残圧20の水中プロポーズ

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30代独身のナナさんは、興味本位でなんとはなしに
男女の出会いの場を提供するyahooパートナーをながめていた。

ダイビングにハマったばかりのナナさんは、
プロフィールでダイビングのことを書いている人を中心に見ていたが、
一人の男性が目に止まる。

ダイバーである人は他に何人もいたが、その人の文章からは、
本当にダイビングを楽しんでいることが伝わってきて好感を持つ。
思い切ってコンタクトし、チャットなどで話すと、
誠実で素敵な男性のような印象を受けた。

一方、男性のHerdeckさん(以下、Hさん)。

2年前に登録したまま放置していたyahooパートナーを通じて突然女性から連絡が来て驚きつつも、
思いきって定型文で「お話しませんか?」と送り、チャットを通じてナナさんと話すようになる。
ナナさんと同様、好印象を持つ。

そして、ついに「会いましょう」。

スキーも得意なHさんは、スキーの帰りに群馬に住むナナさんとついに初対面。
話をしてみるとお互い想像通りの好印象。

ダイビングつながりということで、デート先は『マリンダイビングェア』。
ここでミラクル発生。
なんと、『マリンダイビング』ブースで沖永良部島の2ダイブフリーチケットがペアで大当たり!

「では、一緒に行きませんか?」「そうですね……」。
グッと距離が縮まった。

その後、伊豆の海でもダイビングデートを重ね、
沖永良部ではハナヒゲウツボが異常に好きなHさんが、
見つけたハナヒゲちゃんに夢中になって、水中でナナさんをロストするという失態を犯すも、
静かに燃え上がる2人にはそれもスパイス。

そして、彼女に対する愛を確信したHさんは、ついにプロポーズを決意する。
さらに、どうせならサプライズということで、
2人をつないでくれたダイビング、大好きな石垣島の海の中でプロポーズすることに。

しかし、不安なHさんは暴挙に出る。
なんと、「スキルアップ寺子屋」で和尚に相談(笑)。
以下、その時のやりとりを抜粋。

【質問】
和尚に相談です。ダイビングがきっかけで付き合い始めた彼女がいます。
結婚を意識していますが、口には出していません。
今度行く石垣の海の中でプロポーズしようと考えています。
しかし、うまくいくがどうか不安で、今から眠れないです。
「昔はこんなことしてくれたのに」と生涯のネタにされてしまうかも……。
和尚〜! 私はどうすれば良いでしょう!?

【返答】
〝ダイビングとは出会い〝というのがわしの持論。
もちろん、そこには異性との出会いがあっていいし、
実際アンケートを見ても実に7割以上のダイバーがお相手にダイバーを求めておるわけじゃ。

ということで、出会いを応援するラブ和尚としては、
Hardeck殿の恋を応援するのは当り前だのクラッカー!
わしにド〜ンとまかせないしゃれ(編:一番、相談してはいけない人に……)。

とりあえず、電話してみよ。

和尚(以下:和)「わしじゃ!」
Herdeck(以下:H)「え!」
和 「お主、プロポーズをすべきか悩んでおるそうじゃのう」
H 「そうなんです。どうも一歩踏み出す勇気がなくて……」
和 「このバカチンが! 猪木先生も言っておるじゃろう。迷わず行けよ、行けばわかるさと」
H  「でも、失敗したらと思うと……」
和 「失敗してもそれはそれでわしはおもしろいから別に……ゴホン、失敗を恐れてはいかん」
H 「わかりました! 勇気を出してプロポーズします!」

ということで、和尚に電話をもらい尻を叩かれたHさんは、
ダイビングサービスに協力依頼し、遂にその日はやってきた。

石垣島1本目。ナナさん以外、ガイドもHさんも緊張の中エントリー。
この日ばかりはストレスダイバー。

着底し、ガイドがナナさんに手渡したのは○×の札。
突然のことに驚くナナさん。
なんだろう?と思っていると「石垣について質問します」とガイド。

何だか楽しそうな余興だと思ったナナさんは、
まさかこの後、プロポーズされるとは想像だにしていない。

「石垣島は宮古島より大きい」などなど、石垣島についての何気ない質問が続き、
いよいよ最終問題。ガイドが「最後はHerdeckさんから質問です」。

彼はそっと一枚の写真を彼女に差し出した。
来る前に夜なべして作った、防水の写真で、そこには水中で笑う二人がいた。
そして、そこにはこう文字が添えられていた。

結婚してください

心臓が張り裂けそうな彼。喉がカラッカラで唾を飲むガイド。
そして、まさかのプロポーズに驚きつつも感動しながら彼女が上げた札は……


(はい、ここでホイットニーヒューストンのボディガードのテーマを頭の中で〜)

「まさか水中とは思わず驚いたけどとても嬉しかった。
同じ趣味を持っている人でよかった。これからも一緒に潜りたいです」と
涙のマスククリアをすることになったナナさん。

一方、エア持ちがいいはずのHさんの
エグジット時の残圧はたったの20。

プロポーズ直後のダイビング。
二人を祝福するかのうようにマンタが頭上を舞っていた。


photo by 石丸智仁

“水中結婚式編”へつづく。

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writer
PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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