オクトパスの本名

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器材を正しく理解することは正しいリスクマネージメントのための外せないポイントだ。
これはテックダイブに限ったことでなく、一般のレクリエーショナルダイビングでも、同じ。

器材に関してじっくり考えてみると、いわゆる標準的な器材構成やスキル、手順が、実はベストとは限らないことが分かる。
今回はそんな例のひとつとして、オクトパスを取り上げてみたい。

オクトパスはタコだが、ダイバー間ではレギュレーターセットの中に二つあるセカンドステージの予備の側の源氏名として定着している。
この源氏名は親しみやすいが、名は体を現すのコトワザに忠実なのは、本名の予備とかバックアップのセカンドステージの方。
つまり、このタコはプライマリーのセカンドステージが何らかの理由で使えない、使いにくくなった時のためのバックアップなのだ。

言うまでもなく、ダイビングは器材に生存を依存する活動で、かつ、器材は機械である以上、故障禁止命令への絶対服従は有り得ない。
よって、重要な器材にはバックアップが不可欠。
何かが壊れたらいきなり”生存の危機”では、レジャーとしてのダイビングは成立しない。
当然、セカンドステージにもバックアップは不可欠なわけ。

ここまでの話を前提に、いわゆる標準化された器材構成のことは忘れて諸々を考えてみよう。

セカンドステージのバックアップには2つの要素がある。

ひとつは自分自身のためのバックアップ。
例えば、前のダイバーのフィンで蹴られてセカンドステージが吹っ飛んだり、マウスピースが外れたり、エギゾーストティのトラブルでケース内に浸水があったり、デマンドレバーのピンが折れて呼吸不能になったり等、自分のメインのセカンドステージが使えない、使いにくくなる可能性はゼロじゃない。

こんな時、最小の動きで確実かつ簡単に咥えられるところにバックアップがあれば、例えば、ゴム紐のネックレスで止めて首にかけてあったら、どんなに心強いことでしょう。
逆に、探して咥えるまでに複数のアクションが必要だったり、時間がかかる保持のスタイルや、ファーストステージの左側にセットされ、持ち主本人が使おうとすると上下逆に咥えることになっちゃうスタイルはNGだ。

バックアップのもう一つの要素は、エア切れ等で、自身のセカンドステージからの呼吸が難しくなったバディ用だ。
しかし、ここで忘れてならないのは、実際のエア切れダイバーはマジ切羽詰った状態ってこと。
この状態では、オクトパスより、供給者が咥えている泡の出ているセカンドステージに視線は釘付けという場合が多い。
また、供給者がセカンドステージを渡すのに少しでも手間取ったり、渡したセカンドステージが吸い辛いかったりしたら、エア切れダイバーはパニックに陥って供給者をも巻き込む大混乱が始まっても不思議じゃない。

そう考えた上で最善の策を練ってみると、エア切れダイバーには、講習で定番の、”どこかにフックしてあるセカンドステージを探して渡す”より、自分自身が吸っている実績確認済みのメインのセカンドステージを渡す方がスムーズで確実、かつ、時間もかからない。
メインのセカンドステージをバディに渡しても、自分自身のバックアップがネックレス風に首にかかっていれば、単にそれを咥えればOKなだけだから、パニックダイバーと付き合うより、明らかにリスクは小さくなる。

さらにその先を考えてみると、エアをシェアした以降の活動で互いの体が干渉して動きにくくなることを避けるため、メインのセカンドステージの中圧ホースは余裕のある長さが欲しくなる⇒しかし、長いホースは邪魔⇒だったら中圧ホースを体に一旦巻いてから先端のセカンドステージを咥えるようにすればいいジャン、なんてゆースタイルに行き着いたりもする。
標準スタイルに囚われることなく、常に実践を想定しながら器材をとことん有効に使うつもりで頭をひねれば、結果、それがよりスムーズだったり、リスクの低いダイビングに繋がったりするもんなのである。

実際、こんなふーな道筋で考え出された器材構成は存在する。
使ってみるといわゆる標準化されたスタイルよりすっきりまとまって使いやすく、かつ、トラブル対応能力の面でも優れていることが分かる。
私自身のシングルタンクのレクリエーショナルダイビングで使う器材もこの構成だ。

田原浩一の器材構成

右出しの短い中圧ホースにバックアップのセカンドステージをセットして、ゴム紐のネックレスで首にかけ、メインのセカンドステージはロングホースと合わせる私愛用の器材構成。ロングホースは右の脇の下を通して体の前を横切り首の左側から後ろに回して口元に至る。非常に使いやすく様々な状況でメリットの多いスタイルだが、活用法を完璧にマスターしておく必要があるのは言うまでも無い。興味のある方は、まず、しかるべき指導者の元でトレーニングを。なお、左にフックしてるタンクは大きめのポニーボトルだ

次回は今回の話をベースとして標準化されている手順に関する矛盾と疑問へと話を広げてみたい。

最後にちょっとバックアップ関連の質問で、頭をひねる練習なんていかがでしょう?
ということで、質問。

水中での生存に欠かせないエアの残りっぷりを知る残圧計や潜水計画の鍵となる水深計は、超重要な器材のハズであるも関わらず標準化された装備では共にひとつしか用意されていない。
これって大丈夫?
多少の誤差には余裕を持たせることで対応可能だが、故障で誤差が極端になったり、作動自体が不良となることだって無くはない。

さぁ、この落とし前、どうつけたらいいでしょう?

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PROFILE
テクニカルダイビング指導団体TDIとサイドマウントの指導団体RAZOR のインストラクター・インストラクタートレーナー。
フルケイブ、レックペネトレーション、トライミックスダイブはいずれもキャリア800ダイブ以上。
-100m以上の3桁ディープダイブも100ダイブ以上、リブリーザーダイブでは1000時間以上のキャリアを持つ等、テクニカルダイビングの各ジャンルでの豊富な活動経験の持ち主。また、公的機関やメーカー、放送業界等からの依頼による特殊環境化での潜水作業にも従事。話題のTV ドラマ『DCU』にもリブリーザー監修として撮影に参加している。

■著書
おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書
続・おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書
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