浮気をしない件
先日、実家に帰った時に母みどりに聞かされたのは、
父スズオとの馴れ初めの話。もう、何回聞いたことだろう(泣)。
母みどりが看護婦さんだった病院に父スズオが入院してきて、
天地真理ちゃん似で自称かわいいと評判だった
(劣化の仕方も同じだねって言ったら怒ってた)母みどりに
父スズオがいつも声をかけていて、
初デートの山下公園で強引に父スズオに……
あーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあー
(高速で耳を塞ぐの図)
か、勘弁してください。
すると、父スズオが横から入ってきて、
「強引に誘ったのはお前じゃなかったっけ?」
「イヤですよ〜、何も知らなかった私を強引に云々」
「もう覚えていないよ」
「照れたってダメだから」
「ふふふ」
「おほほ」
あーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあー
(高速で鼻を塞いで柴田にツッコまれるの図)
息子の前でどんなプレイだ。
自営業で仕事も一緒、休みも一緒、お風呂入る時も寝る時も一緒。24時間一緒。
小さいときからこれが夫婦の標準なんだと信じ込んでいたが、
大人になったらむしろレア種であることを知った。
一度、母みどりの知らない父スズオの〝男の人生〝を聞き出してみたいのだが、
酒が飲めないのでなかなかチャンスがない。
母みどりが「超カッコいいのに100%浮気しない旦那」とキラキラした目で言うので、
そんな気もしていたが、こっちとしては一度ぐらい浮気していないと……困る。
今は還暦過ぎたじーさんだが、30代のころの父スズオは
身長が180㎝あってヤセマッチョ。マスクもよく、稼ぎもかなりあった。
子供心に他のサラリーマンのお父さんたちと比べて何倍もカッコいいなぁと思っていた。
一方、母みどりは僕が物心ついたときから三段腹で、
劣化した後の天地真理ちゃんだった。
子供心に「これが、よく大人の男の人がいう詐欺ってやつか」と思っていた。
子供のころから、「母みどりが百貫●●であるにもかかわらず、
いい男である父スズオが浮気をしないのはなぜか?」という研究をしてきたが、
大人になったら「実はしている(もしくは、していた)」という選択肢が出てきて、
周りを見るとそれが一番おさまりがいい気もしている。
しかし、何度か父スズオへの直接調査を試みた結果、
本当にシロの可能性も結構ある気がしている。
だとしたら、なぜか?
最大のヒントは父スズオの言葉に隠されていた。
「母ちゃん、デブ!」とことあるごとに言うクソガキ和尚に、
父スズオはこう言って聞かせる。
「まだ肉屋が売れないころ、おかずが惣菜ばかりで、
毎晩油っぽいものを残さず食べてくれたんだよ」
その他、「一緒に苦労してくれる女性が本物」とか
「女性は顔じゃないんだよ」とか。
よく、夫婦とは性欲と反比例で情が深まると言われる。
その過程で、性欲を求めて情を大事にできない人が出てきたり、
情を大事にしつつ、うまいこと性欲も並行して求める人がいる。
であるならば、貧乏時代からずっと一緒に行動し苦労してきた体験で、
情の深さが性欲を凌駕した説で結論づけるのがいいのではないか?
さらに、田舎という地域性、モラルの世代性、自営業という仕事の特殊性、
父スズオの生い立ちからくる性格などからもこの説を補完し、
僕はこの研究をひとまず止めることにした。
そうか、僕の父ちゃんは、希にみる誠実で素晴らしい人物ということなんだ!
ここ数年、父スズオに対してそんな尊敬のまなざしを向けていたのだが、
ある晩、寝ていてふと昔のとあるシーンがフラッシュバック。
僕が高校生のある晩のこと。
ミシミシと音がして止む気配がない。
当時、UFOや霊にハマっていた僕は恐ろしくなって、両親の部屋へ駆け込む。
ドアを開けた瞬間、巨大なムササビが目の前で飛んだ!
わけはなく、掛け布団ごと自分のベットへ飛んだ父スズオであった。
そう、あの日、僕はいわゆる夫婦生活というものを目撃してしまったのだ。
当時の母みどりは人生で一番巨大化しているときである。
そこで、僕はふと新説が頭に浮かんできたのだ。
父スズオ、ひょっとして……
マニア?
父スズオが誠実で素晴らしいという結論が一番美しく息子としても望ましいが、
真実の追求から目を反らしていけない。
「父スズオ=マニア」という仮説に基づけば、
父スズオは浮気などする必要もないし、
巨大化はむしろ、日々奥さんが杉本彩になっていくようなものだ。
「女性は顔じゃないんだよ」という言葉も意味深に聞こえてくる。
ひょっとして、お総菜もあえてか!?
研究を再開せねばならないようだ。
最後に、息子の前で惚気るのが悪いんだと逆ギレし、
この日記が両親の目に触れないことを切に願って終わります。