事故の話

その事故は船上で起こった。
ダイビング事故と聞けば水中を思い出すが、
以前の日記で書いた下半身不随になってしまった方も船の事故だった。
自分も含め、事故に対するイメージは海の中だけで、
船上で事故に遭うイメージはほとんどない。
船上で緊張感に包まれているダイバーがいたとしても、
それはこれからやってくる海の中に対するものだろう。
しかし、鉄の塊であるボートが高波で揺れる状況は、
安全バーを降ろさずに乗るジェットコースターのような
ものなのかもしれない。


【事故の状況を彼女のブログからを抜粋&要約】
それは、とある南の島にて、
午前の1本目を終え帰港途中のことだった。
Kさんはボート真中辺りのベンチに旦那さんや
友達と一緒に座っていたが、狭かったので、
人のほとんどいないボートの先端に移動する。
Kさんは直にボートに座り、両手で手すりにつかまりながら、
目の前に広がる景色を堪能していた。まさにそのときのことだった。
ガンッ!
という音がしたかしなかったかはわからないが、
下から突き上げるような衝撃を受け、座った形のまま体が浮き上がる。
そしてそのままの形でボートの床に落下。
その瞬間、
背中の真ん中辺りに衝撃と鈍い痛みが走る。
そして、「なにか詰まった様な感覚」が襲ってきて、
そのまま体を起こしていられず、床に倒れこむ。
原因は高波。しかも、予想だにしていない方向からの波。
「ボートのスピードも出ていたこともあり、
波に乗り上げた格好になってしまったよう」とのこと。
Kさんは、「ヤバイ!」と瞬間的に感じるとともに、
同時に“下半身不随”という言葉が頭に浮かんだという。
その後、担架に乗せられ救急車へ。
そして、病院へと運ばれた。
【ケガの状態】
診断結果は“第一腰椎破裂骨折”で現在も療養中。
つまり、破裂骨折というものらしく、
“骨が潰れてひしゃげる”状態で、
病院の装具屋さんも「交通事故でしか見たことない」という重症。
結果、1ヶ月をベッドの上で絶対安静、つまり寝たきりで過ごす。
その期間の辛い心境をKさんは語る。
「寝たきり=自分の事を自分では出来ない。排泄関係が精神的に一番辛かったことです。案の定、胃潰瘍になりました。 『これが一生続くとなったら、私は耐えられるのだろうか?』ってよく自問自答していましたよ」
現在は、
「至って普通です。痛くもないですし。この療養過程で一番辛かった部分は、過ぎ去ってしまっているので後は待つのみという気持ちです」
と順調な回復を思わせるコメント。少し気持ちが救われる。
しかし、彼女のいう“待つ”というのは、
クリスマスの日に控えるCTとレントゲンの撮影の結果のことで 、
結果によっては手術という事もあり得るのでまだまだ予断はゆるさない。
【船上でも少しの緊張感を】
僕は船の先頭に好んで座る方だ。
海が凪いでいれば、海の大パノラマを独り占めできる特等席。
しかし、船の重心は後方にあるので、最も揺れるのは先頭部。
僕は少々の高波なら先頭に座ったままだが、
それで何度か体を強打したことがある。
波の上下運動に合わせて体を上下運動させれば、
ある程度の揺れならやり過ごせる。
しかし、思いがけない高波が来たり、
波のリズムと体を動かすタイミングを外すと、
体を上下動させる基となる腰を痛打することが多い。
Kさんは、
「もしかしたらダイバーの間では当たり前かもしれない事ですが、
私はボートの前が一番危ないという事を意識はしていませんでした」
と反省するが、
僕のようなそこそこ潜っている人間でも「まあ、大丈夫だろう」と
高波の中、先端や縁などに陣取る人も少なくないだろう。
ノーマークの船上だが、ほんのちょっとの緊張感を持って、
波の動きを気にするだけで、とんでもない事故が防げるのかもしれない。
最後に、メッセージをいただいたKさんの言葉。
「事故の原因は、自分の不注意だと思っています。ただ、私が無知なだけかもしれませんが思ってもみない事で事故に遭うんだなぁと思いまして……。本当に一瞬の出来事でしたが、ヒヤリハットで防げる事故もあるんじゃないかなと。滅多にない事とは思いますが、そんな怪我をする人が1人でも減ることに協力できれば幸いです」
「その他、今回の事故では“海外での事故の恐ろしさ”を感じました。
日本と海外での医療の違い。 治療意識の違い、受け止め方の違い……。 考えさせられることは多々ありました」
※詳細はKさんのブログをご覧ください。
http://blog.goo.ne.jp/kotobuki-koto/
※Kさんの「ダイビングショップの方には非常に良くしていただいて、感謝こそすれ文句を言うつもりは全然ありません」という気持ちへのご配慮ある書き込みお願いします。

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PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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