海猿が提言! 自己責任で潜るための心構え ~スキューバダイビング事故の特徴と対策~

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映画「海猿」

2016年11月12日(土)、東京海洋大学越中島キャンパスにて開催された、DANジャパン主催の「第18回安全潜水を考える会 研究集会」。

講演で行なわれた4つの演目の中から、数回にわけて、ダイバーに役立ちそうな情報を、個人的な見解も交えつつポイントのみ紹介する。
※詳細は会報誌に掲載される予定

今回は、日本の海を守る海上保安庁救難課の和多田聖さんによる、事故速報値の報告と事故防止の対策から。

スキューバダイビング事故の特徴と対策
和多田聖 係長(海上保安庁救難課)

平成28年1~8月のダイビング事故速報値

まず、平成28年1~8月に発生した、海保が認知するダイビング中における事故についての報告がなされた。

  • ダイビング中に起きた事故は27件で、うち5名が溺水などの原因で死亡。
  • 27件のうち半数以上は、寝不足などの健康状態に対する不注意や知識・技能不足などの「自己の過失」
  • 体験ダイビング中にも、レギュレーターをうまくくわえることができず、海水を誤飲するなどの事故も4件発生しており、うち1名が溺水で死亡

現場で真っ先に対応する海保からのデータは、原因を探り、事故予防を考えるうえで、とても重要だ。

ただ、原因についてのカテゴライズは、階層が違ったり、重複が考えられたりと曖昧で、カテゴリーそのものはもちろん、判断規準、判断過程の明確化についても検討する余地があるだろう。
特に自己の過失と他人の過失の判断については、訴訟の際に大きな影響を与える(人の人生を左右する)可能性があるだけに、慎重になる必要を感じる。

今回のように「自己の過失」が多いという前提からダイバー側への啓発が行なわれることにはとても意義があるが、一方で、例えば、自己の過失とされる原因である「環境に対する不注意」などは、ダイビングショップを利用していた場合、お店側が引き受けるべき範囲が含まれるかもしれない。
この辺は丁寧に個々の背景を知る必要がある。

いずれにせよ、死亡を含む事故は起こっており、気を付けられる点があったという指摘だ。

そういう意味では、むしろレジャーダイビングでなく、生き残るダイビングやその訓練で得た経験から、無駄をそぎ落とした事故対策の提言は、個人ダイバーとしてとても参考になるだろう。

以下、講演と配布資料から紹介する。

スキューバダイビング事故の特徴と対策

高い意識を持て!
■普段から気をつけておくこと

  • インストラクターも人間なので失敗することもある。よって、Cカード保有者が責任感を持ち、なにか不安があれば解消するまで器材の慣熟や知識を習得することが大切
  • インストラクターがすべて世話をしてくれるという機運を醸成せず、あくまで案内役という認識を持つ必要がある
  • インストラクターが各ダイバーの残圧など、詳細に安全管理をすることは困難。よって、ある程度は各ダイバーで安全管理をし、そのための器材の取り扱いを慣熟しておく必要がある
  • 器材に命を預けているといっても過言ではない。メンテナンスはもちろんのこと、必要な検査をしかり受けることが重要
  • インストラクターは、各ダイバーが個人保有している器材で必要な検査を受けていない場合は使わせないという判断も必要では?
  • 体調管理こそ、ダイバー本人の責任重大な事項。少しでも不安があれば決して無理しない、バディ間で不安を共有するとともに、インストラクターは無理させないことも重要
  • 水中には容易に浮遊しているような感覚があるが、心肺機能にかかる負荷は想像以上に大きく、それに耐えうる体力が必要

段取り9割!
■事前準備をしっかりすること

  • 気象、海象や潮の流れなどの地理的特徴を把握するとともに、自然に負けた時の対処も忘れずに準備しておくことが大切。自然を前にして人間の力は無力
  • バディ、チーム全体での事前ミーティングが重要。互いに知りえる情報を共有することはもちろん、不測の事態が発生した時にどうするかも共有しておくことで、もしもの時に「想定内」と思え、落ち着いた行動をとることができる
  • 海上保安庁潜水士が潜水する場合、バディや潜水士の間での打合せはもちろんのこと、小型船や陸上に配置する潜水をしない職員も一緒に、安全管理体制や緊急時の対処を含め、細かく打合せをした後に潜水している。チーム全体で不安な点はすべて明確にしてから潜水することを心がける

プチパニックは大パニックを招く!
■潜水時、もしもの時は冷静に

  • 潜水を楽しみながらも、頭のどこかで「水中にいる」というストレスを感じ、そこにちょっとしたことがきっかけで、小さいパニックが発生し、連鎖反応的にパニックが大きくなっていく。単なる足し算でなく、掛け算的にパニックが拡大していくように思う

「私は潜水中、どんなストレスがかかっても、『大丈夫、俺は大丈夫、落ち着け……』と念じながら作業していました。ストレスに負けると呼吸が荒くなったり、慌てて作業することで雑なものとなってしまい、結果的に、その作業をやり直すなど、良いことはなにひとつなかったように思います」

常に自問自答を繰り返し、
自分をブラッシュアップ

和多田

 安全な潜水とはどんな潜水でしょうか? 単独で潜水することが危険で、バディやグループで潜水するこが安全でしょうか? あるいは、空気で水深30mまで潜水することが危険で、混合ガスで水深30mまで潜水することが危険で、混合ガスで水深30mまで潜水することが安全といえるでしょうか?

潜水は通常、人間が生存できない環境で活動するものです。である以上、常に危険と隣り合わせです。一方で、普段の生活では体験できないようなものを身近に感じさせてくれる活動でもあります。

常に自問自答を繰り返し、自分をブラッシュアップしつつ、安全に注意して、事故のないように海を楽しみしょう

最後に

今回の講演は、「Cカード保有者が責任感を持つ」という、いわば「自己責任でしっかり潜ろう」というもので、そのために必要な、心構えから対策まですべて詰まったような提言だ。
ダイバー個人として、安全ダイビングに活かせることが詰まっている。

一方で、「インストラクターがすべて世話をしてくれるという機運を醸成せず、あくまで案内役という認識を持つ必要がある」という、その機運は、ダイバー側でなくダイビング事業者側が生み出しているという側面もある。
Cカード保有者が責任を持てるように、Cカード講習を正しく健全に行なってこそ、今回の海保の提言が活きてくる。

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PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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