魚をとらねば海はダイバーのもの!?

ダイビング歴45年。やどかり仙人のぶつぶつ多事総論。

前回の日記は、法律上は海は万民のものであって漁業者の占有物ではない。
しかしながら、「漁業者に優先的に漁業をしてよいよ」という権利を
認めているということをお話ししました。
あくまでも漁業に関しての権利でございますな。
つまり、漁業法はダイビングをしてよいとかいけないといった話とは基本的に無関係な法律であります。

もちろん漁業といっても、沖合、あるいは地球の果てまで出かけていく、
マグロなどの遠洋漁業もあれば、巨大な定置網漁業、
果ては小船で海の中を箱めがねでのぞきながら、
サザエやなまこをヤスで突く見突きの漁もあります。

規模は違っても、さまざまな漁業があるわけで、
それに応じた漁業のやり方、規則が決まっておりまして、
特にダイバーが関係するのは、地元の海を区切ってそこで漁業をする権利、
これを共同漁業権といいます。
難しく言いますと、排他的に漁業を営む権利であります。

つまり、この水域を共同で使って生活しなさいよ、
そのために優先的に海を使っていいよというので共同漁業権っていいます。
言い方を変えれば、隣の浦に行って、
勝手に漁をしちゃいけないよということを法律にしたわけであります。
となると、ここの海はおらがもの、おらたちの財産と考えるのは、
少なくともそう感じるのも当然であります。

ただ問題は、財産を守る意識が過剰に働いて、
あまりに排他的にこの権利を守ろうと一生懸命になっちまう結果が、
ダイバーを海から締め出す権利があると信じているのですね。

おらが家の前には柿がなっている。大切な柿。盗られるかもしれん。
心配だからよそ者はみんな通せんぼ。
人を見たら泥棒と思え、あるいは泥棒扱いしておけば一番安全。という発想です。

海は広いな大きいな、なのだから、
ダイバーに潜らせてもよいだろうと思いたいところですが、
ダイバーにとって美しい水中景観、また変化に富んだ水域というのは、
地元でも最も漁業資源に富んだところであることが多いのですな。
ちょっと敷地の端っこを借りているつもりでも、
相手から見れば玄関先で大騒ぎ的な感覚なのでしょう。

さらに困ったことに、この漁業権というのは、
地縁、血縁的な人たちに関係する法律であることを認識しておく必要がございます。
そんなわけで、どうしても、地元の町村や、警察、海上保安庁といった、
お役所は圧倒的に、この法律の排他性を拡大解釈するお手伝いをしちまうのです。

もともと漁業法というのは、
明治時代にできて、第2次大戦後に大改定された法律です。
基本的には漁民の生活権を保護する大切な法律であります。
四方を海に囲まれた、沿岸の海で生計を立てる人が圧倒的に多い日本では
大切な法律であることは、ヤドカリ爺もよくよく承知をしております。

私ヤドカリ爺は決して、漁業組合と喧嘩をしろ、
強引に海に入れなどというつもりはございません。
リクリエーションダイビングは、
あくまでも自分をリフレッシュするために海に行くのであって、
喧嘩などしたら元も子もないのであります。

でもこんな看板を見ると、さすがにムカッとして、
地元の警察や海上保安部とやりあったこともございます。

この水域は共同漁業権が設定されており、
漁業組合員以外は水産物の採捕はできません。
許可なく潜水具などをつけて、水域に入るのを禁じます。

そして、看板の最後には「○○漁業組合。○○警察署。○○海上保安部」と連名があるのです。
当然このような土地では、海辺に車を止めて、スーツでも着ようものなら、
たちまちに、どなたかが飛んできます。
はなはだしい場合は、海から上がると、ちょっと警察まで来いなんてことになり、
ネチネチととっちめられることになります。

ただ、この看板、前半の「水産物を採ってはいけない」というのは、
まったく正しいのでありますが、許可なく水域に入ってはならないというのは、
はっきりいって何の根拠もないのであります。

共同漁業権というのは、よそ者はここで漁業をしてはならないという
法律で認められた権利であって、
漁業をしない人を排除してよいことにはなりません。

問題は警告の後半、「許可なく、水域に立ち入ってはならない」という部分です。
警察や海上保安部が根拠のない警告のお先棒をかついでるようであります。

今や50万人のダイバー人口が、このような不当な扱いを受けております。
せめてその不当性を抗議したいと思いませんか?
いやいや決して喧嘩を売るわけではありません。その方法は……。

1.
許可なくとあるからには、あくまで紳士的に許可をとりましょう。
漁協に行くと、許可どころか怒鳴られるかもしれません。それでいいのです。
警察、海上保安部が連名なら、事前に電話で問い合わせましょう。
こちらも決して許可は取れません。
なぜなら漁業をしない者に、漁業の許可も禁止もできないからです。
特に海の警察である海上保安部などは、散々役所内をたらいまわしにしたあげく、
海で潜っていけない理由はないと返事をするはずです。
少なくとも私の経験ではそうでした。
大切なのは、問い合わせをすることです。必ず担当者の名前を確認しておきます。


2.
「潜水具を着用して、この水域に入ってはいけない」という警告をしているところがあります。
だいたいが漁業調整規則という漁業のやり方を決めた規則が根拠になっております。
その中に潜水具を使用する漁法を禁じている場合があります。
簡単に言えば、「この水域であわび採りにスクーバを使うと資源枯渇するので、
素潜りで採りましょう」といったような規制です。
これもあくまで漁業をする場合の話です。しかし、やはり拡大解釈が行われて、
「俺たち漁業者がタンクを自粛している水域に、よそ者が入るのはけしからん」という理屈です。
このケースでも、海上保安部や警察に問い合わせましょう。
こちらも「潜水具を使っていけない理由を教えてください」と丁重に教えを乞うようにします。
相手はお役所、まったく門前払いにもできないはずです。


警察も、海上保安部も、ダイバーが海に入ってはならない理由などないことは、
十二分に知っており、水産物の泥棒をするとか、仕掛けてある網を切る、
といった明白な犯罪的な行為がない限り、本来出番はありません。
あの看板は”無理が通れば道理が引っ込む“の確

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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