残圧20の水中プロポーズ
30代独身のナナさんは、興味本位でなんとはなしに
男女の出会いの場を提供するyahooパートナーをながめていた。
ダイビングにハマったばかりのナナさんは、
プロフィールでダイビングのことを書いている人を中心に見ていたが、
一人の男性が目に止まる。
ダイバーである人は他に何人もいたが、その人の文章からは、
本当にダイビングを楽しんでいることが伝わってきて好感を持つ。
思い切ってコンタクトし、チャットなどで話すと、
誠実で素敵な男性のような印象を受けた。
一方、男性のHerdeckさん(以下、Hさん)。
2年前に登録したまま放置していたyahooパートナーを通じて突然女性から連絡が来て驚きつつも、
思いきって定型文で「お話しませんか?」と送り、チャットを通じてナナさんと話すようになる。
ナナさんと同様、好印象を持つ。
そして、ついに「会いましょう」。
スキーも得意なHさんは、スキーの帰りに群馬に住むナナさんとついに初対面。
話をしてみるとお互い想像通りの好印象。
※
ダイビングつながりということで、デート先は『マリンダイビングェア』。
ここでミラクル発生。
なんと、『マリンダイビング』ブースで沖永良部島の2ダイブフリーチケットがペアで大当たり!
「では、一緒に行きませんか?」「そうですね……」。
グッと距離が縮まった。
その後、伊豆の海でもダイビングデートを重ね、
沖永良部ではハナヒゲウツボが異常に好きなHさんが、
見つけたハナヒゲちゃんに夢中になって、水中でナナさんをロストするという失態を犯すも、
静かに燃え上がる2人にはそれもスパイス。
そして、彼女に対する愛を確信したHさんは、ついにプロポーズを決意する。
さらに、どうせならサプライズということで、
2人をつないでくれたダイビング、大好きな石垣島の海の中でプロポーズすることに。
しかし、不安なHさんは暴挙に出る。
なんと、「スキルアップ寺子屋」で和尚に相談(笑)。
以下、その時のやりとりを抜粋。
【質問】
和尚に相談です。ダイビングがきっかけで付き合い始めた彼女がいます。
結婚を意識していますが、口には出していません。
今度行く石垣の海の中でプロポーズしようと考えています。
しかし、うまくいくがどうか不安で、今から眠れないです。
「昔はこんなことしてくれたのに」と生涯のネタにされてしまうかも……。
和尚〜! 私はどうすれば良いでしょう!?
【返答】
〝ダイビングとは出会い〝というのがわしの持論。
もちろん、そこには異性との出会いがあっていいし、
実際アンケートを見ても実に7割以上のダイバーがお相手にダイバーを求めておるわけじゃ。
ということで、出会いを応援するラブ和尚としては、
Hardeck殿の恋を応援するのは当り前だのクラッカー!
わしにド〜ンとまかせないしゃれ(編:一番、相談してはいけない人に……)。
とりあえず、電話してみよ。
和尚(以下:和)「わしじゃ!」
Herdeck(以下:H)「え!」
和 「お主、プロポーズをすべきか悩んでおるそうじゃのう」
H 「そうなんです。どうも一歩踏み出す勇気がなくて……」
和 「このバカチンが! 猪木先生も言っておるじゃろう。迷わず行けよ、行けばわかるさと」
H 「でも、失敗したらと思うと……」
和 「失敗してもそれはそれでわしはおもしろいから別に……ゴホン、失敗を恐れてはいかん」
H 「わかりました! 勇気を出してプロポーズします!」
ということで、和尚に電話をもらい尻を叩かれたHさんは、
ダイビングサービスに協力依頼し、遂にその日はやってきた。
石垣島1本目。ナナさん以外、ガイドもHさんも緊張の中エントリー。
この日ばかりはストレスダイバー。
着底し、ガイドがナナさんに手渡したのは○×の札。
突然のことに驚くナナさん。
なんだろう?と思っていると「石垣について質問します」とガイド。
何だか楽しそうな余興だと思ったナナさんは、
まさかこの後、プロポーズされるとは想像だにしていない。
「石垣島は宮古島より大きい」などなど、石垣島についての何気ない質問が続き、
いよいよ最終問題。ガイドが「最後はHerdeckさんから質問です」。
彼はそっと一枚の写真を彼女に差し出した。
来る前に夜なべして作った、防水の写真で、そこには水中で笑う二人がいた。
そして、そこにはこう文字が添えられていた。
結婚してください
心臓が張り裂けそうな彼。喉がカラッカラで唾を飲むガイド。
そして、まさかのプロポーズに驚きつつも感動しながら彼女が上げた札は……
〇
(はい、ここでホイットニーヒューストンのボディガードのテーマを頭の中で〜)
「まさか水中とは思わず驚いたけどとても嬉しかった。
同じ趣味を持っている人でよかった。これからも一緒に潜りたいです」と
涙のマスククリアをすることになったナナさん。
一方、エア持ちがいいはずのHさんの
エグジット時の残圧はたったの20。
プロポーズ直後のダイビング。
二人を祝福するかのうようにマンタが頭上を舞っていた。
photo by 石丸智仁
“水中結婚式編”へつづく。