波高1mでも2mの波も来る!? ダイバーが知っておきたい“波”の話 前編

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気象予報士くま呑みの“ダイバーのためのお天気講座”

宮古島のうねりと波(撮影:越智隆治)

みなさん、こんな経験をしたことはないでしょうか?
「今日は波高1mということなので、エントリー/エグジットも楽かと思ったら、意外にきつかったよ。おかしいなぁ? 先週も同じ波高で、同じポイントでこんなにきつくなかったのに・・・」

どうして、こんなことが起きるのでしょう?
今回は、そんな、波の不思議について、お話をしたいと思います。

“波”ができる4つの原因

そもそも“波”とは一体なんなのでしょうか?
言葉の定義としては、“水面の上下運動”ということになっています。
そして、物理用語として「同じようなパターンが、空間を伝播すること」という定義もなされています。

つまり、“水面”がある形になった時に、それが隣の水面、その隣……と伝播していくことが、定義上の“波”なのです。

ちなみに、海面に起きる波は、主に4種類の原因で起きます。

1つ目は、言わずと知れた風によって起こされる“風波”。
ダイバーにとっておなじみなのは、これですね。

2つ目は、船によって引き起こされる“引き波”です。
ここまでは我々ダイバーが良く目にします。

3つ目は、海底の地殻変動によってできる“津波”です。

そして、4つ目は、山体崩壊や巨大隕石による津波です。
実は、これが一番高い波の記録を持っています。
アラスカのリツヤ湾では、1958年に525mまで遡上した津波があったと記録されていますし、6千5百万年ほど前に世界各地に残る高さ300メートルほどの津波の後は、おそらく恐竜を絶滅させた隕石の衝突によるものではないかと言われています。


波高1mでも2mの波が来るときもある!?

このような例はさておき、“波高”は我々ダイバーにとっては非常に高い関心がありますよね。
しかし、一口に波高といっても、それもまたちょっと不思議なものだと思いませんか?

波高というのは、平均なのでしょうか? それも変ですね。

見た目に1mくらいの高さの波が寄せては返す状態だったとしても、その間には無数の小さい波が発生しています。
ですから、波の“平均の高さ”としてしまうと、数からいったら圧倒的に多い、小さい波の高さになってしまいます。

では、“最大の高さ”でしょうか。
逆に、我々も経験しますが、連続した波の中で、まれに大きな波が入っていることがあります。
これを波高としてしまうと、まれなので、実態とかけ離れてしまいます。

なので、我々が目で見た実感に合うように“有義波高”というものを定めています。
これは、波の高さを並べて上位から1/3までを取り、その平均をとったものです。

逆に言うならば、そのとき発表されている有義波高よりも高い波も来るのです。
平均的には、100波に1波は有義波高の1.6倍、1000波に1波は有義波高の2倍となると言われています。

つまり、たとえ「今日の波高は1mです」と言われていても、1000回に1回は、高さ2mの波が来る可能性があるわけです。

やはりビーチでのエントリー/エグジットのときは、きちんと沖を見て、高い波が来ていないかどうかを確認したほうがいいですね。

さもないと、まさに波打ち際で想定外の大きな波にさらわれたり、ひっくり返されたりしかねないということです。

波高だけじゃない!
ダイバーが気にすべき波長とうねり

私たちは、前述のように、波というと波高のことが一番気になります。
しかし、波の性質というのは波高だけではありません。

“波長”というものがあります。

同じ高さの波であれば、当然長さの長い波の方が、移動している水の量は大きくなります。つまり、波長の長い波が海岸に押し寄せた時の方が、より多くの水が押し寄せることになるわけです。
我々が一般に見る波は、風によって起こされる風波であることは前述しましたが、そのうち、風が吹いている場所で起きている波を“風浪”といい、風浪が風の範囲の外に出ていって、伝わっていくものを“うねり”といいます。

うねりは、風浪よりも波長が長く、非常に遠くまで(千キロ以上も)伝わります。
有名な土用波は、8月ごろにはるか南方にある台風のうねりが伝わってきたものをいいます。

ちょうど海洋レジャーの最盛期ですし、しかも、一般には台風が遠くにあって、まだ天気が良いときもあるので、海の事故に繋がりやすいものです。
そして、我々も苦労をするのが、このうねりがエントリー/エグジットのポイントに当たっているときです。

普通の風浪が当たるときに比べて、寄せる水の量が多いので、同じ波高でもよりエントリー/エグジットはしにくくなるケースが多いのです。

これが、「同じ波高でも、エントリー/エグジットのしやすさが違う」ことになる原因です。

このさらに極端な例が、津波です。
普通の波が波長100m程度であるのに対し、津波は時に数キロの波長の場合があります。

普通の風波なら、寄せては返す繰り返しですが、津波は、たとえ同じ波高であっても、波長が長いので、そのまま海面が盛り上がったような状況になってしまいます。

皆さんも東日本大震災の時の映像を記憶されていることでしょう。
あのように、海が堤防を乗り越えて陸地に入ってきてしまう理由は、これなのです。

例えて言うなら、本棚から百科事典が1冊落ちてくるのと、百科事典全集が落ちてくる違いのような破壊力の差があるわけです。

我々は、海の近くに行く機会が多いのですから、津波の情報には、より敏感でいたいものです。

(後編へ続く)

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PROFILE
日本気象予報士会会員。
国際基督教大学(ICU) 理学科物理卒。
1995 年 よりダイビングを始める。
外見が「熊」なダイバーなので、魚の名前に因んで「くま呑み」を名乗る。

中学の理科の授業で、先生が教卓で雲を作る実験をしてくれたのを見て以来、気象学、天文学、地学に興味を持つ。
ダイビングを始めてからも海と空を眺めるのが好きで、2002年、気象予報士を取得。

ダイビングのスタイルは、「地形派」。
ドロップオフやカバーン、アーチや地層の割れ目などを眺めるのが好き。
特に、頭上のアーチなどをくぐった先で、水面からの光が見える瞬間に萌えてしまう。

ダイビング以外の趣味は、オーガナイズド(組織)・キャンプ、合唱、キャリア
・カウンセリング。
現在は、国際基督教大学にて学生や子ども向けの組織キャンプのディレクターも
努める。
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