ダイビングガイドの格言シリーズ 「“卵のガイドができて初めてガイドの卵”」
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螺旋状に産みつけられている卵
マリンダイビングフェアの際、NAUIのメンバーフォーラムに参加して印象に残った言葉があります。
“卵のガイドができて初めてガイドの卵”
静岡県・三保の海でダイバーズプロ・アイアンを営む、鉄多加志さんの言葉です。
初めて聞いたときは、「上手い!」とその語感に反応したのですが(笑)、聞いているうちに、フィッシュウオッチングの真髄が詰まっていると思い、改めて鉄さんにその言葉の真意について聞きました。
鉄さんの貴重な写真と共にご紹介します。
―――単刀直入に、なぜ、“卵のガイドができて初めて、ガイドの卵”なのでしょうか? その真意は?
卵にはスタートを予感させるニュアンスがあります。
スタートから卵の成長過程を見守る事で、一緒に自分もガイドとして成長してゆく事ができるのです。
卵は、動きません。
一度見つけてしまえば孵化するまで見守ることができますし、ネタとしても使えます。
レアモノや難易度が高くて動く生物より、まずは動かない卵を把握することで、その海のシーズナリティを理解し、定点観察をすることで、ガイドの知識の基礎固めができるからです。
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サビハゼの雄と産みたての卵
――― 失礼ながら、一般的にはマニアックな気がするのですが(笑)、ダイバーたちは卵を見て喜ぶのでしょうか?
もちろん、1ダイブ卵づくしをするわけではありませんので(リクエストがあればやりますが)、ダイバーのレベルやニーズに合わせて、卵ネタを挟んであげれば良いわけです。
それに、人間でも妊娠から出産の過程は感動的ですが、同じように、卵も何度も見ているうちに愛着が湧いてきます。
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サビハゼの成長した卵(ぴょん吉みたい)
また、ガイドとして、どうやったら喜んでいただけるかの演出も考えます。
あまり言うとネタバラしになってしまいますが、ビギナーの方には水中で細かく説明せずに生物だけを撮影させたように装い、実は卵が一緒に写っていたりすると、ログ付けの時に「こんなところに卵が!」と盛り上がります。
“ガイドも気がついていなかった”とする場合と“実は水中では教えなかったのですけど……”と付け加えるパターンとがありますが、どちらも、1粒で2度美味しい好印象を与える事ができます(笑)。
――― ここで言っちゃうと、前者はもう使えませんね(笑)。
テクニック的なことを抜きにしても、卵は生命の起源というハートフルなイメージとそのフォルムや色彩の変化が成長とともに楽しめる実像ではないかと思います。
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アズマケボリの卵
総括としては、卵は年がら年中、海の中にあって、それに気が付くか気が付かないか、あるいはガイドのネタに使うか使わないかの差です。
こんなに、たくさんの発信すべきアイテムがあるのに使わない手はありません。
それを利用できない事自体が、ガイドの卵にすらなれない、悲しさですね。
――― 最後に、鉄さんのフィールド、三保の海の魅力は何ですか?
他のダイブサイトでは、遭遇率の低い生物や水深が30~40m近くになってしまうような場所に生息する被写体が、20m台前半で観察できます。
透明度にコダわらなければ(笑)、年間でクローズになる日が少ない事も魅力の一つに数えられます。
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アユの産卵
↓
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アユの孵化寸前の卵
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三保を特集した、2009年のウェブマガジンはこちら!
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日本のように四季があり、通える海でのフィッシュウオッチングでは、その四季の変化や生命のドラマを楽しむのが醍醐味のひとつ。
ガイドはただの案内人の領域を超えて、海のドラマを手がける演出家となり得ます。
鉄さんの言葉は、まずは、ドラマの素材となるべき何かに気づける感性やアンテナ、年月をかけてじっくり観察・対峙することが大事なのだと教えてくれているのかもしれません。
■ボウシュウボラが産卵した卵塊の中で動くベリジャー幼生
■鉄 多加志
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「ダイバーズプロ・アイアン」のほか、東海大学・海洋フロンティア教育センター講師や「ガイド会」事務局長を務める