「欲しかったのは、理論的なダイブプロファイル分析」~減圧症ダイバーの体験談~

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ダイブコンピューター連載(提供:今村昭彦)

連載1回目は1,000人以上の方にシェアしていただきました。
このような安全潜水に関する硬い内容の記事を多くの方に支持していただき、とてもうれしく思います。

が、肝心な話はまだまだこれからなので、毎回読んでいただけるよう、できるだけ読みやすい記事を心がけていきたいと思います。

7月くらいまでは「ダイブコンピュータと減圧症」の話を毎週ペースでアップし、それが終わったら、「理想的な潜水の方法」、「安全停止は本当に必要か?」、「ディープストップの危険性」などの読み物を隔週ペースで書いていきたいと考えています。

さて、今回、オーシャナに連載記事を書かせていただくにあたって、できるだけ減圧症に罹患された方の生のご意見などもご紹介したくて、減圧症に罹患された洋子(仮名)さんにも協力していただくことになりました。

その洋子さんが、私が行ったシミュレーターによる分析を受けて書かれた感想を、ほぼ原文のままご紹介します。

「欲しい情報は、理論的なダイブプロファイル分析」

(以下、洋子さんの体験談)

2014年1月に減圧症に罹患し、治療、回復を経てダイビングに無事復帰しました。
減圧症に罹患して困ることはたくさんあるのですが、その一つに、どうして罹患したのか明確に分からないことが挙げられると思います。
病気に罹患したのだから、少しでも自分の状況を把握したいというのが減圧症罹患者の思いです。

減圧症罹患から回復した後にダイビングを再開したいと考えている場合、どうして減圧症に罹患し、自分の体に何が起こっていたのかを理論的かつ具体的に知ることがとても重要なのはいうまでもないと思います。
しかしながら、医師の診断やインターネットの情報では、分析に繋がらない現実がありました。

減圧症治療を担当した医師とは当日の2本のダイブプロファイルとDECOや浮上速度違反について話しました。
医師からは「プロファイル(最大深度と潜水時間)は問題ない。浮上速度違反がちょっとまずかったかもしれないけど、そんなに影響があるとも思えないけどなぁ。潜った後のしびれと痛みからすると減圧症だね」という診断でした。

せっかく専門医と話せる機会ですから、プロファイルから具体的な分析をして欲しかったな……と、医師の診断にはやや不満がありました。

減圧症についてのほぼすべてのサイトを読みましたが、最大深度と減圧症罹患リスクとの相関性や当日のコンディション(睡眠不足や病気、服薬等)についての情報ばかりで、具体的な分析に結びつける情報はなかなか見つけることができませんでした。

しかし、後日TUSAの今村さんにしていただいたシミュレーターによるダイブプロファイルの分析は非常に理論的で、グラフで自分のプロファイルを見直すことができました。

それこそ、まさに私の求める情報だったと言えます。

シミュレーターによる分析では、ダイビング中の体内窒素量が2つの組織で非常に高くなっていたことも分かり、私のしたダイビングは決して安全なダイビングではなかったということもよく理解できました。

医師による「プロファイルは問題ない」という診断は、最大深度が極端に深くなく、ダイビング時間も極端に長くないことに起因したもので、減圧症を理論的に捉えた上での見解ではなかったように思います。

それに対し、シミュレーターの分析は自分の体にどういったリスクを負わせてしまったのかを目で確認できるので、減圧症に罹患した場合はもちろん有効ですが、減圧症に罹患する前からこんな風に自分のダイビングを見直すことができたら、減圧症予防に非常に効果的だと感じました。

潜水軌跡と最大体内窒素量(圧)を表す
ダイブシミュレーションデータの見方

洋子さんの感想からも分るように、減圧症罹患者のダイブプロファイルを可視化することはとても重要です。
減圧症を発症したダイブプロファイルにはどこかに問題があるはずだからです。

そういう意味でも、シミュレーターを使った理論的な分析は減圧症予防には欠かせず、これから先の記事でも、シミュレーターを使った分析を時々ご紹介していきます。

今回は、簡単にその見方をご説明します。

ダイブコンピューター連載(提供:今村昭彦)

減圧症罹患者のダイブプロファイル例

上のグラフですが、これはある減圧症罹患者(洋子さんではありません)のダイビング(1本で発症)の軌跡を表すものです。
縦軸が水深、横軸が潜水時間を表しています。

最大水深が24mで、平均水深が17m、潜水時間が49分で、ダイビングの最後に水深5mで3分の安全停止をしたケースを表しています。

私の場合、最大水深地点を最初の方にして、段々水深を上げていくという、比較的体内窒素量(圧)が上がりにくい潜水軌跡にそろえて分析をしています。

というのも、正確な潜水軌跡を罹患者から得る事はほとんどできないので、一番安全方向の潜水軌跡にそろえる事によって、結果的に厳しい見方に統一することができるからです。

赤い部分は、TUSAのダイブコンピュータでは減圧潜水状態になったことを表しています。
これはお使いのダイブコンピュータによって、なる場合もあれば、ならない場合もあります。

つまり、TUSAのダイブコンピュータであれば、潜水開始40分後に水深3mで減圧停止指示が出たはずですが、結果的にちょうど浮上していった事によって体内窒素量(圧)が下がり、減圧停止指示は消えています。
※この方がお使いのダイブコンピュータはずっと無減圧潜水表示だったそうです。

ダイブコンピューター連載(提供:今村昭彦)

減圧症罹患者の体内窒素量(圧)ピーク

そして、大切なダイビング中の最大体内窒素量(圧)のグラフです。

このグラフは12本のバーがあるいわゆる12コンパートメントのダイブコンピュータで、左側が窒素の吸排出が速い組織、右へ行くほど窒素の吸排出が遅い組織を表しています。
※人間の身体には窒素の吸収の速い組織、遅い組織があり、ダイブコンピュータも同様にいくつかのコンパートメント(仮想組織)に分けて計算を行っています。

初回のダイビングの開始時では、すべてのコンパートメントが0をさしていますが、ダイビングを開始すると水深と潜水時間に応じてそれぞれのグラフが伸びて行き、浮上をしていくとゆっくり下がっていきます。

通常のダイブコンピュータに備わっている1本の体内窒素バーグラフは、その時点でもっとも体内窒素量(圧)が高いコンパートメントを表し、上のグラフだと左から5番目の状態が表示されます。

ダイビング中、水深によってこのグラフの動きはめまぐるしく変化しますが、どこかの組織が100%を超えると減圧潜水に切り替わります。
そして、超えた部分が100%を切るまで指定された浅い水深で減圧停止が必要になります。

このダイブプロファイルだと、TUSAの12コンパートメントのダイブコンピュータの場合、最大で3つの組織(左から3、4、5番目の組織)がダイビング中に100%ラインを超えて減圧潜水状態になっていることが分ります。

初めてご覧になる方はちょっと難しいかもしれませんね。

連載第3回から数回に分けて、ダイブコンピュータの基本的なメカニズムと問題点などを解説していきます。
それを読めば、このシミュレーターの分析方法がより理解できるはずです。

★今村さんが書いたダイバー必読の減圧症予防法テキスト

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PROFILE
某電気系メーカーから、TUSAブランドでお馴染みの株式会社タバタに転職してからダイビングを始めた。友人や知人が相次いで減圧症に罹患して苦しむ様子を目の当たりにして、ダイブコンピュータと減圧症の相関関係を独自の方法で調査・研究し始める。TUSAホームページ上に著述した「減圧症の予防法を知ろう!」が評価され、日本高気圧環境・潜水医学会の「小田原セミナー」や日本水中科学協会の「マンスリーセミナー」など、講演を多数行う。12本のバーグラフで体内窒素量を表示するIQ-850ダイブコンピュータの基本機能や、ソーラー充電式ダイブコンピュータIQ1203. 1204のM値警告機能を考案する等、独自の安全機能を搭載した。現在は株式会社タバタを退職して講演活動などを行っている。夢はフルドットを活かしたより安全なダイブコンピュータを開発すること。
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