減圧症ダイバーのプロファイルでわかる、リスクある8つのダイビングパターン

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連載9回目は、前回、減圧症の体験談を語っていただいた洋子さんに、減圧症の治療の事や治療後に思われた事をお聞きしまた。
【前回】 問題ないダイビングのはずなのに、なぜ!? 減圧症体験談

また、洋子さんが罹患された当日のダイブプロファイルのシミュレーションデータから、罹患原因を考察してみたいと思います。

チャンバー(今村さん連載用)

(以下、洋子さんの体験談)

減圧症に罹患して強く思ったこと
そして、すべてのダイバーに伝えたいこと

治療は順調に進みました。

治療、回復~復帰は改めて詳しくお話する予定ですが、チャンバー治療をすると症状が和らぎ、翌日~3日以内に症状が以前よりも弱く復活、再度チャンバー治療をすると症状が和らぎ……を繰り返し、日常生活は普通に送れるようになりました。

私の場合は、ダイビングをやめるという選択肢がそもそもなかったので、罹患後すぐに復帰を望んでいました。

前向きにダイビング復帰に取り組みたいからこそ、「体内の窒素が気泡化して減圧症になりました」という教科書的な話ではなく、どの時点で体の窒素がどれほど溜まっていて、どの時点で気泡化した可能性があるのか、理論的かつ具体的な分析をしたいと考えました。

あの頃は、毎日それを調べるのにほぼすべてのフリータイムを費やしていました。
インターネットで拾える情報の多くはオープンウォーター講習で見聞きした内容で、正直あまり役に立ちません。

そんな中で非常に勉強になったのは、TUSAホームページ上の減圧症関連の論文やIQ-850ダイブコンピュータに関するオーシャナの記事でした。

窒素の溜まる/排出する速度は体の部位によって違うこと。

ある部位ではすでに窒素を排出しているのに対し、ある部位ではまだ窒素を溜め込んでいる状態になること。

それぞれの部位でこのようにバラバラに窒素の吸収/排出が進むため、平均水深が深く、潜水時間の長いダイビングが危険だということ。

理論的には最大水深そのものは減圧症にはあまり関係のないこと(※今村注:平均水深が深くならなければ)などが分かり、少しずつ、ぼんやりと、自分の体に起きていたことがイメージできるようになりました。

後に、偶然ご縁があり、TUSAの今村さんにシミュレーターによる分析をしていただき、私が行ったダイビングは十分にリスクがあったことを理解しました。

自分に起こったことを具体的に理解することで、しっかり安全管理をすれば復帰してダイビングを続けることは十分可能だと自信もつき、最終的に復帰もできました。

結果的には完治して、復帰できて良かったのですが、それは軽症だったからで、私は単にラッキーだったのだと思います。

インターネット検索で見つけたある罹患者の手記には、罹患後であるにも関わらず「チャンバーに入れば治るんだから」という気軽な一言がありましたが、「減圧症は治る」と思うことは軽率だと考えます。

命を落とすことや、重症で社会生活を送れなくなることがある病気ですから、「治療しても治らないかもしれない」と真剣に向き合うべきリスクだと考えます。

減圧症罹患前に知っていた減圧症と、実際のそれとはとても違い、ダイバーであるからにはもっと教科書以上の知識を持っているべきだったと罹患後は反省し、たくさん勉強しました。

今は減圧症という病気を以前よりも理解しているので、落ち着いてダイビングと向き合えています。

今まで減圧症罹患経験のない皆さんにはこれからもずっと罹患して欲しくないので、ぜひ、減圧症についていろいろなことを知っていただき、教科書以上のことをたくさん勉強していただきたいなと思います。

(以下、考察)

罹患当日のダイビングプロファイルと
体内窒素圧(量)の状態

洋子さんの言葉は実際に減圧症に罹患された方だけあって、とても重みがありますね。
では、その洋子さんが減圧症に罹患されたダイビングをシミュレーターで分析してみましょう。

■1本目
  • 潜水時間50分(開始時間と終了時間)10:47-11:37
  • 平均水深 13.3m
  • 最大水深 22.0m
  • 浮上速度違反無、安全停止有、減圧潜水無

洋子さんからの情報をもとに、比較的安全な潜水軌跡にザックリ置き換えて、ダイビングシミュレーションデータを作ってみました。

今村さん連載用 今村さん連載用

上のグラフは1本目のおおまかな潜水軌跡、下はその軌跡によるダイビング中の最大窒素圧です。

体内窒素圧は左から2番目のハーフタイム10分のコンパートメントが74%とM値に対して充分な余裕があります。
ですから、多少潜水軌跡を変えても80%には到達しなかったと推測できます。

また、浮上速度違反もなかったということなので、まったく安全なダイビングだと言えます。

潜水時間は50分ですが、平均水深が13.3mと浅目なので問題はありません。

■2本目
  • 潜水時間42分(開始時間と終了時間)13:43-14:25
  • 平均水深 15.1m
  • 最大水深 30.4m
  • 浮上速度違反有、安全停止有、減圧潜水無

※減圧潜水間近となり浮上したときに浮上速度違反

今村さん連載用

上のグラフは、2本目開始時点の体内窒素状態です。

1本目と2本目の間の水面休息時間は約2時間あったので、
左から順にハーフタイム5分、10分、30分の窒素の吸排出の速いコンパートメントでは
完全に排出されて体内窒素圧がゼロになっています。

窒素の吸排出の遅い組織も全体的に低く、2本目に余裕を持って臨める状態でした。
水面休息時間の取り方は何の問題もなく、十分だったと言えます。

そして、2本目は以下のようなシミュレーションデータを作ってみました。

今村さん連載用 今村さん連載用

上は2本目のおおまかな潜水軌跡、下はダイビング中の最大窒素圧です。

ダイビング中盤で最大水深に達して減圧潜水ギリギリになったシミュレーションです。

ダイビング中の最大窒素圧は左から2番目のハーフタイム10分の組織で、M値(減圧不要限界点)に対して94%まで上昇しています。

浮上速度違反も深い位置でしてしまったという事(グラフの赤い線)でした。

深い水深での浮上速度違反は圧力変化の関係で浅い水深よりは安全ですが、減圧潜水ギリギリまで窒素を溜め込んだ状態だったので、これが減圧症を発症する要因とおそらくなってしまいました。

体内窒素圧(量)がM値に接近、
そして浮上速度違反、反復リバース潜水

結論として言えるのは、この2本目のダイビングは、私が危険ゾーンと考える「平均水深15m以上かつ潜水時間45分以上」というラインの近似値であり、それに浮上速度違反が加わってしまったために、減圧症に罹患したのは止むなしということです。

また、1本目よりも2本目の方が平均水深、最大水深共に深い、いわゆる反復リバース潜水を行っていることもセオリー違反(※1本目と2本目の体内窒素圧の違いをご覧ください)だったと言えます。

今村さん連載用

ダイビング終了時点(浮上時点)の体内窒素圧は上の通りで、最大でも左から5番目のハーフタイム45分組織の75%で、問題があるレベルではありません。

浮上速度違反をしないで、ダイビングの後半の浮上プロセスに気を使えば、おそらく減圧症には罹患する可能性は低かったと思われます。

洋子さんは「初めて減圧潜水切り替わり3分前警告が出たので、焦って浮上速度違反をおかした」そうですが、深い水深で減圧潜水に切り替わった場合には、窒素の吸排出の速い組織が無減圧潜水時間を決定しているので、慌てずゆっくりと浮上して行けばすぐに無減圧潜水に戻ったはずです。

ですから、こういった知識を持ってさえいれば、落ち着いて対応ができたとも言えます。

繰り返しになりますが、洋子さんの罹患ケースでは、2本目途中の体内窒素圧上昇と浮上速度違反、そしてダイビング計画のまずさなどが減圧症を引き起こしてしまったと言えます。

今村さん連載用

第6話でご紹介しましたが、私が今まで減圧症に罹患された70人近いダイバーのダイブプロファイル(本数では400本近く)を分析してきて集計した結果は上記の通りです。
減圧症を防ぐために気にすべきは、平均水深×潜水時間!!
洋子さんのケースは3と8の二つに該当します。
また、1にも極めて近いダイビングをされていました。

私が思うに、減圧症に罹患しやすい、しにくいという体質、そしてその時の体調の良し悪しは罹患理由の大きな割合を占めます。

しかし、何百本も潜っていたダイバーがある時突然罹患してしまうケースは決して少なくありません。

減圧症に罹患したダイバーのダイブプロファイルにはある傾向が見られることをぜひ頭に入れていただきたいと思います。

さて、今回はこれまで。

次回から、洋子さん以外に減圧症に罹患された方のダイブプロファイル例から、いろいろな罹患パターン(潜水軌跡と体内窒素圧)をご紹介したいと思います。

★今村さんが書いたダイバー必読の減圧症予防法テキスト
「減圧症の予防法を知ろう」

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PROFILE
某電気系メーカーから、TUSAブランドでお馴染みの株式会社タバタに転職してからダイビングを始めた。友人や知人が相次いで減圧症に罹患して苦しむ様子を目の当たりにして、ダイブコンピュータと減圧症の相関関係を独自の方法で調査・研究し始める。TUSAホームページ上に著述した「減圧症の予防法を知ろう!」が評価され、日本高気圧環境・潜水医学会の「小田原セミナー」や日本水中科学協会の「マンスリーセミナー」など、講演を多数行う。12本のバーグラフで体内窒素量を表示するIQ-850ダイブコンピュータの基本機能や、ソーラー充電式ダイブコンピュータIQ1203. 1204のM値警告機能を考案する等、独自の安全機能を搭載した。現在は株式会社タバタを退職して講演活動などを行っている。夢はフルドットを活かしたより安全なダイブコンピュータを開発すること。
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