラ。
無理矢理、立たせて歩かせようとする。とにかく大ごとにしたくないようだ。
しかし、港で待機していたガイドたちがやって来て、
サッと事故車を運びあげ、酸素を吸わせ、救急車に乗せた。

当事者のイントラも搬送や処置の手伝いもしていたが、
とにかく大ごとにしたくない、自分は悪くないという空気がありあり。
僕も「たいしたことないのに大げさにすいませんね〜」といったようなことを言われた。

仕方のない事故だったのかもしれない。
ただ、自分がゲストだとしたら、最初に自分の体裁を考えるイントラより、
心から心配してくれるイントラの方がいいのは言うまでもない。

このエピソードにぴったりの言葉がある。

“謝る”ことと”自分の正しさを認めさせる”ことを一度にやろうとすると必ず
失敗します。目的がぶれるからです。謝罪の時は今この瞬間に一番大切な
目的以外のことを考えてはいけません
(「日経ビジネスアソシエ」2006年4月4日号サイバーエージェント藤田晋社長)

謝罪を心配という言葉に変えても同じ。このイントラは、
事故者に対して、「心配」と「自分の正しさを認めさせる」ことを一度にやろうとし、
周囲の人に対して「謝罪」と「自分の正しさを認めさせる」ことを一度にやろうとした。

2度失敗しているこのイントラが、後に事故者に対して謝罪するとき、
どうなるかは言わずもがな。いや、謝罪すらしないような気もする……。

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writer
PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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