水中の鉱山を潜るマインダイビングとは? 実態と始め方を解説
オーシャナ読者の皆様、大変長い間ご無沙汰しておりました。サイドマウント馬鹿こと、石井でございます。短いお付き合いとなりますが、どうか今回も以前と変わらぬ生暖かい目で見守っていただけますと幸いです。今回はサイドマウントではなく、テクニカルダイビングの一つ「マインダイビング(MINE DIVING)」について解説していきます。
マインダイビングとは?
さて、突然ですが皆様はマインダイビングをご存知でしょうか?マインダイビングとは、地下水の流出や雨水などで水没した、廃坑となった鉱山(マイン)を潜るダイビングのこと。水没した鉱山(坑道)を潜るため、頭上閉鎖空間でのダイビングとなり、特別な訓練が必要なテクニカルダイビングに分類されます。
主な鉱山はトラックで鉱物を運んでいたため、車でトンネル内に侵入が可能。そのため、ダイビングのエントリー口まで器材を運ぶことができます。

車で乗り付けられるほど大きな鉱山の入り口

エントリー口も十分な広さが
水没した坑道内はケーブダイビングと同じように暗い水中のトンネルとなっております。坑道内には通常そこを最初に潜ったダイバー(エクスプローラー)が引いたメインのガイドライン(パーマネントライン)が設置されており、ダイバーはそのラインに沿って潜ります。
途中トンネルの分岐に合わせてラインも枝分かれし、その進路は左右や上下に分かれ、中には交差点のように十字に複雑に枝分かれする箇所も。基本は鉱物を運ぶトラックが通れるような大きな空間の坑道がありますが、随所に採掘のための小さな坑道もあります。
また、パイプなどを通すために階層間を繋ぐ小さな穴も所どころ存在し、水中空間を3次元的に潜れるスキューバダイビングにとっては、狭いところを飛びながらくぐり抜けるような感覚を味わえます。

パイプ用の斜めに下降するトンネルを進むわたくし
また、坑道内は要所要所に金属製の大きな扉があり、ある扉は崩壊していて枠しか残っていなかったり、ある扉は完全に閉ざされていたりとその様子はさまざま。ペネトレダイバーの大好物と言っても過言でない(私だけ?)中途半端にちょっとだけ開いている扉もあります。
さらには掘削用と思われる機械や、用途がなんだか分からないけどなんかカッコいい機械もゴロゴロし冒険心を焚き付けます。

少しだけ開いている、冒険心をくすぐる坑道内の扉
また、床に目を向けると当時使用されていたトラックの轍がそのまま残されていたり、細かく砕いた石などで舗装されていた当時の様子も伺えたりもします。
人工的に掘られているとはいえ、岩盤や岩壁の自然物、水底に残る機械や轍、床や頭上を走るパイプ群、それらがダイバーの照らすライトで青白く美しい風景を作り出します。ケーブダイビングのような自然の景色とは異なり、ライトアップされた人工物が作り出す情景は神秘的で心が躍ります。

坑道内の様子
マインダイビングの歴史は古く19世紀まで遡り、炭鉱労働者が当時のダイビング器材を使用し、水中トンネルでの作業や探索等で潜っていました。近年ではヨーロッパを中心に、多くのダイバーに楽しまれています。
どうですか?
マインダイビングについてサクッと説明させていただきましたが、興味をお持ち頂けたでしょうか?
でも、正直マインダイビングのためにヨーロッパに行くのはちょっと大変かもしれませんね。そんな中、近年になってタイでマインダイビングの環境開発が始まりました。
活動の中心になっているのはミコ・パッシ氏とパラス・ポー・コマラダット氏。ミコ氏は数年前にタイで起きた洞窟に閉じ込められたサッカー少年救出に参加されており、タイ国王からも表彰されたタイのトップダイバー の一人です。
また、エクスプローラーとしても世界的に認知されているダイバーです(エクスプローラーについては後日説明しますね)。もともとヨーロッパのマインダイビングに興味があったわたくしは、その情報を聞きつけると速攻でミコ氏に連絡をとり、マインダイビングの講習を申し込みました。

世界的な名ダイバー、タイ在住フィンランド人のミコ・パッシ氏
マインダイビングを始めるには?
マインダイビングは頭上閉鎖空間を潜る、ペネトレーション(侵入)ダイビングでテクニカルダイビングになります。そのため、カバーンダイバーまたは同等の資格が必要になります(教育機関によって異なりますので、ご興味のある方は受講を希望する団体の前資格をご確認ください)。またフルケーブダイバーの資格があると、講習が短縮される場合があります(こちらも教育機関によって異なります。ご確認ください)。
ただ、ここで挙げているカバーンとはレクリエーショナルダイビングでのカバーンスペシャリティではなく、テクニカルダイビングのカバーンダイバーステイタスとなります。そのため、使用する器材もダブルタンクやサイドマウント、リブリーザーのようなテクニカルダイビンク基準となります。

わたくしのリブリーザーKISSサイドワインダー
私は既にテクニカルダイビングのフルケーブダイバー、ケーブCCR(リブリーザー)ダイバーの資格を所持し、また、リブリーザーのインストラクターでもあったので、いくつかのスキルを短縮して受講できました。
マインダイバーコースはケーブ同様に複数のマインを講習中に潜らなければなりません。私が受講したタイの鉱山は狭いエリアに複数の水没した坑道があるため、講習の条件は満たされております。潜水回数や時間は教育機関によって異なりますが、潜水回数は10〜12、合計の潜水時間は240〜340分くらい となっています。

受講生にブリーフィングするミコ氏
スキルについての前条件は先に挙げたカバーンダイバーとしての技術は必須ですが、やはりこの手のペネトレーションダイビングでは中性浮力の維持はとても重要なスキルです。ペネトレーションダイビングでは水底にシルト(砂などの堆積物)が溜まっている場合が多くマインも例外ではありません。
浮力を維持するための下方へのフィンキックや、バランスを取るために手で水を掻いてしまうと、沈澱していた砂や泥が舞い上がり、一気に視界が悪くなります。視界が悪くなるとダイバー同士のコミュニケーションが難しくなったり、方向感覚や上下の感覚を失います。そうなると最悪、出口がわからなくなり事故につながる場合があるので細心の注意を払う必要があります。
さらに、中性浮力を維持したままで活動しなければなりません。
ラインを引いたり、コミュニケーションをしたり…。
その時に中性浮力の維持に意識が向いてしまうと、行動能力や思考能力が疎かになりミスにつながる場合があります。これは事故につながるかもしれないので危ないですね。そのため、中性浮力の維持は絶対スキルといえるでしょう。

狭いトンネルの中で中性浮力を維持しながら下降するわたくし
さて、サクサクっとマインダイビングについて説明させていただきましたが、いかがだったでしょうか?あまり馴染みのないダイビングだと思いますが、まだ未開発のタイのマインは冒険に満ち溢れております。
あまり長々と説明すると編集の彗加さんにグーで殴られますので、今回はここまでにしたいと思います(笑)。次回はマインダイバーコースの受講とマインダイビングについてもう少し詳しくお話しさせていただきますね。
それではみなさま、ごきげんよう!