現実はリポビタンD
■法政アクアダイビングシリーズ→前回
海洋トレーニングは毎週日曜日に行われた。
トレーニングする海域は、小田原の早川沖。
ダイビングポイントではなく、地元の漁師と交渉し、特別に使用を許された海域だ。
西湘バイパスの石橋インターのすぐ側に、
当時は漁師が営む食堂があり(後にコンビニになり、現在は空き家)、
その脇の崖を海岸まで降りて行く。
器材運びは1〜2年生の役目。
「ファイト!」「ファイト!」と叫びながら器材を運ぶ下級生。
「遅いぞ!」「だらだらせずに走れ!」と腕組みして見守る(監視する)上級生。
釣り人しかいないのどかな海岸で、
“リポビタンD”のCMのような光景が繰り広げられていた……。
5〜7月の練習はスキンダイビングがメインとなる。
泳力を付けるため、スノーケリングの装備でひたすら水面を泳ぐ。
春の相模湾は透明度が低く、みそ汁の中を泳いでいるよう。
南の島できれいな熱帯魚に囲まれるという夢を持って入った1年生は、
あまりの違いに打ちのめされた。
1時間程度泳ぎ続けた後、次は水深8mに設置した潜降ロープを利用して素潜りの練習。
水面で呼吸を整え、ヘッドファーストで一気に水底を目指す。
ほとんど何も見えない中ひたすら潜り込むと、目の前に突然海底が現れる。
潜降地点には、歴代が卒業記念にと写真を埋め込んだプレートを設置しているのだが、
長年海に浸かっているため写真は色あせ、不敵に微笑むOBたちの顔色はゾンビのよう。
怖すぎて直視できない。
最も過酷なのが “手袋渡し”と名づけられた法政伝統の素潜りトレーニング。
まず、第1バディがグローブ(軍手)をバトンに見立て、水底まで潜り待機し、
間を置いて潜ってきた第2バディに手袋を渡し浮上する。
第3、第4バディと繰り返すのだが、そう簡単には行かない。
後続のバディが耳抜きに失敗する、息が続かないなどで潜って来ないこともある。
そうなると先行したバディは水底でひたすら待たなければならないが、
息が続かず浮上すると「何やってんだ〜!」「オッス!」
「もう1度最初からやり直し!」「オッス!」となる。
そんな練習を繰り返したおかげか、
夏にはスキンダイビングで水深15mに潜れるようになっていた。