欧米ダイバーが好きだったはずのミノカサゴを殺しまくるという異常事態

ここ数年、アメリカなどはサメの保護論沸騰であります。

確かに魚ではありますが、このサメという軟骨魚類は、いわゆる魚の硬骨魚類が、数千、数万の卵を産んで子孫を残すのに比べて、卵で生むもののその数ははるかに少ないし、カプセルを海藻に生みつけるもの、卵胎生など、えらく繁殖数効率の悪い生き物であります。

ヒレだけとって身は捨ててしまうなんてことをやっていれば、激減するのはある意味当然であります。
ややヒステリックではあるものの、すでに絶滅が目前という考え方もあって、欧米の環境保護団体、ダイビング指導団体も、プロテクト・シャークの大合唱であります。

やどかり仙人コラム

このヤドカリ爺は、毎号ナショナルグラフィックを愛読しております。
ありがたいことに近年は英語版も、日本語版も同時に刊行されるので、辞書を片手に苦労と読まずにすむようになりました。

そのナショナルグラフィックの今月号であります。
カリブの海で、ミノカサゴ、英語ではライオンフィッシュでありますが、そのミノカサゴをなんとかザメが食っております。
写真の説明文では、異常繁殖のミノカサゴを退治するために、ダイバーがスピアで射ったミノカサゴをサメに試食させているとあります。
おいおい、ずいぶん人間というのは勝手なものだと思わせる、フォトシーンであります。

ダイバーがスピアで射ったミノカサゴ
The Florida Keys&Key Westより)

20年ほど前に、どこかの水族館から逃げ出した数匹のミノカサゴが、フロリダ、バハマという海域で大繁殖、特に10年ほど前からは、他の魚が激減、サンゴ礁の生態系に悪影響を及ぼしており、最近ではこれらの国のお役所が、ミノカサゴ退治に、ほとんどお祭り騒ぎで、躍起になっているようであります。

インド洋とか西太平洋ではよく見られる、日本のダイバーには珍しくもない、おなじみのミノカサゴでありますが、ヨーロッパのダイバーなどにはやたらと人気があります。
カリブの海などにはいなかったのに、どこやらの水族館から、数匹が逃げ出して、わずか20年で環境問題までになったとされております。
最初の頃はきれいだ、可愛いー!!なんて歓迎されたようですが、たちまちにフロリダからバハマまで棲息域がひろがりました。

逃げ出した、逃げ出したといったって、水族館の水槽がじかに海につながっているわけもなく、たぶん処分にでも困って海に逃がしたのでありましょう。
また数匹を逃がしたからといって、そんなに広大な海域に広がるものでしょうか。
あるいはよほどミノカサゴに適した特異な繁殖環境があったのかもしれません。 
逃げたにしても、逃がしたにしても重大なケアレスミスであります。

悪者にされたミノカサゴですが、だいたいが穴倉に身を潜めております。
その退治のためにフロリダのお役所はダイバーにスピアガンの使用は許す、スクーバダイバーにはミノカサゴ獲りに天下ご免のご朱印状、捕獲用のビニール袋やネットを配布、さらには退治イベントだの退治ウイークだの。
フォートローダデールで80人のダイバーが1000匹獲ったの、ビミニではグループで300匹獲ったなどと競っております。
あくまでも害魚駆除であります。

大量に駆除されたミノカサゴ
PACIFIC VAYAGERSより)

その挙句の果てが、ダイバーが射ったミノカサゴを、今度は絶滅する、絶滅すると危惧されているサメに食わせてみる。
ダイバーは禁止されているスピアフィッシングで魚とりができる。
コリャ一見一石二鳥、一石三鳥でありますが、どうも全体の構図はというか、諸悪の根源は人間の身勝手であります。
どうもこの身勝手さは困ったものであります。

学術目的かアトラクションかその目的はわかりませんが、人間の身勝手で水族館にはるばるつれてこられたミノカサゴ。
外来生物の生態系とか環境への影響にもっとも詳しいはずの水族館から逃げ出して、今度は殺戮のターゲット。
まことに気の毒であります。

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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