月100万以上稼ぐダイバーの裏側で。命がけのナマコ漁から学ぶ安全管理

こんにちは、高野です。

今回はデータからはからちょっと離れて、私がやっていた仕事の一つ、『ナマコの潜水漁』についてご紹介していきたいと思います。

連載でお話をしている、スポーツ・レジャーのダイビングとは違うジャンルになりますので、今までと言っていることに矛盾があるかもしれませんが、「世の中にはそういう仕事もあるんだなぁ~」と、聞き流して下さい。

しかし、これらの経験が、死なないために考え、学び、知識技術を追求し、それらを活かして経験を積んでいくことがいかに重要であるかを、私自身が強く感じるようになった、きっかけのひとつになっていることを、少しでも感じていただけたら嬉しいです。

高野修のナマコ漁ダイビング装備

私の潜水時の装備。ドライスーツは5mmで、小用ファスナーを付けています。中には、靴下2枚重ね履き、タイツ、渇きのよい長袖Tシャツ、その上にフリース生地のツナギを着ています。ウエイトは、19㎏つけています

ナマコ漁は全国各地で行われており、地域や会社などにより漁の方法や報酬も様々です。
ここでは、私がやっていたところについてお話していきます。

場所は、青森県の陸奥湾で10~4月までがシーズンとなっています。
私が行なっていたのは、震災の年までの3年間。
震災当日もナマコを捕っていました。

年を超えると気温は氷点下の日が多くなり、水温は5℃前後、透視度は50cmから、良い時で15m位です。
波については、一般的にいう「凪」はあまりなく、少々波風があっても「今日は穏やかだな」という感覚です。

陸奥湾でのナマコ潜水漁を行なっている会社は、4~5社(小さい規模のところを入れるともう少しあるかもしれません)。
会社にもよりますが、潜水士10人前後で行なっています。

その年により単価は異なりますが、1キロあたり300~500円くらいとなります。少ない人で1日10キロほど・・・、多い人で1日200キロほど捕り、月に100万円以上稼ぐ人もいます。

仕事内容は至ってシンプル。条件は死なないこと

仕事内容は、潜って、ナマコを捕って、上がってくる。それを一日3本。
ノルマもなければ、3本潜らなければいけないということもありません。

個々の職人が集まってきている現場なので、誰かについて仕事を教わることもなく、また誰も仕事を教えてはくれません。

ただ一つ条件は、死なずに上がってくること。
器材の準備など、周りから見ていて「こいつは危ないな」と思われたら、「お前が死ぬのは勝手だが、死なれたら俺たちまで仕事ができなくなるから帰れ」と言って帰されます。
来た当日に亡くなる方もいますので、ある意味思いやり?でしょうか…。

一艘あたり4人前後の潜水士が乗って沖に出ます。
船長との打ち合わせで予め潜水後の方角を、東西南北で決めておきます。
「入ったら西!!」みたいな。
ポイントに着いたら、間隔をあけて一人ひとりエントリーしていきます(基本、船は走ったまま)。

あとは各々海底まで潜り(潜るというより沈むに近いかな?)、ナマコを捕っていきます。
海底を走りながら移動するので、フワフワしないようにウエイトは20キロ前後着けています(ウエイト量は人により異なります)。
フィンは履いていると小回りがきかないので履きません。

残りの空気と、窒素を考えながらナマコを捕っていきます。
浮上時、レジャーダイビングの場合には、BCなども使って浮力を調整しますが、BCを着ていると動きづらいなどの理由から着用していないので、ドライスーツを浮力にします。ウエイトを多くつけているため、立位姿勢をとると首部から空気が抜けてしまって浮上できないので注意です。

減圧停止後、水面に上がり船にピックアップしてもらいます。

毎年、ベテランのダイバーの人でも事故が多いことから、最近では、潜降、浮上時だけはフィンを履くことになり、またタンクバルブも、開いているかどうかを仲間で確認するようになったようです。

「えっ!?それまではバディチェックとかしていなかったの?」と思う方もいるかもしれませんが、朝仕事に行ったら、自分の器材が港内に沈められているなんていうこともあり(私はありませんし、やりませんが)、あまり他人は信用しない世界なのです。

「俺の後ろに立つな!!」と言われたこともあります(大丈夫です…タンクのバルブを閉めたりしませんよ(^^;))。
皆、命をかけてナマコを捕っているんです。

亡くなる理由は様々で、エア切れ、パニック、タンクバルブの開け忘れ、水中拘束、疾患など。
ベテランダイバーの多いことを考えると、慣れや過信も考えられますね。

さっきまで話をしていた仲間が、数時間後には亡くなってしまうという現実を身近に感じながら、常にイメージトレーニングをしていました。
タンクのバルブが開いていなかったときには…、ロープに絡まってしまったときには…、レギュレーターが不調になってしまったときには…などなど。

そして気をつけていたことは、
「時間にも気持ちにも余裕を持つこと」
「万全な体調で潜ること」
「大丈夫だろうではなく、もしかしたら…の気持ちで、絶対に無理をしないこと」

自分の命は自分で守るしかないのです。

しかし、それはスポーツ・レジャーのダイビングでも同じなんですよね。

皆さんは、自分の命は自分で守れるダイビングをしていますか?

YouTubeで陸奥湾でのナマコ潜水漁が紹介されています。
現在も命をかけてナマコの潜水漁を行なっている、「SEA WATER DivingService」の小室さんが作成したものです。

今回の記事に協力をいただきました、潜水士の成田さん、小室さんに感謝致します。

高野修のナマコ漁ダイビング装備

レギュレーターは寒冷地仕様。水中のところどころにホタテが養殖されており、ナマコに夢中になって養殖ロープに引っかかってしまったら大変なことに……。ある程度太いロープでも切れるように、ナイフは切れ味の良いもの。浮上してから、船に自分を見つけてもらうために、フロート、そして音を出して知らせるための「ダイブアラート」(メーカーにより名称は異なります)も必需品です。それでも吹雪いてしまうと、視界はおろか風向きによっては音も届かなくなり、1時間以上漂流する場合も。視界不良の吹雪の中、スノーケルなし、フィンなし、浮力はドライスーツのみ……15分経って船に見つけてもらえないと、少し不安になります

高野修のナマコ漁ダイビング装備

捕ったナマコを入れる袋と、ナマコを上げるためのフロート。いずれも2~3個持って入ります。ひと網がいっぱいになるとフロートをつけて浮上させます。上げたナマコは船がピックアップします。ちょっとしたことが命取りになるので、水中での動作には無駄が出ないよう、道具にも自分なりの工夫がしてあります

ホタテガイの養殖施設

水中の所々にあります。この周りにナマコが多い。この写真は、青森県営浅虫水族館にて撮影したもの

高野修のナマコ漁ダイビング装備

ハーネス。肩のベルト部には、着る時によじれにくいようにホース(青)に通しています

高野修のナマコ漁ダイビング装備

長靴。水底(砂地)を走るため、ドライスーツの靴底がボロボロになってしまうので、上から長靴を履きます。長靴の中敷きは取り、水が抜けるように穴を開けます。この長靴は、一緒にナマコ漁をやっていたベテラン潜水士のKさんからいただいたもの。他の潜水士が減圧症っぽい症状を訴えていると、「気の持ちようだな……」の一言で片付けるKさん。今は下半身麻痺(減圧症)で入院中とのこと…

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PROFILE
大学にて法学を学び、卒業後、某一部上場企業にて人事採用・研修を担当していたが、「人は自然と共に生きていくことが本来の姿である」と思ってしまい…退職。

都市型ダイビングショップを経験後、静岡県の熱海を専門に水中ガイド、コースディレクターとしてインストラクター養成などを行う。
また、潜水士として、海洋調査・水中撮影・ナマコ潜水漁・潜水捜索救難などでも活動している。
 
ある時、業界の発展、健全性の確立を考えるようになり、大学院へ進学してスポーツマネジメントについて学ぶ(学位:体育学修士)。
現在は、教育・指導の観点から、ダイビングのマネジメントについて研究している。
 
■「筑波大学 大学院」 体育系研究員 高度競技マネジメント研究室(山口香研究室)
■「文部科学省所管 財団法人社会スポーツセンター」マリンスポーツ振興事業部 専門職員
■「NPO熱海・自然の学校」理事 安全対策委員長
■「NPOユニバーサルダイビングネットワーク」理事 潜水捜索救難協会トレーニングディレクター
■「Office 海心(うみこころ)」代表
 
【学会発表・論文】
■「SCUBAダイビングにおける裁判事例から見た事故分析」
■「SCUBAダイビングにおけるヒヤリ・ハット調査から見た事故分析 -ハインリッヒの法則に基づいた観点から-」
■ 「SCUBAダイビング指導者育成における教育課程に関する研究 -中高齢者事故予防の観点から-」
他
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