「イルカが遊んでくれている」というのはヒトの勘違いかもしれない

ドルフィンスイムに来られるお客様は、人の周りをぐるんぐるん回ったり人に興味を持って近づいて来てくれたりするイルカに会うと、「イルカが遊びに来た!」と喜ばれます。
イルカウォッチング船の船長さんも「ほら!イルカが遊びたがっているぞ」と言います。

そう感じてしまうのは理解できますが、天の邪鬼な私はいつも「ほんとにそうかぁ?」と疑問を拭えません。

もっとも、本当のところはイルカに聞いてみないとワカラナイのですが、動物が見せる一連の行動からその意味や機能を読み解くのが動物行動学です。

人は意識しないでいると、動物の行動を人の行動に当てはめて考えたり、1つの行動に1つだけの意味をつけたりする傾向が強いようです。
例えば、話すことができる鳥を「賢い」と評したり、お腹を見せる犬を「服従している」と判断したりします。

でも、動物はもともとヒトとは異なる生活をしています。
ヒトのような社会性をもつ動物ばかりではなく、食べ物や生息環境は鳥と犬でも大きく異なります。

鳥が鳥らしく生きていくのに、ヒトの言葉を喋る必要は無いでしょう。
色々な声色を使ってメスを誘うなど、他の能力があったため偶然ヒトの言葉を発音できるに過ぎません。

つまり、動物種によって得意不得意、似たような行動でも意味の違いがあるということです。

例えば、イルカがお腹側を人に見せて泳ぐ行動。
先に述べた犬の行動に照らし合わせて「懐いてくれている」と判断されがち。
でも、本当にそうでしょうか?

御蔵島のイルカ(撮影:小木万布)

写真では分かりにくいかもしれませんが、普通同時に見えることが無い両目がバッチリ見えています

イルカの目は左右についていて、視野が人と違い上や真ん前が見えにくくなっています。
逆に下方や後方は結構良く見えているようです。

そのことを踏まえると、「人に腹を見せている」のではなく「人を両目で良く見ている」と考えるのが合理的です。

また、人の周りをくるくる回るサークルスイムと呼ばれる行動。
これ、回られたお客様は「イルカが遊んでくれている!」と嬉しいものです。

すごーく理解できるのですが、本当にそれだけでしょうか?

御蔵島のイルカ(撮影:小木万布)

「サークルスイム」:イルカにあわせて人もくるくるくるくる

個体識別調査をしていた時、サークルスイムをするイルカはいつも決まったイルカが多いことに気づきました。
イルカの頭数を知るための調査なので色々なイルカを出来るだけ多く撮りたいのに、後で映像を見ると、いつもサークルスイムに来るイルカばかり。
そいつを撮っているうちに他のイルカは、去って行ってしまいます。

繰り返すうちに「これは邪魔されてるんじゃないか?」と感じるようになりました。
ピーピー鳴きながらくるくる回るのは、もしかしたら「おーい、ここにヘンなのいるよ、今ここだよ」と遠ざかる仲間に位置を知らせているのかもしれません。

この説は、現在あくまで仮説です。
この行動に注目して研究してくれている学生がいますので、結果が出るのを楽しみにしている所です。

サークルスイムの機能が邪魔するためだけの行動とは思いませんが、決して遊んでいるだけの行動とも思えないのです。

イルカウォッチングは、イルカが生息している環境に人がお邪魔して、彼らの生活を覗く活動と言えます。
人にしてみれば間違いなく楽しむためにしている行動、すなわち遊びです。

では、イルカにとっては?
遊んでいるばかりじゃない気がする私は、天の邪鬼なだけでしょうか?

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PROFILE
山形大学農学部で、テントウムシの産卵生態を研究をしていたが、「もうちょっと大きな動物を研究したいなぁ」と路線変更。
三重大学大学院在学中に、御蔵島をフィールドとしてイルカの行動研究を始める。

2004年、御蔵島で観光協会設立に関わり、同大学院を中退。
現在、御蔵島観光協会勤務。

観光案内業務、エコツーリズムの普及活動、イルカの調査取りまとめを行っている。

■著書:
「イルカ・ウォッチングガイドブック」水口博也(編著)144pp. ウォッチングと生態研究の両立-御蔵島のイルカをめぐって
「クジラと日本人の物語―沿岸捕鯨再考」小島孝夫(編集) 第4章クジラと遊ぶ..
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