イルカが口をパカッと開けるのは、笑っているの?怒っているの?

ドルフィンスイム中、イルカがパカッと口を開けるのを見たことがありますか?

なかにギザギザの歯が見えて、ビビリな私は「う〜ん、さすが肉食獣。イカも魚も逃げられまい」と感心する前に「怖えぇぇ!」と思ってしまいます。

お客様のなかには「笑ってた」と感じる方から、「イルカの口開け=威嚇」という説明をガイドさんなどから聞いていて、「こわっ」と感じる方もいらっしゃるでしょう。

御蔵島のイルカ(提供:小木万布)

口を開けるイルカ

さて、本当のところはどっち?

結論から言うと、イルカに聞いてみないと分かりません……。

ただ口を開けたい時もあるでしょうし、なにかを表現している時もあるでしょう。

動物の行動の意味を考える時、我々人間は注意していないと「1つの行動の意味は1つ(逆に言うと、1つしかない)」と考えてしまいがちです。

イルカが口を開ければいつでも威嚇、イヌが尻尾を振ればいつでも喜んでいて、ねこが顔を洗うといつでも雨、と思うようにです。
果たしてそうでしょうか?

例えば、ヒトの行動で考えてみましょう。
「片手を頭の高さに上げる」この単純な行動をとっても意味は沢山あります。

  • 1.朝、通学路で親しい友人と会った時。(挨拶)
  • 2.ケンカ相手からすごいイヤなことを言われてカッとした時。(攻撃)
  • 3.ホームランを打ったチームメートがホームインした時。(祝福)

シチュエーションや相手との関係で行動の意味は全く変わる、ということは分かって頂けると思います。

ヒトの場合、表情というものがありますから、表情から手を挙げた人の心中を推し量ることもできます。
しかし、手を挙げた瞬間だけを表情の見えない角度から見て、当人でない第三者がその意味を知ることは難しいものです。

イルカに話を戻しましょう。
イルカには顔の表情を変える筋肉、表情筋がありません。
目の開き具合が変わるくらいです。
なので、彼らの表情から心中を推し量ることができません。

そして私たち観察者は、イルカの行動の瞬間しか観察できていないことが多いのです。

ぱかっと口を開ける前、そしてその後、イルカの行動がどうだったのか?行動の前後で変化があるのか?
そもそもその行動は何に向けられているのか?
ヒトに?他のイルカに?など、検証すべき事柄が沢山あります。

そして、運良くこれら全てが検証できるほど長い時間観察が続けられることは多くありません。
下は、その少ないチャンスで撮影された動画。

これは、御蔵でも研究をしていたキャサリン・ダジンスキー博士が、バハマで撮った映像です。

タイヘイヨウマダライルカが2グループに分かれて、ケンカをしています。
盛んにブーとかブピーという音を出したり、バブルリングを出したり、口をアーッと開けたりしているのが見えます。

このような観察から、口を開けて威嚇をしているという説も出ました。
御蔵島での観察でも、イルカ同士がアグレッシブな行動をしている時に似た行動が見られます。
開いた顎を勢いよく閉じて「ガチンッ」という音を出していることもあります。

口をただアーンと開けているときは、さほど気にする必要が無いと思いますが、一直線に自分に向かって口を開けていたり、あまりに騒がしく鳴いていたりするときは、ご機嫌ナナメ?かも知れません。

イルカの機嫌を慮りながら、機嫌の良いときも悪いときもあると思って観察してみるのもイルカウォッチングの楽しみ方だと思います。
機嫌の悪い肉食獣を間近に見られる機会なんて、そうそう無いのですから!

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PROFILE
山形大学農学部で、テントウムシの産卵生態を研究をしていたが、「もうちょっと大きな動物を研究したいなぁ」と路線変更。
三重大学大学院在学中に、御蔵島をフィールドとしてイルカの行動研究を始める。

2004年、御蔵島で観光協会設立に関わり、同大学院を中退。
現在、御蔵島観光協会勤務。

観光案内業務、エコツーリズムの普及活動、イルカの調査取りまとめを行っている。

■著書:
「イルカ・ウォッチングガイドブック」水口博也(編著)144pp. ウォッチングと生態研究の両立-御蔵島のイルカをめぐって
「クジラと日本人の物語―沿岸捕鯨再考」小島孝夫(編集) 第4章クジラと遊ぶ..
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