日本国内24+3時間の船旅 小笠原諸島でドリフトダイビング13本勝負!
東京に引っ越して早2年が経つ。
遂に生きているうちに絶対行きたい日本のダイビングスポット1位だった小笠原諸島に行くことを達成した。もう未練はない。
いや待て。まだ小笠原諸島ではドルフィンスイムとホエールウォッチングしかしていないぞ。生物多様性に溢れる海をスキューバダイビングでも潜ってみたい…。
初めての小笠原は、フリーダイバー篠宮龍三の率いる素潜りトリップで訪れた。キャンセルで空席が出たことをFacebookで見つけ、衝動で値段も聞かずに申し込んだ。
深海まで突き抜けるような青さの透明度が印象的な秋の海だった。
上級者向けダイビングエリアを潜り渡るダイバーが集う海
前回の素潜りトリップ時にチャーターしていたボートの「ダイビング&ペンションFISHEYE」笠井船長と、クルーでダイビングガイドの久保田君との会話で、筆者である自分が元々スキューバダイビングのガイドで、今はオーシャナで記事を書いていることを話した。
笠井船長からは
「小笠原には夏のマッコウクジラ、冬のザトウクジラ、1年中イルカと泳げて、世界大戦のレックにテクニカルダイビングもできるし、フリーダイビングもサポートできる。船上キャンプで秘境の無人島に潜りにいける。こんなところ他にはないよ!取材に来てよ!」
とラブコールを。そしてガイドの久保田君からは「ゴールデンウィーク手伝ってください!」とお誘いをいただいた。
半分冗談だろうな、と思いつつも「仕事で来れたら最高だな…」と心の内にそっと秘めていたが、なんと半年足らずで実現してしまったのだ。
オーシャナの取材…ではない。GWのダイビングガイドのお手伝いだ。
飛行機で気軽に帰れない交通の便の悪さもあり、小笠原諸島には「本気で海が好きな人」が集まるが、それ故に人材不足が課題となっているようだ。
FISHEYEは神子元島や与那国島、粟国島など上級者向け大物・群れポイントを潜り渡る猛者達が集う。小笠原諸島の中でも屈指のハイレベルなガイドサービスだ。
そのような場所に呼んでもらうのは光栄でもあり刺激的だ。約2年ぶりのガイド復帰に腕がなる。渡航の1週間前からは足腰の筋トレを始めた。
今回の記事では、小笠原諸島で大物・群れ狙いで潜り倒した5日間13本のダイビング旅を紹介する。小笠原でのダイビングが未経験の方も、小笠原でのダイビングが物足りなかったダイバーの方も、ガイドの隙を見てこっそり撮影したGoPro動画と切り出し画像で楽しんでほしい。
1日目:到着日から激流2ダイブ!父島の南「閂ロック」でギンガメアジを狙う
24時間30分の船旅を経て父島に到着した。海の時化でおがさわら丸の到着が30分遅れたことが響き、潮流と日没の関係から急ぎ足でダイビングの準備をしてボートへ向かう。
初日だから軽めにチェックダイブだろうと思っていたが、FISHEYEのゲストはほぼ全員リピーター。最低経験本数が100本。参加ゲストの平均本数が400本。
「明日から風向きが悪いので、行ける内に閂(かんぬき)いっちゃいます」
と久保田氏。さすがに攻めるな…
ゲストダイバーの皆さんが潜る準備をしているうちに「閂ロック」に2人で潮流チェックもかねて下見のダイブ。透視度が良くて地形も分かりやすいので泳ぐコースは問題ないが、場所によっては来た道を戻れないどころか立ち止まることもキツイくらいの激流だ。
ここでは、水深25m付近のすり鉢状にえぐれた場所に集まるギンガメアジを狙った。群れの数は沖縄の粟国島ほど多くないが、1匹1匹のサイズがでかくて迫力がある。ロウニンアジが混ざっているのかと錯覚するほどだ。
閂ロックは潮の流れに逆らうとなればそれなりの体力が必要だが、安全なルートさえ通れば生き物を見つつ浅場の砂地まで流れる様に辿り着くこともできる。上級者向けだが、技術に応じた様々なアプローチができる表情豊かなポイントだ。
初日の父島ダイビングは、浅瀬の砂地で春の時期ならでは「ミナミイカナゴ」や「オグロオトメエイ」など日本では小笠原諸島でしか見られないような魚たちが印象的だった。
2日目:ぐるぐると変わる風の中、電波が圏外になる父島東側の「ドブ磯」へ
気象予報では南東の風、南西の風、北の風、北東の風と3日間で目まぐるしく変化する。2日目は西からの強い風を避けるために父島の港を出発したら島をグルッと東側に回った。
東側には魚影が濃いドロップオフの「ドブ磯」という有名なダイビングスポットがある。小笠原のダイビングショップやマリンダイビングでもよく紹介されている場所だ。
しかし、行ってはみたもののドブ磯がとても潜れる状況ではなかったので、風向きが変わってうねりがおさまるまで別のポイントを潜ることにし、ドブ磯の近くにある「テング根」というポイントへ。
とても見晴らしの良い地形の場所で、スコンと抜けた透視度の中、ゆるい流れに乗りながら気持ちよくダイビングができた。
小笠原では「根魚※1」という言葉をよく使う。
※1 名前の通り、水中に点在する岩場の「根」に住み着く魚。周囲が水深1000m以上の海域に囲まれている小笠原諸島は、魚たちが住む場所も制限されているので1ヶ所への依存度が高いと感じる。ヨスジフエダイ、アカヒメジ、ノコギリダイなどの南国系にテングダイなどの本州系が混ざっているのが小笠原の海の特徴。
連日雨予報だったが太陽が出てくれて、ボニンブルー※2に黄色い魚がよく映える。また、ここでは食事中のユウゼンの群れを見ることもできた。ユウゼンは「友禅染め」の模様が美しい日本固有種のチョウチョウウオ。個人的にも大好きな魚だ。
※2 かつて無人島だった小笠原諸島は「無人島(ブニンジマ)」と呼ばれ、その後定住した欧米系住民が「Bonin island」となまったことが由来にある。小笠原諸島は開拓期や戦後占領下に外国から移り住んだ人も多く、沖縄や伊豆諸島と違い、どこかハワイやミクロネシアの島々に似た雰囲気を感じる。
父島の北側には「兄島」があり、さらにその北には「孫島」がある。
この日は、父島諸島最北の「孫島平根」も潜った。依然としてうねりが強く、潮の流れも早いので、船長・ガイド・ゲストダイバーのすべてにテクニックが求められる。
FISHEYEの大型ダイビングボート「Beast MasterⅢ」は、九州から小笠原諸島まで波高3m以上の中を自走してきたパワーと安定性を持つ、小笠原屈指の船だ。
聞けばこのポイントを潜るダイビングショップはほとんどないという。
ガイドのアグレッシブなポイント選択が身を結び、イソマグロ、ヒレナガカンパチ、そして日本では小笠原諸島にしか生息していないシロワニの姿を見ることができた。
群れだけではなく大物の魚も、南国系・本州系・ほぼ固有種と小笠原らしい多様性を感じることができた。