辛い治療期間と復帰までの道のり ~減圧症体験からダイバーに伝えたいこと~

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ナイトロックスで潜るパラオ(撮影:越智隆治)

前回(減圧症ダイバーのプロファイルでわかる、リスクある8つのダイビングパターン)、減圧症の体験談を語っていただいた洋子さんのチャンバー治療終了後の話をご紹介します。

減圧症に罹患した私の友人も、完治するまでの数ヶ月間は、天候(気圧)の変化時やエレベーターに乗った時、飛行機搭乗時はもちろん、ちょっとした山越えをする時などに非常に痛がっていました。

一時は一生このままの状態が続くのではないかと心配したほどです。

「減圧症はチャンバーに入れば治る」なんて軽く考えている方は、ぜひ読んでいただきたいと思います。

(※以下、洋子さんのコメントです)

チャンバー治療が終わっても、
減圧症症状がすべて
消えるわけではないという現実

チャンバー治療が終わると、長い治癒期間が始まります。

多くの方が「チャンバー治療の終了=減圧症症状の終了」ととらえられていると思いますが実際は違います。

実は、多くのケースでは減圧症症状が残ったままチャンバー治療が終了します。

チャンバー治療によって、わたしの場合は、日常に支障があったほどの痛みやしびれが改善しました。

しかし、治療で出会った方々や、減圧症に罹患された方々のブログ記事内容と同様に、わたしも例外ではなく、チャンバー治療終了後もことあるごとに症状が出ては消え、いつ完治するのか分からない不安を抱えながら日々過ごしました。

そして、意外と知られていないのが、減圧症治療中の禁忌事項です。

医師によって見解はまちまちのようですが、わたしはチャンバー治療後しばらくはサウナ禁止、関東平野越え禁止、飲酒コントロール(ビール1缶まで可)、飛行機搭乗禁止、激しいスポーツ禁止を言い渡されました。
(※今村注:1ヶ月間入浴禁止というケースもあります。)

今村さん連載用 今村さん連載用

これに加えて、インターネットで調べてみると、熱い湯船や香辛料についても禁忌とされる記事を見つけました。

今村さん連載用

つまりは高所移動と血流に影響するものを避ける必要があると理解したので、すべて約1ヶ月は我慢し、1ヶ月経過したころから少しずつ様子を見ながら試しました。

禁忌事項は辛いものですが、例えば飲酒や香辛料を多く含むものを口にすると、ほぼ100%の確率でしびれの症状が出ました。
不安になって楽しめなかったので、結局のところ安定するまでは避けることが多かったです。

これらの高所移動や血流に影響するものに加え、チャンバー治療後に悩まされるのが天候です。
雨、雪、寒波など、悪天候の日は体に影響します。

わたしが罹患したのは冬だったので、天候不順の日は必ずといって良いほど痛んだりしびれたりしました。

症状は軽い方だったので、頻繁に症状に悩まされたのはチャンバー治療終了後2週間ほどで、1ヶ月も経てばほぼ気にせずに生活できるようになりました。
しかし、通常はもう少し長くかかる場合の方が多いようです。

治療終了後約6ヶ月で復帰ダイビング
ぶりかえしたしびれと不安

症状や治療する先生の見解によって1年空けなければいけないケースもありますが、わたしは症状が落ち着いてから約6ヶ月後に、復帰ダイビングの時期を迎えました。

復帰ダイビング1本目で再発することが多いのと、再発の場合は前よりも重症になることが多いと聞いていたので、なかなか踏ん切りがつきませんでした。
(今村注:最大水深10m以内で潜水時間が短くても再発するケースあり)

症状の自覚症状が消えて5ヶ月経ったころ、復帰ダイビングの判断材料として、はじめての飛行機搭乗と素潜りをしました。

片道7時間のフライトや水深8mほどの素潜りを反復で行いましたが、それでも症状が出なかったので、復帰ダイビングを始めることにしました。

100%再発しないという復帰ダイビングは存在しないので、復帰ダイビングスタートのタイミングはかなり悩むところだと思います。

実施した復帰ダイビングは、オーシャナにも記事を書かれていた山見先生が提唱されているカリキュラム(6回の短縮コース)です。

お世話になっていたダイブショップに相談し、カリキュラムの深度や停滞時間、安全停止時間を厳守するようなダイビングを実施してもらいました。

第1回目は1日1本のダイビングでしたが、ダイビング後には再発を疑ったほどに減圧症の症状(主にしびれ)を自覚しました。
確か3日ほど症状が出ていたため、不安になり、医師に電話したのを覚えています。

第2回も1日1本で、軽いしびれを自覚したものの、第1回ほどの症状は出ませんでした。

このあと回数を重ねるごとにダイビング後の自覚症状は減り、第5回のころには自覚症状がまったく出なくなり、無事にダイビング復帰を叶えることができました。

ダイビング復帰を果たした今、
減圧症に罹患した経験がない
皆さんに強くお伝えしたいこと

減圧症になると、ダイビングができなくなるだけではなく、日常生活にたくさんの支障が出ます。
外回りの営業さんであれば、疲労が強く出ることが多いのでとてもしんどいでしょう。

手を使うような仕事であれば、休む必要もあるかもしれません。
仕事はこなせたとしても、手に力が入らず料理がうまくできなかったり、箸をうまく使えなかったり、たくさんのストレスを受けることになります。

お酒や香辛料の影響が出るので、友人と出かけるのも制限が出てきます。
わたしの場合は、お酒もスパイシーな料理も大好きだったので、それらも我慢することになったことでかなり精神的に堪えました。

これらすべて、しかるべきチャンバー治療をした上でぶつかることになる壁です。

また、何らかの障害が後遺症となり、生涯背負わなければならない重症症状となる場合があることも忘れないでください。

皆さんは、ついつい楽しみを優先したくなったり、不安を覚えても周りのダイバーやインストラクターに言いづらくて、リスクのあるダイビングをしてしまったりすることはありませんか?

もしも、「このダイビング、大丈夫かな……」と、少しでも思ったら冷静な判断を下してください。

「NO 」と言える勇気を持ってください。

これまでリスクのあるダイビングをして何も起こっていないとしても、ずっと大丈夫とは限りません。
減圧症に罹患して後悔しないよう、正しい知識を身に付けて楽しいダイビングライフを長く続けていただきたいと強く思います。

さて、洋子さんの体験談を読まれて、皆さんは何を感じられましたか?

私が強く皆さんにお伝えしたいのは、減圧症は必要以上に恐れるものではないけれど、絶対に怖さを失ってはいけないものだということです。

そして、減圧理論やダイブコンピュータのメカニズムに関する正しい知識を持っていただきたいということです。

正しい知識さえ持っていれば、減圧症に罹患する確率を大幅に減らす事ができると
私は確信しています。

次回から、私が分析してきた減圧症罹患者のダイブプロファイルから、皆さんの参考になる事例を何件かご紹介して行きます。

今までの話の内容が今一つ分らないという方は、
ぜひ第一話からじっくりと読み返してみてくださいね。

★今村さんが書いたダイバー必読の減圧症予防法テキスト

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PROFILE
某電気系メーカーから、TUSAブランドでお馴染みの株式会社タバタに転職してからダイビングを始めた。友人や知人が相次いで減圧症に罹患して苦しむ様子を目の当たりにして、ダイブコンピュータと減圧症の相関関係を独自の方法で調査・研究し始める。TUSAホームページ上に著述した「減圧症の予防法を知ろう!」が評価され、日本高気圧環境・潜水医学会の「小田原セミナー」や日本水中科学協会の「マンスリーセミナー」など、講演を多数行う。12本のバーグラフで体内窒素量を表示するIQ-850ダイブコンピュータの基本機能や、ソーラー充電式ダイブコンピュータIQ1203. 1204のM値警告機能を考案する等、独自の安全機能を搭載した。現在は株式会社タバタを退職して講演活動などを行っている。夢はフルドットを活かしたより安全なダイブコンピュータを開発すること。
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