日本国内24+3時間の船旅 小笠原諸島でドリフトダイビング13本勝負!
3日目:いよいよ3時間の遠征ダイビング!聟島・嫁島のケータ列島へ
今回の日程で最も海が落ち着く日は、いつもより1時間早い朝7:00の出航となった。
父島から約50km、2時間半から3時間かけて無人島の聟島列島(むこじまれっとう)へ向かう。
通称「ケータ※3」と呼ばれる聟島列島は、海が荒れた日には片道6時間かかったこともあるという外洋の島々だ。
東京からおがさわら丸で父島へ向かう途中に見えるのだが、尖塔のように海中からそびえ立つ針の岩やガラパゴス諸島を彷彿とさせる巨大なアーチが秘境感を増す。
「ゴールデンウィークはムコヒラがいいんです」
と久保田氏は言う。
※3 かつてイギリス人の「キャプテン・ケーター」から名付けられた。本来は父島に近い「嫁島」がkater islandだったが、記述のミスで聟島がケーター島になり、聟島列島をケータ列島と呼ぶようになったそう。日本語ってそういうの多い。
2時間かけて船を走らせると嫁島が見えてきた。ほとんどのダイビングショップはケータ遠征といえば嫁島で、中でも有名な「マグロ穴」を潜る。時間と積荷の制約もあり、2ダイブしかできないようだ。
FISHEYEはボート上でタンクに充填ができるので、ダイバーがランチ休憩している時に3本目のタンクが用意される。せっかく24時間かけて小笠原諸島に来て、さらに3時間かけてケータ遠征するのだから3本潜ってほしいと言う願いが設備に込められている。
午前中は聟島平根(ムコジマヒラネ)を2ダイブした。
数ヶ月の間、誰も潜っていないケータは透視度も抜群。潮流の下見を兼ねてガイド二人でエントリーした時に、何も言わずハイタッチをしたほどコンディションは完璧だった。
海を埋め尽くすほどのウメイロモドキに包まれ、ギンガメアジ同様に他の海域よりもサイズがでかいカッポレ(ブラック系のアジ)やボスのように君臨するロウニンアジを中層で楽しむ。岩場の亀裂を進むと1.5mほどのホワイトチップリーフシャークが5〜6匹で謎の集会をしている。
外側のドロップオフでは、ミサイルのようなイソマグロが次々と現れ、餌を豊富に食べているのであろう巨大なアザハタやヒレナガカンパチの群れが、深場からダイバーを覗き込むように出てくる。大物を狙う釣り人が小笠原諸島にたくさん集う理由が分かる。
訪れる人間の数が少ない場所はこんなにも魚であふれ返っているのだ。モルディブの海を初めて潜った時と同じ感動があった。
世界的の有名な海外ダイビングスポットへ行けない今、小笠原諸島はそのポストとポテンシャルを持つ唯一の場所かもしれない。もちろん、国内には他にも素晴らしい場所がたくさんあるが、実際にこの海を潜っている間は「ここは最強だ」と思ってしまう。
聟島では、ポイントに着く直前にザトウクジラが何度もジャンプをしていた。
1本目の後に休憩している時もクジラの潮吹きが見られ、水中で会ってしまうのではないかとドキドキする。
2月や3月は父島周辺でダイビングをしていると水中でザトウクジラに遭遇することもあるそうだ。滞在中に連日見た人もいる。何度も言うが、こんな海は少なくとも国内にはない。冬の小笠原諸島にも来てしまいそうだ。
3本目は帰路がてら嫁島へ向かう。おがさわら丸で遠くから見た巨大なアーチは、ダイビングボートで近くを通ると圧倒的な迫力だ。頭上にはかつて絶滅寸前だったアホウドリやミズナギドリといったバードウォッチング愛好家が泣いて喜ぶほどの貴重種が無数に舞っている。
テレビ番組の秘境ドキュメンタリーで見る景色に、自分がいる。
Beast MasterⅢの他に1隻だけが嫁島を潜っていた。この期間の航海では約600人が小笠原諸島に訪れているが、ケータ列島まで来たダイバーは30人に満たないだろう。
嫁島では、ひさしぶりに来た人間に興奮するミナミハンドウイルカと一緒に泳ぐこともできた。挑発的なイルカに、フリーダイバーとしては腕が鳴る。1分間ほど水中での素潜り勝負を挑んだが、息こらえでの勝負はあっけなく敗れた。
水面休息時間を2時間ほど取っていたが、スキューバダイビングで体に残留窒素が溜まっている間はスキンダイビングは避けた方がいい。潜る水深は3m程度に抑え、浮上をできる限りゆっくりおこなった。
次は水中イルカ※4で出会いたいものだ。
※4 小笠原諸島では、シュノーケリングやスキンダイビングでイルカを観察するドルフィンスイムだけではなく、スキューバダイビング中に出会うこともある。ダイビング中にイルカと出会うことを水中イルカやスキューバイルカと呼ぶ。スキューバ中に突然目の前に現れる野生のイルカは、スイムとは別の感動と達成感がある。南太平洋のタヒチ以外でこんな経験ができるとは驚きだ。
嫁島のマグロ穴では50匹ほどのイソマグロを見ることができた。1匹1匹のサイズが大きく十分に楽しめたが、夏のシーズン中は100〜200匹の群れが集まることもあるという。夏も来なければ…。
イソマグロの群れだけでも十分に満足なのだが、ここでもシロワニを発見し、威風堂々と泳ぐ姿を撮影することができた。
4日目:荒れる海の中、強風から逃れた父島の南でイルカと泳ぐ
前日の好天から一転して、冷たい北風、強風で立つ波、水の色を暗くする雨のバッドコンディションな日だ。父島は縦に細長い形をしているので、北風と南風には弱い。潜れるダイビングスポットがかなり制限される。
そのような日でもFISHEYEはベテランダイバーを喜ばせる可能性を限りなく高める。
「うちの連中は中々満足してくれないから」
と、水中でのクジラやイルカの出会いに期待する猛者達を相手にする船長とガイドに頭が下がる。
船の名前である「Beast Master」はクジラやイルカなどの鯨類を従える意なのか、それとも大物を求めて過酷な海を潜る猛獣のような人間たちを操る意なのか…。
まだ風が弱い朝一は、南島の西側にある「ブンジロ浅根」を潜った。
2日目の孫島が父島列島北の端で、ドブ磯が東の端。ここは西の端に位置する。
できるだけ外洋に近いスポットを狙う。魚群への執念が半端ない。まるで釣り船だ。
ここでは奇跡的に水中でミナミハンドウイルカが現れた。
2本目は風を少し避けて「霊岸島」を潜った。ついに島周りの平穏な場所を選んだか、と思ったが、後々ポイントマップを確認するとほぼ南の端だった。2日間で列島の東西南北を制覇したことになる。FISHEYEおそるべし。
日本中で燃油高が悲鳴を上げる中、これだけ船を走らせてくれるダイビングサービスは中々ないだろう。一部では燃油サーチャージを導入するほどだ。
2本目は水中でザトウクジラとイルカの声が聴こえていたが、会うまではいかず。
お昼の休憩中にハシナガイルカとミナミハンドウイルカの群れに出会い、シュノーケリングで一緒に泳ぐことができた。
潜水後の激しい運動は禁止されているので、スキューバ後にドルフィンスイムをおこなうときは昼休憩を長めに取ったり、水分をしっかり補給したり、泳いで追いかけることは極力せずに水面に浮かんでリラックスしながら観察や撮影を楽しんでほしい。
もはや休憩ならず。昼ごはんをゆっくり食べている暇がないほど楽しませてくれる。
3本目は、おがさわら丸を始め父島の漁船やダイビングボートが停泊する二見港のダイビングスポットを潜る。風速は10mを超えており、帰港する船も多い。
風が強くなるタイミングを完璧に読んでいたかのように、湾内の沈船ポイントへ向かった。
「油槽船」と呼ばれるレックダイビングスポットだ。
ここでは沈船の周囲に住むシロワニを狙ったが、残念なことに透視度が悪く、一瞬しか姿を見ることはできなかった。
しかし、浅場に咲き乱れるスギノキミドリイシのサンゴ群生に癒され、悪天候の1日を気持ちよく締めくくることができた。