台風の進路予測、4つのポイント。台風を外して石垣島に行けたダイバーの話

気象予報士くま呑みの“ダイバーのためのお天気講座”

台風直後のパラオの群れ(撮影:越智隆治)

みなさん、こんにちは!

夏休みに入ったと思ったら、もう立秋。
でも、海はこれからがいい季節ですね!
もっとも、これからは台風の季節でもありますケド。

台風といえば、今年「今までに経験したことが無い」なんて言われた台風がありましたね。
そう、あの台風8号「ノグリー」です。

台風の進路予想図

7月6日時点での台風の進路予想図(日本気象協会より

実は大学のサークルの後輩が正にちょうど、あの「ノグリー」が来ていた7月8日に石垣島に行こうとしていました。
6日にその後輩から突然こんなメッセージが来たのです。

「気象予報士くまさま。お忙しいとこ申し訳ないですが、今日中にお返事もらえると助かります。日本に向かって台風8号が来ているようで、8日に沖縄直撃だそうです。まさに8日の9時那覇着のLCCの便で行く予定だったんだけど、これは欠航になる見込み高い?…9日に変更すれば大丈夫?」

この後輩、普段はタメ口なのですが、「さま」付けで敬語!
遠恋で久しぶりに会う彼氏との旅行なので、もう必死感が伝わってきます(ま、最後はタメ口になっちゃっているあたりもかわいいもんですが)。

さて、彼女は私のアドバイスどおりにしたら、ちゃんと石垣に行って潜ることができました。
え、どんなアドバイスをしたのかって?
それは、ちょっと後ほど。

気象予報士に発表が禁じられているほど難しい台風予想

突然ですが、実は、台風の進路予想というのは非常に難しいのです。

そもそも、台風の構造って、はどのようなものを想像していますでしょうか?
バウムクーヘンみたいな渦?

いえいえ、実際には、高さが1万メートル程度、直径は数百キロですから、厚さ2mm直径10cmくらいのCDみたいなものと思ってもらったほうがいいかもしれません。

そのCDでコマを作って、その進路を当てるようなものです。

さらには、CDの厚みの中に、積乱雲の壁ができていて、雨の強いところと、そうでないところがあったりして。
その上でそういった形が中で変わりつつ動いていくのです。

そして、台風は通常太平洋高気圧のふちに沿って進みますが、それが東に向きを変えるか変えずに大陸に進んでいってしまうかが決まるのは、偏西風とどこでぶつかるかによります。

ところが、台風自身も気圧を下げたり風を吹かせたりといった性質のものですから、単純に風に流されてばかりはくれません。
台風が空気の塊を運んできてしまったりもします。

さらに複雑になるケースは、台風などの熱帯低気圧が2つ以上ある一定の距離(概ね1000km)以下に近づくと、互いの周りを回る風の影響を受けてより複雑な動きをするということです。
こうなると、実は、一介の気象予報士の手には負えません。

実際、台風の進路予想に関しては、気象庁の専任事項で、気象予報士や気象予報会社などが一般の人に台風の進路予想などを発表することは、気象業務法によって禁じられています。
そのくらい、進路予想は難しいことなのです。

台風予想の4つの大事なポイント

では、そんな難しいものを、私達ダイバーはどのように避けて計画を立てればいいのでしょうか?それにはいくつかのポイントがあります。

1.台風の進路は、「曲り目」に着目

台風の進路は、一般的に太平洋高気圧のふちにそって北上し、偏西風の位置で東に向きを変えます。
ということは、偏西風の位置を捉えると、曲る場所がある程度予想できます。

偏西風の位置は、HBC(北海道放送)の専門天気図などでも知ることができますし、そこまででなくとも、もし梅雨前線や秋雨前線などがあれば、その上空あたりを吹いていると考えられます。

そして、正直に言って、曲がり始めるまでは停滞したり速度が遅かったりしますが、偏西風に流され始めると、速度は急速に速くなり一気に駆け抜けることが多いのです。
逆に言うなら、曲がり目に来るまでは台風の速度予想がしにくいということになります。

2.台風の右半円の方が危険

台風は、反時計周りに渦を巻いています。
ということは、進行方向右側の半円は台風の速度と渦を巻く風速が足し算になって風が強くなる傾向にあります。
そして、その差は、台風の速度が速いときほど大きくなります。

逆を言うなら、「のろのろと北上」している時は、右半円でも左半円でも、大きな差はありません。

ところが、「速度を上げて東進」しているような時は、台風が南側を通れば大きな被害にならないものを、北側を通れば被害が大きくなる可能性が高いです。

例えば、東京の例を挙げるなら、太平洋上を東進してくれば大きな被害になりにくいですが、どこかで上陸して北関東などを通っていくと被害が大きくなる確率が上がるということです。

3.台風は近づいてくる時の方が危ない

台風は、特に向きを変えるあたりから以後は、偏西風に乗って速度を上げることが多いので、予想より速くなる可能性があります。

そうすると進路予想図などを見ながら、近づいてくるのは「まだだろう」と思っているうちに、想定外に早く、突然風雨が強くなったりする可能性があります。

また、実際に、風が強くなるときはどこまで強くなるかわからないですが、弱まり始めればあとは引いていくだけです。
ですから、台風の接近中には、より警戒をしてください。

ただし、例外は直撃に近い場合で、台風の目で一旦晴れたり風が止んだりしても、いわゆる「吹き返し」が起きる可能性があるので、目なのか通り過ぎたのかは、レーダーなどを見てしっかり判断する必要がありますが。

4.温帯低気圧化後は、より危険なことがある

「台風は温帯低気圧になりました」などとよく言います。
これを聞くと、「台風が『普通の』低気圧になったから一安心」と思うかもしれません。

しかし、実際は、温帯低気圧と熱帯低気圧(台風)は全く別のものなのです。

台風は、暖かい海水から蒸発する水蒸気をエネルギー源としますが、温帯低気圧は前線の北と南の気団の温度差がエネルギー源になります。

で、一般に熱帯低気圧のほうが、規模(直径)が小さく、中心付近の風などの強さは強いのですが、逆に言うなら、温帯低気圧は中心付近の最大風速こそ小さいけれど、規模はずっと大きな場合が多いです。

つまり、台風がそのまま熱帯低気圧でいてくれれば、日本付近の海水温が低い海域に来たり、上陸したりすると、規模は小さくなり、やがては崩れて消えてしまうでしょうけれど、温帯低気圧に変わると、新たなエネルギー源を得て、さらに巨大化(再発達といいます)したりする可能性があるのです。洞爺丸台風は、そのようにして、甚大な被害を引き起こしました。

同じ気象庁発表の「進路予想」を見るにしても、このようにこれらのポイントを押さえて見ると、その台風のどこが特に危険か見えてきます。

また、台風の進路予想は難しいために変更されることが多いですが、変更になりやすいところ・なりにくいところというのもわかるはずです。

現地ショップの情報も超重要
台風予想で石垣島に行った後輩の例

そんなわけで、私は、件の後輩にもうちょっと詳しく聞いてみました。

そうすると、旅の当初予定では8日に那覇に入り、一日那覇観光をしてから、9日に石垣に飛ぶ予定だと。
それを一日遅らせたら大丈夫だろうか、ということなのです。

先ほどの6日時点での台風の進路予想図をもう一度見てください。

台風の進路予想図

8日の日中には予想の中心を通ったとすると、ほぼ直撃。
9日も、まだ沖縄本島は暴風圏にある可能性が高いです。

ということは、運よく沖縄本島に入れたとしても9日にさらに小さな飛行機で石垣に飛ぶのはまだ無理な可能性が高いです。

ですから、「8日は、直撃だからほぼ、無理。9日も本島から飛ぶのは難しい」と伝えて、他の手段を探しました。

そうすると9日に成田からの直行便があることがわかったのです。
9日は、進路予想がはずれなければ、石垣は暴風域を抜けている可能性が高そうです。
しかし直行便はLCCではないので、一人3万円UPになってしまいます。

そこで、私がとった行動は、結局石垣のダイビング・サービスに電話をすることでした。
航空会社に飛行機が飛ぶかどうかを聞いても、不確実なことはなかなか教えてくれませんが、現地のサービスであれば、「どんな感じですか?」と聞けば、たいていはわかる範囲で教えてくれます。

しかも、たまたま私がお世話になったことのあるサービスだったので、後輩が予約を入れていることを伝えた上で、同じような台風の場合について聞いてみました。
そうすると、やはり「9日の那覇からの便は難しいだろうが、直行便なら来る可能性が高い」と見ていると教えてもらえました。

また、台風が進路予想のとおりであれば、おそらくその翌日くらいからは、波も収まってくるのではないか、ということも伝えてくれました。

その上で、先ほどの予想をチェックするポイントです。

沖縄本島は予想進路のど真ん中ですが、石垣は台風の左半円にあたること、9日は通り過ぎた後であること、などを考え合わせて、後輩にはやはりLCCはたぶん飛ばないけど、直行便なら飛ぶ可能性が高いことを伝え、今のうちに席を確保したらどうかと伝えました。

問題は3万円のUPですが、それについては、後輩自身に判断を委ねたところ、大切な彼氏とのダイビング旅行のためですから、当然そちらをとる判断をしました。
そして、無事石垣でのダイビングを楽しんで帰ってきたのです。

台風の進路予想は、本当に難しいものです。
ですから、原則は台風が近づいている時は海に行かない、時にはキャンセルをするということも重要です。

でも、どうしてもという場合には、こんな判断もできるという一例でした。

そうはいっても、今回が大丈夫だったからといって、同じような台風でも次回は迷走するかもしれません。
ですから必ず最新の予報を常に参考にするということ、また、可能であれば、天気図や進路予想図などから自分で予測せず、現地の方に聞いてみるということも重要です。

その上で、直撃の風だけではなくて、波やうねり、あるいは大雨によるがけ崩れ等の危険についても十分な情報を入れた上で、最終的な判断をしてください。

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PROFILE
日本気象予報士会会員。
国際基督教大学(ICU) 理学科物理卒。
1995 年 よりダイビングを始める。
外見が「熊」なダイバーなので、魚の名前に因んで「くま呑み」を名乗る。

中学の理科の授業で、先生が教卓で雲を作る実験をしてくれたのを見て以来、気象学、天文学、地学に興味を持つ。
ダイビングを始めてからも海と空を眺めるのが好きで、2002年、気象予報士を取得。

ダイビングのスタイルは、「地形派」。
ドロップオフやカバーン、アーチや地層の割れ目などを眺めるのが好き。
特に、頭上のアーチなどをくぐった先で、水面からの光が見える瞬間に萌えてしまう。

ダイビング以外の趣味は、オーガナイズド(組織)・キャンプ、合唱、キャリア
・カウンセリング。
現在は、国際基督教大学にて学生や子ども向けの組織キャンプのディレクターも
努める。
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