空気を読まないシシャモ 〜産卵・生中継〜
こんにちは。須賀潮美です。
東京にもついに本格的な雪!ですね。こんな寒い日には熱かんで一杯。
酒の友、居酒屋の定番メニューといえばシシャモ。
シシャモはなじみの魚でありながら、どんな生態なのか、
そもそも川の魚なのか海の魚なのかを知っている人はダイバーでも少ないでしょう。
今回は知っているようで知らないシシャモの産卵を生中継しようとしたときのエピソードです。
※
作家・立松和平さんと日本全国を旅した「こころと感動の旅」シリーズで、
最も訪れたのは北海道だろう。
知床半島や釧路湿原には、春夏秋冬、季節ごとに通った。
そんな釧路でロケをしていたときのこと。
地元の漁師から、釧路の川にはシシャモが産卵のため海から大群で遡上する。
川の色が真っ黒に変わるくらいの大群で、しかも日にちも11月18日に決まっていて、
暦を背負ったように毎年同じ日の夜10時過ぎに産卵するという情報を聞きつけた。
日にちが決まっていて、しかも「ニュースステーション」の放送時間の夜10時に、
日本人なら誰もが知っているような魚が産卵すると聞けば、生中継するしかない!
夜の生中継は照明も必要なため、装備も人数も大がかりになる。
またまた総勢50名で押しかけた。
シシャモは北海道の太平洋沿岸だけに生息する日本固有の魚だ。
国内で消費されるシシャモの9割はカナダやノルウエー産のカラフトシシャモ。
国産シシャモは1割に過ぎない。
晩秋、水温の低下をきっかけに、婚姻色で身体が黒ずんだ雄と、
卵でお腹がはちきれそうに膨らんだ雌は、海から生まれた川に大群で遡上し産卵する。
シシャモが産卵する、といわれる庶路(しょろ)川の河川敷をナイターができるほどの照明で照らし出し、
静かな川の風景を一変させた中継現場に「11月18日」と断言した漁師が現れ、
「あんたら何やってるの。シシャモはまだ来ないよ。今年は遅れている」と呆れた顔で、
大規模な中継現場を見渡している。
「え〜、そんな……。今日だって断言したじゃないの……」
とにかく、もう中継をやめるわけにはいかない。やるしかない。
夜10時、番組は庶路川の河川敷から
「この放送内にシシャモの産卵を生中継します」と断言する立松さんのリポートでスタート。
水中に潜っている私に「シシャモは現れましたか」と問いかけてきた。
「いえ、まだ現れていません。シューボコ」と答えるしかない。
放送内にシシャモが現れたらいつでも中継できるよう、水温10℃を切った川に潜り続ける。
水深は50㎝ほど、なにもいない河床を見つめ、身も心も凍りついた私に、
東京のスタジオの久米さんからは断続的に「シシャモはまだですか」とプレッシャーがかかる。
「どうしよう…」と困り果てていると、1匹のシシャモが目の前に現れた。
「立松さん、シシャモが現れました!」
「あ〜、来たんだ。シシャモだね〜」と立松さんも盛り上がる。
やっとシシャモの姿を見つけ、ホッとした気分になっていると
「大群と言っていたのに、1匹じゃね」と久米さんにあっさりと切り捨てられた。
番組終了まで80分間粘ったが、シシャモはその1匹しか現れず
(しかもカメラには映らなかった…)、中継は大失敗に終わった。
けれども「これは失敗ではない。テレビを見た人たちが、
私たちが小さなシシャモを相手に翻弄され失敗する姿から、
自然は人間の思い通りになるものではないと感じてもらえたはずだ。
そのメッセージが伝われば大成功」と負け惜しみを言いつつ、庶路川を後にした。
ちなみに、シシャモが産卵したのは、私たちが帰った1週間後だった。