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「おクジラさま ふたつの正義の物語」感想レビュー ~イルカの追い込み漁で揺れた太地が舞台~閲覧無制限

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徒然コラム
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2016年9月9日(土)より東京・渋谷ユーロスペースから公開の「おクジラさま ~ふたつの正義の物語~」を見てきました。

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【あらすじ】

紀伊半島南端に近い、和歌山県太地町。追い込み漁を糾弾した映画『ザ・コーヴ』がアカデミー賞を受賞して以来、この小さな漁師町は世界的論争に巻き込まれた。「くじらの町」として400年の歴史を持つ「誇り」は、シーシェパードを中心とした世界中の活動家たちから集中非難の的となる。ヒートアップする対立が沸点に達しようという2010年秋、佐々木は太地町を訪れる……。

「おクジラさま」公式サイト

映画の本質は捕鯨問題そのものより、
“多様な正義の在り方”

映画を見る前は、太地を一方的に糾弾した映画「ザ・コーヴ」のカウンターとしての役割を意識した、捕鯨問題に切り込む映画だと勝手の想像していた。

しかし、佐々木芽生(めぐみ)監督の根本的な視点は、捕鯨問題そのものではなく、多様な正義があるとういう前提に立った、世界の在り方、共存の方法であり、その重要な役割を果たす、情報発信・コミュケーション。そして、欧米と日本の交わらない正義の衝突として“捕鯨問題”を題材とし、その象徴である太地を舞台としている。

実際、監督自身も、“欧米の反捕鯨に偏り過ぎた報道と捕る側への理解や情報がないことへの疑問”と“日本から反論が聞こえてこない違和感”という問題意識から、「なぜ日本は、クジラやイルカのことで世界の非難を浴びるのか?その答えを探すために何年も太地に通っていた」と記しているので、そうした事前情報、視点を意識して映画を見た。

率直な感想として、多様な視点で捕鯨問題を浮き彫りする本作からは、知らなかった、偏っていた、思い込んでいたなど、新しい気づきや視点を必ず得られるだろう。

太地の言い分を正しく伝える機会を生んだことはもちろん、反対派の意見も伝えているので、決して欧米人だけでなく、我々、日本人も知らないことがたくさんあることに気づかされる。

そういう意味では、“欧米の偏り過ぎた反捕鯨報道や捕る側の理解や情報がないことへの疑問”を解消をするヒントはたくさん詰まっている(欧米でもたくさん上映してほしい)。しかし、一方で、根底のテーマである、情報発信・コミュニケーションは、本作によって理解を深めるほどその難しさを痛感させられる。“日本から反論が聞こえてこない違和感”は、解消されることはないどころか、諦念にも似た気持ちになってくる。

ニューヨーク在住のジャーナリストである佐々木監督の最終的な問題意識も、グローバルスタンダードにおける、日本の孤立、情報発信・コミュニケーションのツールとなる、メディアやSNSの稚拙な戦略にあるのではないだろうか。

一方的に糾弾された、捕鯨をアイデンティティとする太地の人々の気持ちにも寄り添っているだけに、ある種スケープゴートにされた太地への同情と同時に、情報戦の敗北、世界で孤立する日本のもどかしさのようなものを感じた。

おくじら1

映画から感じた
捕鯨に対する欧米と日本の温度差

日本にとって、捕鯨問題における最大の弱点は、多くの人にとって捕鯨や食鯨が、もはや身近な存在でない(と感じている)こと。

問題提起しようと思うと、議論に目を向ける燃料投下がまずは必要となる。結果、アイコンとなるキャラが強烈にならざるを得ない。欧米側がシーシェパードであったり、日本側が国粋系だったり。その最たるものが「ザ・コーヴ」で、是非はともかく、この映画がきっかけで、この問題を知った人も多い。

学者や行政を登場人物にしても誰も振り向かないので仕方ない部分もあるが、ドクロとスキンヘッドのおっさんの声は本質を覆い、無用な対立感情さえも生む(どれだけ民族派が良いこと言ってても、街宣車使った瞬間、聞いてもらえないのと同じ構図)。強烈なキャラの人たちの特別な問題で、シーシェパードが船で体当たりしている映像ばかりが残り、なかなか身近な問題にまで降りてこない。

映画の中で、日本人の多くの意見だと紹介されていた「捕鯨には賛成。だけど、私は食べない」という声が象徴的だ。

捕鯨問題の本質的な問題を理解するには、宗教に根ざした自然観の違いを理解する必要があると映画は教えてくれるが、欧米の反対感情はその本質に依拠した嫌悪感であり、共有するパイも大きい。対して日本は、太地のような捕鯨がアイデンティティにまでなってる人たちは別として、多くの人は、よく反論の根拠とされる伝統・文化としての捕鯨という感覚は薄いのではないだろか。

おくじら2

おくじら3

発信、資金、モチベーションにおいて、そもそも圧倒的に不利であるうえに、日本の世論やメディアも、身近でないのでモチベーションは低く、国際社会への発信も下手。

映画の中の日本のジャーナリストが「まともな議論にならないからSNSはやらないし、HPにもコメント欄を付けない」という言葉が印象的。現地からライブ映像をガンガン流し、SNSをあげまくる反捕鯨派とは対照的だ。

映画をヒントに、
捕鯨問題の糸口を探る

「愛護対象の動物は守って、なんで家畜は殺すんだ」「カンガルー食ってんだろ」「かわいいとか感情で動かず資源として考えるべき」「日本の伝統や文化にとやかく言われる筋合いはない」「生活を奪う気か」

こうした議論では本質には辿りつかず、捕鯨反対派への反論のための反論で終わってしまう。「なんで、そんなこと言うんだろう?」という、その矛盾の理解をしない限り、ずっと平行線は続く。また、「シーシェパードはただのテロ団体で、金儲け野郎だ」とシニカルに見ているだけで、彼らの影響力や戦略を知ろうとしない限り、彼らの思うツボでもある。

相手の理解と情報戦略がない限り、ふたつの正義のコミュニケーションは分断するばかりで、寡黙な正義は、圧倒的な正義に飲み込まれるだけだろう。

多様な正義があるのであれば、法律や科学で戦う(調整)しかないが、その範疇外なら、“思い”を動かすしかなく、共感を得る必要がある。自分の正義を主張するならよっぽど戦略がないとダメだろう。

このことを理解してはじめて戦えるが、さて、そもそも捕鯨に積極的に賛成する日本人はどれくらいいるのだろか……。

監督は、この問題に「グローバリズムvsローカリズム」を見ており、トランプへ投票した人たちを太地に投影している。必死に目の前を生きて築いた誇りや生活が脅かされ、アイデンティティを否定された怒り。

しかし、捕鯨問題が決定的に違うのは、共感そのものの弱さと広がりの弱さ。本気で怒っている人が日本にどれくらいいるのだろうか。そもそも圧倒的にパイが小さいうえに、心の底からの共感なく、反対への反対で終わってしまっているのではないか。

率直にいえば、自分自身も、この問題に関心を持っていたものの、映画を見るまでは、「捕鯨をアイデンティティ」とする感覚は理解、共感できていなかった。しかし、本気のアイデンティティに根付く正義だと理解するほど、この正義を世界に理解させる難しさも感じた。

人よりはイルカやクジラと泳いでる自分としては、まず、率直な気持ちをいえば、明らかに「彼らとコミュニケーションをした」と感じる体験をしてしまっており、その体験が、彼らを単純に資源とみなすことを許さない。だからといって、やみくもに捕鯨に反対する立場でもなく、持続可能や資源管理の見地を入れてやってもらえればいいと思ったりもする。

トンガのホエールスイム(撮影:岡田裕介)

感情論は解決の道を閉ざすが、クジラの親子の営みを目の当たりにした時の温かい気持ちも無視できないのも確か。昔と比べてイルカやクジラと泳ぐ機会も増えている

捕鯨に賛成か反対かの二元論に単純化したくないが、ふんわり言えば、太地の捕鯨を支持する立場であるが、この映画を見て、皮肉なことに、反対する側の新しい視点に発見があり、理解も深まってしまった。目に見えるシーシェパードはただの先鋭的なアイコンに過ぎず、その後ろにあるものを見る必要があると教えられた。

しかし、お互いに理解する姿勢がなければ何も始まらないしフェアでない。
この映画は、欧米の方、反捕鯨の方にも多く見られこそ意味がある。

そして、フェアでないことを前提とした戦略も必要で、行政を巻き込み、共感を広げる活動が必要となる。

グローバルスタンダードの
視点でできること

この映画には「グローバルスタンダードに取り残されている日本」というメッセージが込められている。

きっちりと国の中で管理できる陸上の動物と異なり、国境のない海を回遊するクジラやイルカは、世界共有の資産であるという概念もあることから、よりグローバルスタンダードの視点と調整を必要とする。

2015年の9月、「国連持続可能な開発サミット」が開催され、ニューヨーク国連本部において「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が発表された。捕鯨問題をひもとく上でも、こうした概念を知っておくことは重要だが、日本では、あまり認知されていないのが現状かもしれない。

持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)とは

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持続可能な世界において、海の占める割合は大きく、当然、環境や生物の保全も含まれている。ダイバーの果たす役割は小さくなく、実際、ダイビング業界との連携も活発化しているが、ここでも日本は蚊帳の外というのが現状だ。

2017年9月にUNEP(国連環境計画)と国連環境計画日本協会の間で「MOU締結調印式」が開催され、世界との窓口ができた。

日本協会の事務局長をオーシャナ代表が務めているという縁もあり、オーシャナとしては、より一層、海におけるグローバルスタンダードの視点や情報を伝え、海や海洋生物を愛する人たち、海で働く人たち、ダイバーたちと連携していきたい。

★劇場情報
http://zounoie.com/theater/?id=okujirasama

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