海の生き物に深刻な被害をもたらす漁具の海洋流出。改善に向け一歩前進

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国際的な環境保護団体の「世界自然保護基金ジャパン(以下WWFジャパン)」と、廃棄物問題の解決に取り組む「テラサイクルジャパン合同会社(以下テラサイクル)」は、海洋生態系に深刻な被害をもたらす漁具の海洋への流出を防ぐべく、漁具を適切に管理し、使い終わった漁網の回収・リサイクルを促進していくための基本合意を2021年6月に締結した。今後WWFジャパンとテラサイクルは、地域の漁業協同組合や自治体などと連携し、活動を行なっていく。

日本で発生する廃棄漁網は年間5000トン…。基本合意締結の背景とは

“太平洋ゴミベルト”と呼ばれる世界最大規模の漂流ゴミのたまり場において、その総重量の46%が漁具であった(※1)という調査結果が注目を浴びるなど、近年、海洋に流出した漁具の問題が顕在化。

漁具は主にプラスチックで作られており、一旦海洋に流出すると非常に長い間存在し続け、海洋生物に深刻な悪影響を与えることから、流出漁具は「ゴーストギア(幽霊漁具)」と呼ばれている。日本でも国が策定したプラスチック資源循環戦略の重点戦略に「漁具等の陸域回収徹底」が盛り込まれ、水産庁も漁具の適切な管理やリサイクル技術の普及の必要性を挙げているのだ(※2)。

またWWFジャパンは他のNGOとともに、日本政府に対して漁具の流出防止、流出時の被害軽減、回収・再生利用の体制の確立を求めている(※3)。WWFジャパンとテラサイクルはこのような状況を考慮して、これ以上漁具が海洋に流出するのを防ぐためにも、日本国内で発生する年間推定約5000トンの廃棄漁網(※4)を適切に回収・リサイクルするための仕組みを構築することが必要だと考え、今回の合意に至った。

(※1)Scientific reports
(※2)環境省 プラスチック資源循環戦略(概要)
水産庁 「漁業におけるプラスチック資源循環問題に対する今後の取組」の公表等について
(※3)「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」成立に際してのNGO共同提言 
(※4)環境省 漁業系廃棄物処理ガイドライン

廃棄漁網を回収・リサイクルするための仕組みとは

今回の合意の下で、WWFジャパンとテラサイクルは地域の漁業協同組合や自治体などと連携し、使われなくなった漁網を回収。回収した漁網は一度再生ペレットに戻したうえで、スポンサー企業の協力を得て、再度製品化するという。なお、リサイクルされた製品の売り上げの一部はWWFジャパンに寄付される。
また、WWFジャパンとテラサイクルは、適正な管理体制と資源循環の仕組みが両立してこそ、今後の漁具の海洋流出を防ぐことができると考え、漁業協同組合や自治体などと連携し、このような回収・リサイクルといった資源循環の仕組みだけではなく、漁具の適正な管理体制を構築していく予定だ。

【協力団体・企業の募集について】
WWFジャパンとテラサイクルは現在、この活動に賛同・協力していただけるスポンサー候補を募集中だ。ゴーストギアを減らしていく本取り組みに賛同し、協力をご検討いただける団体や企業の皆様は、下記まで。
テラサイクルジャパン合同会社(bd.jp@terracycle.com)

海洋生態系に与える被害を減らそう

WWFジャパンならびにテラサイクルは、それぞれ「人類が自然と調和して生きられる未来」、「捨てるという概念を捨てよう」を目標として活動してきた。両者が協力することで、海洋生態系に深刻な被害を及ぼすゴーストギアを減らし、廃棄漁網を資源として再度活用することが可能になる。WWFジャパンおよびテラサイクルは今後、地球環境を守りつつ、資源も有効利用できる方法を共に模索していくという。

WWFジャパンについて
WWFは1961年にスイスで設立された国際的な環境保全団体。人と自然が調和して生きられる未来を築くため、現在100カ国以上で、希少な野生生物の保護や、森や海などの自然環境の保全、自然資源の持続可能な利用、地球温暖化の防止などを目指したプロジェクトを展開している。WWFジャパンは、1971年の設立以来50年にわたり、WWFの一員として活動中だ。
公式ホームページ:https://www.wwf.or.jp/

テラサイクルジャパン合同会社について
テラサイクルは「捨てるという概念を捨てよう」というミッションのもと、廃棄物問題に革新的な解決策を生み出す米国を本社とするソーシャルエンタープライズである。大手消費財メーカー、小売業者、行政などと協働し、使用済みの歯ブラシ、製品空き容器やパッケージなど、従来廃棄され、埋立地か焼却所にたどり着くしかなかったモノを回収しリサイクルする事業を現在20か国以上で展開。テラサイクルジャパンは2013年の設立以来、20以上の企業とリサイクルプログラムを実施してきた。テラサイクルは2001 年の創業以来200以上の賞を受賞し、慈善団体や学校に44万米ドル以上の寄付を行なった。
公式ホームページ:https://www.terracycle.com/ja-JP/

海に流出した漁網は、人間の目が届かないところでも違う意味で漁網の「海洋生物を捕まえる」という役目を果たそうとする。永遠に漁をやめない、やっかいものだ。漁網が捨てられる理由には海底やサンゴ、岩にひっかかりやむをえず切断したり、帰港するときに重い漁具を捨てて燃料を節約したりさまざまあるそうだが、これ以上海の生き物を傷つけないためにも、まずは使われなくなった漁網の問題を知ることから始め、漁網回収の取り組みを応援していきたい。

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PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
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