ヒヤリ・ハット体験がないのはプロダイバー1%、一般ダイバー27%。その差とは?
こんにちは。高野です。
皆さん、初潜りはお済みになりましたか?
さて、今回は連載の第1回目となります。宜しくお願いします。
そもそも私のダイビングに対する研究は、私自身が仕事として講習やガイドを行う中で感じていた、「いくつかの疑問」から始まりました。
インストラクター仲間と話す中、その疑問は他のインストラクターも感じていましたが、答えは出ずに仮説止まり。
しかし、ある時TG大学のK教授と飲みながら、疑問について自分の思うところを話していると、「高野君の言っていることは分かるけど、それは君が思っているだけかもしれないよ。それを明らかにするためには、evidence(根拠)が必要だよ。」
その言葉が切っ掛けで、スポーツに関するプロモーションやマネジメント、そして研究方法を学ぶことになり、私の研究人生(ちょっと大袈裟ですが…)が始まりました。
(きっかけをくださったK教授には、今でも大変感謝しております)
ハインリッヒの法則に基づく
ダイビングのヒヤリハット調査
ハインリッヒの法則とは、1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するというもの。
【分析の概念】
研究は、ハインリッヒの法則に基づき、SCUBAダイビング(以下、ダイビング)に関する事故事例を3つに分け、
「一つの重大な事故=ダイビングの裁判事例」
「29の重大な事故=ダイビングの事故事例」
「300のヒヤリ・ハット=ダイビング活動中の陰に隠れた事故事例」
と捉え、調査・分析を行いました。
ハインリッヒの法則概念図
ヒヤリ・ハットとは : 危険な目に遭いそうになって、ヒヤリとしたり、ハッとしたりすること。重大な事故に発展したかもしれない危険な出来事のことを意味します。
ここでは、私が感じた「いくつかの疑問」について、主にダイビング活動中の陰に隠れた事故、いわゆる「ヒヤリ・ハット」の調査・分析結果をもとに、考察したことをお話しさせていただこうと思います。
ダイビング活動中のヒヤリ・ハット調査は、平成24年9月1日~30日までの間、静岡県所在のダイビングスポット10ヶ所にて、訪れたダイバー(インストラクター134名、一般ダイバー451名)の方々にご協力いただき、質問紙にて行いました。
※調査:筑波大学体育系倫理審査委員会承認(体24-56号)
質問紙年齢別回答者
ご支援、ご協力をいただきました皆様には、この場をお借りして、心より御礼申し上げます。
それでは、ダイビング活動中にヒヤリ・ハットを感じたことのある方が、どのくらいいたのか。
ここでのダイビング活動中とは、器材のセッティングから器材を片付けるまでとさせていただきました。
インストラクターとダイバーのヒヤリハット体験
まずは、インストラクターから見てみましょう。
■ヒヤリ・ハット経験の有無(インストラクター)n=134
インストラクター134名中、ヒヤリ・ハット経験なしの1名と未回答の4名を除いて、
129名(96%)の方がヒヤリ・ハットを経験していることが分かりました。
次に、一般ダイバーの方のヒヤリ・ハット経験です。
■ヒヤリ・ハット経験の有無(一般ダイバー)n=451
一般ダイバー451名中、ヒヤリ・ハット経験なしの122名と未回答の5名を除いて、324名(72%)の方がヒヤリ・ハットを経験していることが分かりました。
ヒヤリハットに気づくために必要なこと
皆さんはこのデータを見て、予想通りでしたか?
それとも予想より多かったですか? 少なかったですか?
インストラクターのほとんどがヒヤリ・ハットを経験しているのに対して、一般ダイバーの27%がヒヤリ・ハットを感じたことがないと回答しています。
一般ダイバーの方の経験本数と、ヒヤリ・ハット経験有無のデータを掛け合わせて見た場合、初心者のダイバーは、101本以上のベテランダイバー(101本以上でベテランと言えるかどうかは、ここでは触れないようにしますが…)に比べて、ヒヤリ・ハット経験が少ないことが分かりました。
ここから言えることは、
- 1.安全などに配慮し、ヒヤリ・ハットを感じるようなダイビング活動はしていない
- 2.「自身がヒヤリ・ハットを経験していることに気がついていない」
という可能性が考えられます。
気がつかないのには様々な要因があると思いますが、「初心者だから仕方がない」で片付けてしまうのは、ちょっと怖いですね。
では、気がつくためにはどうしたらいいのでしょう?
一般的には、
- 1.時間にも、気持ちにも余裕を持ったダイビングを行うこと
- 2.無理はしないこと
- 3.基礎となる知識や技術を身につけていること
- 4.経験を積むこと
などでしょうか。
いずれにしても、自身でヒヤリ・ハットだと気づける目を養うこと、ヒヤリ・ハットにならないように心掛けること、そして自身が他者に対してのヒヤリ・ハットにならないことが必要だと思います。
しかし、ここで忘れてはいけないことは、現在当たり前のように行われている講習やガイドの仕組み、そしてそれを行っているインストラクターやガイドがヒヤリ・ハット誘因を作ってしまっている可能性も捨て切れないということです。
いくら気をつけていても、事故はなくならないかもしれません。
しかし、なくそうという努力は必要ですよね。
私は、事故の芽となるヒヤリ・ハットをなくそうとすることで、事故も減らすことが出来るのではないかと考えます。
皆さんは、ダイビング活動中、どんな時にヒヤリ・ハットを感じましたか?
次回は(1月28日・火曜日)、「ヒヤリ・ハットを感じたときの状況」の分析結果についてお話しをさせていただきます。
では、またお会いしましょう。
(今月のセミナーでは、実際に皆さんとお会いできることを楽しみにしています)
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