落としたカメラにサメが群がり…。海の落とし物エピソード

海への落とし物はガイドが拾うのが当たり前?再潜降で減圧症になるケースもを読んで思い出しました。

トンガでスペシャルトリップを行なっているときのこと。

トンガのホエールスイム(撮影:越智隆治)

スキンダイビングでクジラを撮影していて、ゆっくり泳ぎ去って行くクジラがどこで潜行して、止まるかを見極めるために、後ろから付いて行っていた時の事です。
これは、海中で止まったら、また浮上してくるまで皆にクジラを見せられるので、ガイドとしてよくやる行動です。

泳いで付いて来られると思うゲストには、「ついてきてもらってもいいです」と指示を出し、無理と思ったゲストには、サインを出して船にピックアップしてもらい、自分が手を上げていれば、そこにクジラがいるので、船で連れてきてもらうようにしています。

クジラを追う場合、僕は泳ぐ時に、船上からの指示など受け易いように、ほとんどの場合、スノーケルをつけた左の耳を水面に出して横向きで泳ぎます。
これは、指示が聞こえやすいだけでなく、下半身を水中に沈める事ができ、水面を激しくバシャバシャフィンでかいて水しぶきをあげないで泳げるというメリットもあります。
まあ、その件が話したい主題ではないので、泳ぐ姿勢に関しては置いておいて。

で、耳を水面に上げているので、誰かが呼べば、すぐに聞こえます。
そのとき、誰かが自分を呼んでいる声が聞こえました。

クジラの追跡をやめて、後ろを振り返ると、ゲストの一人が水面で暴れながら、僕の名前を呼んでいるので、(まさか溺れてるのか!?)と思い、慌てて戻りました。
すると、着ている6半のウエットスーツを脱ごうとしてるので、(ま、まさか、大がしたいのか?)と一瞬ひるんで、戻るのをためらいましたが、(女性でもあるし、大したいのに、呼ばないだろうし)と考えていると、「カメラ!カメラ!カメラが落ちちゃった!」と言うので、慌てて海中を覗くと、彼女が持っていた黄色い一眼レフカメラのハウジングが海底の見えない海中を、徐々に落ちていくのがはっきりと見えました。

彼女は、6半のウエットを着ていたので、浮力があり、沈めないために、ウエットスーツを脱ごうとしていたのですが、自分は3ミリのフルスーツで、ウエイトしてなくてもそれなりに潜れるので、即座に素潜りで潜行しましたが、自分にも潜れる限界は当然あります。
かなり必死になって潜ったけど、そんな自分の努力も空しく、黄色いハウジングは見えなくなって行きました。

このとき、この女性は、ウエイトを付けていないウエイトベルトに、ハウジングをフックで引っ掛けられるようにして、両手を使ってクロールできるようにしていました。
そこまでしても泳いで追いつきたかった訳です。

自分はハウジングを手でしっかり持っていないと、落下する恐れがあるので、決して底の見えない海では、そういう持ち方はしません。

とにもかくにも、ハウジングはトンガの海に沈んでしまいました。
今でも静かに海底に眠っていることでしょう。

このときは、素潜りではあったけど、カメラが落ちて「取ってきて!」と思うのは、側で一緒に泳いでいた他のゲストではなくて、やはりガイド役をしていた僕だった訳です。

その翌年、その女性と妹さんがバハマのタイガーシャーククルーズに参加してくれたときのこと。

タイガーシャークやカリビアンリーフシャーク、レモンシャークが群れるポイントで、アンカーリングしていたクルーズ船のアンカーロープがバチン!と切れてしまいました。
海が荒れていたので、ロープに負荷がかかってしまったのでしょう。

バハマのタイガーシャーククルーズ(撮影:越智隆治)

ほとんどのダイバーは気づいていませんでしたが、自分は、船の真下で撮影をしていたので、船の影が無くなったのと、大きな音を聞いたので、すぐに船が流された事を確認しました。

海が荒れてて、こんなにうじゃうじゃサメがいるところで、船流されたら、シャレにならない。
そう思いながら、残圧を確認して、まだ十分にエアがあるので、皆を集め、若いアメリカ人ガイドに船が流された事を知らせました。

ガイドは慌てて皆を一カ所に集めていたのですが、途中で慌てて僕の前に来て、「エアをくれ!」のポーズ。
「え?」と思い、彼のゲージを確認すると、僕がまだ150くらいあるのに、彼は30くらいしか残っていませんでした。

まあ、確かに、他のゲストはほとんど着底して動かずにサメ撮影してる中で、餌の入った重いボックス運んだり、バラバラになって撮影してるゲストを確認したりしてたから、しょうがないのかもしれないけど。

彼は僕のセーフセカンドから何度かエアをもらうと、バラバラに置いてあった餌の入ったボックスを一カ所に集め、その周囲にゲストを集めたので、(お前、そんな事したら、サメも集まってくるじゃんかよ)とちょっと笑いをこらえながら、非常事態にちょっとパニックになっている彼の行動を眺めていました。

バハマのサメ(撮影:越智隆治)

まあ、そんな彼の行動が今回の主旨ではないので、その後の彼の行動は置いておいて、船が流されたのは、水深12mの砂地のポイントなので、皆それほど不安がってる様子は無かったのですが、それでも船が戻ってくるか気にして上を向いていると、素潜りで泳いでやって来るクルーの姿が。

(サメ沢山いるのに、すげえな)と、このときはそのことに感心してましたが、彼は、以前に素潜り時にタイガーシャーク5〜6匹に取り囲まれて、それを押しのけながら船に戻ってきた経験のある奴なので、こんな事は朝飯前の行動なんです。
まあ、その話もいずれまた。

で、彼が素潜りしてきて、皆で固まって浮上しろの合図を出したので、皆で固まって浮上しました。もちろん、トンガで一緒だった姉妹も一緒です。

水面はかなり荒れていましたが、クルーズ船が戻って来る姿を見て、僕も安堵しました。
でも、足下にはサメがうじゃうじゃ。

僕らは荒波で徐々に深いエリアへと流されて行きます。
船からフロート付きのロープが投げられて、欧米人、日本人ゲスト合計12名皆が、何とかそのロープにつかまりました。

若いガイドには、エアも少ないから中盤にいて、他の人のケアをしながら先に上がった方がいいと伝え、僕が列の最後尾につきました。

透明度は高いので、海底は良く見えましたが、それでももう、30m近くにはなってる感じ。
でもサメもまだ見えてました。さすがにタイガーシャークは見えなくなっていたけど。

と思いながら顔を上げると、船で皆をピックアップしていたキャプテンが、「タカ!!!」と叫ぶのが聞こえました。
(何?)と思ったその直後に「カメラが落ちた!」と言う叫び声。

下を見ると、青いハウジングが海中に落下していくのが見えました。
青いハウジングは、先のトンガで黄色いハウジングを落とした女性の妹さんが持っていたカメラ以外にありませんでした。

瞬時に(まじか!)と思い、ためらいも無く潜降し、追いかけました。

しかし、ここで問題が。
落下してくるハウジングめがけて、それを餌だと思った、カリビアンリーフシャークやレモンシャークがハウジングに群がってきたのです。

また(まじか!)と思ったけど、海底に着く5m手前くらいでハウジングに追いつき、群がるサメを払いのけてハウジングを掴み、サメに背後から襲われないように、ちょっと回りを確認して、浮上を開始しました。

怖かったのはサメよりも、減圧症にならないかと、僕のカメラと妹さんのカメラ2台持って、荒波の中、ちゃんとロープに戻れるかでした。
あと、若いガイドにエアを吸われたせいで、あまり残って無いエア。

しかし、タイガーシャーク5〜6匹を素手で払いのけながら船に戻って来たガイドが何度もそばに潜りに来てくれたので、それほど不安もなく、ゆっくりロープの位置を確認しながら浮上し、船に戻ることができました。

でも一番驚いたのは、落とした本人は、エキジット時にハウジングを渡す時に上手く渡せなくて落下したらしく、僕が持って帰るまで落とした事にまったく気づいていなかった事です。

多分、あそこでキャプテンが「タカ!」と僕の名前を呼んでいなかったら、見覚えのあるハウジングでなかったら、トンガでハウジングを落とした女性の妹さんのハウジングでなかったら、取りに潜ったかわからないですけど、呼ばれたら、後先考えずに反応してしまうのが、僕の悪い癖かもしれないですね。

海への落とし物はガイドが拾うのが当たり前?再潜降で減圧症になるケースもを読んで、自分の身の安全も、少しは考えないといけないなと反省しました。

ちなみに、2014年のトンガホエールスイミング、すでに8月、9月の日程も来まり、参加者を募集中。開催を予定しています。

また、3月に行なう、2014年度のタイガーシャーククルーズは満席。2015年度も開催を検討中です。

ご興味のある方は、それぞれ以下のページよりお問い合わせ下さい。

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PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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