スマートな耳抜き-DANスマートガイド 耳抜き編-

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スマートな耳抜き DANスマートガイド耳抜き編の画像

このスマートガイドの目的は、圧力に耳がどのように反応するかを理解し、そしてスキューバダイビング中に耳を守るのに最も良い方法が分かるようになることです。

※本記事はDAN JAPANが発行する会報誌「Alert Diver」2020年秋号からの転載です。

この記事でわかること

プロのように耳抜きをする
◉耳はどのように圧力に反応するか
◉耳抜きをする6つの方法
◉耳抜きを簡単にする10のワザ
◉その他の耳のトラブルに対する処置

CHAPTER01 耳の障害は防ぐことができる

中耳というものは死腔になっていて、のどの奥に通っている耳管のみで外部と繋がっています。

中耳の圧力を高めて、外耳および内耳の圧力と釣り合わせることができないと、痛みを伴う中耳の圧外傷が生じます。これが、最も一般的な耳の損傷です。

そこで安全に耳抜きをするカギとなるのは、通常は閉じている耳管を(両方とも)開くこと。耳管には、“耳管隆起”と呼ばれる一種の逆止弁があり、これによって鼻の中の汚れが中耳に上がってこないようになっているのです。耳管を開けて高圧の空気が喉から中耳に入るようにするには、普通は意識的な動作が必要です。たいていは嚥下(飲み込む動作)をすると耳管が開きます。

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私たちは、一日に何度も嚥下を行うことによって、気づかないうちに耳抜きをしています。酸素は常に中耳の組織に吸収されますから、中耳内の空気圧が低下することになります。唾を飲み込む動作をすると、軟口蓋(上あごの奥の「のどひこ(のどちんこの意)」のあたり)の筋肉に引っ張られて耳管が開き、空気が喉から中耳に入ってきて、圧力が均等になります。このため、飲み込むときにわずかに“ポン” “クッ” と聞こえます。

しかし、スキューバダイビングでは、この圧平衡のシステムが予想しているものよりずっと大きくて急激な圧力変化が生じます。このため、それを何とかする必要があります。

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スイマーズ・イヤーといわれる外耳炎から、重篤で、時に損傷が長く続くことがある圧外傷まで、ダイバーは耳のトラブルを受けやすいといわれます。これは、私たちの聴覚と平衡感覚を司る繊細な仕組みが、ダイビングによって生じる急激な圧力変化に対応するように作られていないからです。

どうして耳抜きをしなければならないのか

耳抜きをしないでダイビングすると、中耳の圧外傷になる可能性があります。以下に、耳抜きをしないとどんなことになるか、順を追って説明します。

フィート メートル 影響
1 0.3 水面下1フィートでは、鼓膜の外側にかかる水圧は内側にかかる水面の空気圧より0.445psi(0.03気圧)大きくなります。鼓膜は内側に曲げられ、耳に圧迫感があります。
2 0.6
3 0.9
4 1.2 4フィートでは、圧力差は1.78psi(0.12気圧)に高まります。鼓膜は中耳の方に引っ張られますので、中耳と内耳の間にある正円窓と卵円窓も同様に曲がります。鼓膜の神経末端は引き延ばされ、痛みが出始めます。
5 1.5
6 1.8 6フィートでは、圧力差は2.67psi(0.18気圧)に増え、鼓膜はさらに引き延ばされます。鼓膜の組織が裂けはじめ、炎症が最大1週間続きます。鼓膜にある小さい血管は拡張するか裂けて、傷ができ、3週間ほど治りません。耳管は圧力のために閉じてしまい、耳抜きができなくなり、痛みはますますひどくなります。
7 2.1
8 2.4 8フィートでは、圧力差は3.56psi(0.24気圧)になります。運がよければ、血液と粘液が周囲の組織から吸い出され、中耳を満たし始めます。これを中耳圧外傷といいます。液体(空気ではなく)により鼓膜にかかる圧力が釣り合います。痛みは引いて、その代わりに耳の中に何かがつまった感じになります。これは1週間以上続き、体液が身体に再吸収されるまで続きます。
9 2.7
10 3.0 10フィートでは、圧力差は4.45psi(0.3気圧)になります。すごくうまくいった場合を除き(例えば、潜降が早すぎる場合)鼓膜が破れる可能性があります。すると中耳に水が入ります。平衡器官(前庭階)が突然冷たいと感じると、バーティゴ(めまい)が生じるおそれがあります。特に、鼓膜が片方だけ破れた場合になります。突然、世界が自分の周りでぐるぐる回転しますが、この感覚は中耳の中で水が体温で温められると、おそらく止まるでしょう。あるいは、鼻をつまんで強く長く息を吐いて耳ぬきをしようとすると、中耳と内耳の間にある正円窓の薄膜を破いてしまうおそれがあります。これを中耳圧外傷といいます。外リンパ液が蝸牛から中耳に流れ込みます。一時的、あるいは後遺的な聴覚障害を生じるおそれがあります。

※メートルの換算は概算です

CHAPTER02 耳抜きの方法

耳抜きをするには、耳管の下端を開いて、空気がうまく入ってくるようにするだけです。

鼻をつまんで息を吐く(バルサルバ法)

ほとんどのダイバーが教わるこの方法。鼻翼をつまんで(あるいは、マスクのスカートに鼻を押しつけて息が漏れないようにして)、鼻から息を吐きます。そうすることで喉の中の圧力が高まり、耳管に空気が送り込まれます。しかし、バルサルバ法には問題点が3つあります。

❶耳管を開く筋肉を使わないので、圧力差のためにすでに耳管がロックされていると上手くいきません。
❷思わず強く力みすぎることで、簡単にどこかを傷つけてしまうことがあります。
❸鼻が詰まった状態で息を吹き込むと、体液を含む内耳の圧力が上昇し、“正円窓”が破れる危険性があります。それを防ぐためにも強く吹き込まず、5秒以上圧力を維持しないようにしてください。

嚥下とさまざまな耳抜きの方法は全て、通常閉じている耳管を開き、外耳と内耳との圧力差を小さくする方法です。もっとも安全な耳抜きの方法は、耳管を開ける喉の筋肉を利用するものです。残念ながら、ほとんどのダイバーが教わるバルサルバ法では、この筋肉を使わずに喉から耳管に空気が強制的に送り込まれます。

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外部の圧力変化が生じる前にダイバーが耳管を開けたままにしておけば問題はありませんが、ダイバーが早めに、あるいは問題が起こらないくらい頻繁に耳抜きをしていないと、圧力差のために軟組織が押しつけられ、耳管の末端が閉じてしまう可能性があります。この状態で軟組織に空気を押し込んでも、さらに閉じさせてしまうだけです。中耳に空気はまったく入らないため、圧外傷が生じます。さらに悪いことに、バルサルバ法を行っている時に強く息込みすぎると、内耳の正円窓と卵円窓が破れる可能性があります。

上記以外の方法で、以下のような安全な方法があります

■#01 受動的な方法

これは何もしなくてよいものです

典型的には浮上の際に生じます。

■#02 トインビー法

鼻をつまんで嚥下(飲み込む動作)をする

鼻をつまむか、マスクのスカートで鼻をブロックして、飲み込む動作(嚥下運動)をします。飲み込む動作をすることで、耳管が開くと同時に舌が動き鼻が閉じるので、空気が耳管に押し込まれます。

■#03 フレンゼル法

鼻をつまんで“K”の字の音をだす

鼻をつまみ、喉の奥を何か重いものを持ち上げようとする感じにして閉じます。それから、“K”の字の音をだします。こうすると舌の裏が上にあげられるので、空気を耳管の開口部に押しつけることになります。

■#04 自発的耳管開放

喉を緊張させ、顎を前に突き出す

軟口蓋と喉の筋肉を緊張させ、あくびをするように顎を前の下方向に突き出します。この筋肉が耳管を引っ張って開けてくれます。これには何度も練習する必要がありますが、ダイバーの中にはこの筋肉をコントロールできるようになって、耳管を開放したままにしてずっと圧力を平衡にしておける人もいます。

■#05 ローリー法

鼻をつまみ、息を吐いて、飲み込む動作をする

バルサルバ法とトインビー法の組み合わせです。鼻翼を閉じて、息を吐くのと飲み込む動作を同時に行います。

■#06 エドモンズ法

鼻をつまんで息を吐き、顎を前に突き出す

軟口蓋(口の上側の後ろにある柔らかい組織)と喉の筋肉を緊張させ、顎を前の下方向につきだし、バルサルバ法を行います。

CHAPTER03 練習すれば完璧になる

耳抜きが苦手なダイバーは、いくつかのテクニックを習得するとよいでしょう。多くは、繰り返し練習しないと難しいものですが、これはどこでも練習できるスクーバスキルのひとつです。鏡の前で練習してみてください。そうすれば、喉の筋肉を観察できます。

グッドニュース

深く行けば行くほど、耳抜きの回数は少なくて済みます。これは、ボイルの法則から導かれることです。たとえば、水面から6フィート(1.8m)潜降すると、中耳の空間は20%圧縮され、痛みが出ます。しかし、30フィートからだと、同じ20%圧縮されるにはもう12.5フィート(約3.75m)潜降するということになります。

最大水深に達したら、もう一度耳抜きをしてください。中耳の陰圧はとても小さくて感じないかもしれませんが、何分間か継続するなら、次第に圧外傷を引き起こす可能性があります。

耳抜きを簡単にする10のワザ

■#01 “ポン” という音に注意する

ボートに乗る前に、飲み込む動作をすると両耳に“ポン” や“クッ” という音がするのを確かめてください。この音で、両方の耳管が開いているのがわかります。

■#02 早めに始める

ダイビングの何時間か前に、5分くらいごとに優しく耳抜きを始めます。“こうするのはとても意味があり、潜降時に耳がブロックされにくくなるといわれています” と“潜水医学オンライン” のウェブマスターであるErnest S. Campbell 博士は述べています。“水面休息時にチューインガムを噛むとよいかもしれません”とCampbell 博士は付け足しています。

■#03 水面で耳抜きをする

水面で“前もって圧をかける” のは、最初の数フィートというカギになる深さを通過する助けになります。その数フィートはBCDからエアを抜く、マスククリアをするなど大変なことがよくあるためです。また、そうすることで耳管が膨らみ、少し太くなります。ここで気を付けたいのは、役に立ちそうだと思う時だけ、そっと圧力をかけるということです。

■#04 フィートファースト(足から)で潜降します

空気は耳管を持ち上げる方向に働き、液体状の粘液は下方向に流れるようになります。いくつかの研究によると、バルサルバ法では頭を下にした姿勢の方が、頭を上に下姿勢より50%多く力が必要だということです。

■#05 上を見る

首を伸ばすと、耳管が開きやすくなります。

■#06 潜降ラインを使う

アンカーラインや係留ラインを引っ張って潜降すると、潜降速度をずっと正確にコントロールすることができます。ラインを使わないと、潜降速度は思っているよりずっと速くなるでしょう。逆にラインがあれば、耳に圧力を感じたらすぐに停止できるので、圧外傷を予防することもできます。

■#07 先回りする

頻繁に耳抜きして、中耳を僅かに陽圧にしておくようにします。

■#08 痛みがあるなら停止する

痛いのに無理をしてはいけません。おそらく、耳管は圧力差によって閉じてしまっていて、圧外傷になってしまう状態です。耳に痛みを感じたら、数フィート浮上して、耳抜きをやり直してみてください。

■#09 タバコとアルコールは 避けましょう

タバコとアルコールは両方とも粘膜を刺激し、耳管をふさぐ粘液がたくさんでるようになります。

■#10 マスクに水がはいらないようにしておきましょう

鼻に水が入ると、粘膜が刺激され詰まる原因となる物質が増えます。

CHAPTER04 耳のトラブルへの対処法

浮上の際の中耳圧外傷、またはリバースブロック

■どんなことが起こるか
浮上の際に中耳から圧力を解放しなければなりません。さもないと、膨張する空気のために鼓膜が押され、鼓膜が破れることがあります。普通、膨張する空気は耳管から排出されますが、水深下で耳管が粘液により塞がれていると(よくあるのは、潜降に際して耳抜きがうまくいかなかった、あるいは、風邪をひいてダイビングした、鬱血防止剤に頼って潜り水深下で薬効が切れたため)、圧外傷になる可能性があります。

■どんな感じがするか
◉圧迫されている感じがした後に痛みを感じる
◉ダイバーの中には平衡器官に異常な圧力がかかってバーティゴ(めまい)を感じる人もいます。

■どうすればよいか
場合によっては、潜降の時に使う耳抜きのテクニックのどれかで浮上でも耳が抜けることがあります。また、問題の耳を水底に向けるとよいこともあります。エアの残りに合わせてできるだけゆっくり浮上しますが、最後の30フィート(約10m)が最も大変なことに注意してください。そうしないと、痛いのを我慢して水面に到達しなければなりません。

内耳の圧外傷

■どんなことが起こるか
(耳抜きをしないとか強くバルサルバ法をすることで生じる)中耳にかかるストレスによって、時に内耳周辺の聴覚器官(蝸牛)や平衡器官(前庭階)に損傷が生じ、後遺障害に至る可能性があります。

■どんな感じがするか
◉難聴
全く聞こえず、それも即時に起こり、ずっと聞こえない可能性がありますが、通常ダイバーは高音域が聞こえなくなります。2~3時間経たないと聞こえないことに気がつきません。聴覚検査をするまで聞こえないことに気づかない場合もあります。

◉耳鳴り
“耳鳴り”、リンリン音やシューシュー音が聞こえることがあります。

◉バーティゴ(めまい)
周囲がぐるぐる回っているような感覚で、吐き気を伴うことがあります。

■どうすればよいか
ダイビングを中止し、できるだけ早く耳鼻咽喉科の専門医でダイバーの治療をしている人に診てもらうようにしてください。内耳傷害は扱いが難しく、専門家による迅速かつ正しい治療が必要です。

外耳の圧外傷

■どんなことが起こるか
きついフードや耳垢の塊、穴のない耳栓などで外耳道が塞がれると、そこが死腔になって潜降の際に圧力を平衡にできません。鼓膜は外側に膨らみ、周囲の組織の圧力が増加するために、外耳道は血液と体液で満たされます。

■どんな感じがするか
中耳の圧外傷と似たような感じになります。

■どうすればよいか
外耳をきれいにしておきますが、これは外骨腫症という、外耳道にできる硬い骨のような腫瘍のあるダイバーには、このために汚れや耳垢が溜まり、また、非常に大きくなって外耳道を完全に塞いでしまうこともあるため、難しいでしょう。この骨腫は冷水との接触が繰り返されることが原因と考えられています。

■予防
フードをかぶる。こうすると耳への水の流れが少なくなります。また、そこに入る水は暖かくなります。

■耳がベンズになる可能性はありますか?
あります。これは、内耳減圧症(DCS)といわれるもので、減圧の後に、マイクロバルブ(微小な気泡)が内耳の体液で満たされた空間や蝸牛、前庭階にできる場合です。症状は、圧外傷に起因しない難聴、バーティゴ、耳鳴りで、中枢神経系減圧症(DCS)の症状、たとえば、チリチリ感とか関節の痛みといったものですが、そうしたものを伴わずに生じる可能性があります。

■結論
限度を超えていたなら、内耳の症状に気をつけて、何か問題があればすぐに専門家の診察を受けましょう。内耳の圧外傷による傷害と減圧症(DCS)による傷害とは症状は似ていますが、治療方法は全く異なります。再圧治療は、原因が減圧症(DCS)なら効果的ですが、原因が圧外傷の場合には問題を悪化させる可能性があります。

圧外傷でダイビングできるでしょうか?

さて、休暇でダイビングに行った最初のダイビングで興奮してしまって、耳の痛みに気づかず、中耳の圧外傷になってしまったとしましょう。耳に何か“詰まった” 感じがして(血液と粘液で)よく聞こえませんが、気分はいいです。また、耳抜きはもう問題ありません。費用も大分かかったことも含め、あなたはダイビングを続けられるでしょうか? 費用も大分かかりましたし。

中にはダイビングを続ける人もいますが、難聴のリスクや平衡感覚のコントロールに重大なリスクを負うことになります。感染症のリスクが間違いなくあることに加えて、同時に、内耳に損傷を受けていないとは限らない、ということを覚えておいてください。内耳の損傷の症状は必ずしも強いものでも、すぐに生じるものでもありません。医学的な見地からは、中耳の圧外傷になったら、水から上がって治るまで水には入らないよう勧められています。

バーティゴ——上はどっちだ?

バーティゴは周囲が回転している感覚で、中耳や内耳の傷害でよくみられる症状です。これは、平衡感覚機能である前庭階が両耳腔に隣接しているため起こります。実際に前庭階は内耳の一部と考えられていて、蝸牛とは、体内で最も薄い細胞2つ分の厚さしかない膜で隔てられています。

水中でバーティゴになると、どちらが上なのか分からずパニックになることがあります。(緊急時の注意:マスクの中の水を観察して自分の向きを判断し、アワを追いかけてゆっくりと水面に向かいます)。さらに、バーティゴには嘔吐が伴うことがよくあります。こういったことがあると準備をしておけば、驚くことはないでしょう。

前庭階の損傷は、減圧症(DCS)によるものであっても、圧力によるショックであっても、治らないのが普通です。バーティゴは2~6週間で消失することがありますが、これは損傷を受けた側を脳が補い無視するようになるからです。しかし、前庭階は回復するわけではありません。反対側の前庭階も損傷すれば、車の運転はもちろん、ダイビングなどなおの事できなくなります。

バーティゴは、片方の耳だけが抜けて圧力差がある場合や、冷水が片方の耳に入ってもう片方には入らず温度差がある場合など、片方の耳だけが刺激された場合にも起こります。どちらの場合も、脳は前庭系への不均等な刺激を動きと解釈します。幸いなことに、この種のバーティゴは、不均等な刺激がなくなれば消失し、後遺症も残りません。

「スマートな耳抜き」を実践するための専門医からのアドバイス

耳抜きのトラブルがあったら、ぜひ専門医の診察を受けてみましょう。「DANスマートガイド―耳抜き編」では、耳抜きの基本やスキルを紹介しましたが、ダイバーの耳の専門医・安井紀代先生に、さらに詳しくダイバーがかかりやすい耳の病気やその対処法、ダイビング中に注意したいことなどを伺ってみました。

――ダイバーの患者さんからは、どんな相談が多いですか?

安井先生

当院にいらっしゃる方は、耳抜き不良に起因する症状にお困りの方が大半です。耳抜きができない。潜水中に耳が痛くなる。耳が詰まった感じがする。病名でいうと「中耳気圧外傷」の方がほとんどです。患者さんにはまず耳管機能検査を受けていただき、鼓膜に異常はないか、今の耳抜きにどういう問題があるかなどを診ていきます。そしてオトヴェントを用いた練習方法を、特にどのように気をつけながら練習すべきかなどをお話しするようにしています。

――記事中ではいろいろな耳抜きの方法が紹介されていますが、安井先生が推奨されている方法はありますか?

安井先生

「嚥下法」ができれば一番簡単で安全ですが、個人の生来的な体質によるところが大きく、人によっては体得が難しいかもしれません。オトヴェントを用いて、「バルサルバ法」での安全な圧のかけ方を覚えていただくのが良いと考えます。この「バルサルバ法」での圧のかけ方が重要で、オトヴェントの圧よりも強すぎると二度と潜れなくなるような外リンパ瘻という疾患に陥り、耳鳴り、難聴、めまいなどの後遺症を残すこともあり、ダイバー生命を失うことになります。オトヴェントの強さを超えないこと、徐々にゆっくりと圧力をかけることが重要です。

――オトヴェントでの練習は、どのくらいすればいいですか?

安井先生

気体の体積変化が強い水深5m付近までは50㎝に1回程度、水深5~10mでは約1mに1回、以降は違和感が生じた時に耳抜きすることが推奨されています。従って、少なくとも1回のダイビングで20~30回の耳抜きが必要となります。1日3ダイブ潜るとすると90回くらいは正確な耳抜きができるようにならないといけません。

当院の外来では1日100回、適切な耳抜きができるようになることを目指して練習していただくようにお伝えしています。

――片方の耳だけ耳抜きがうまくいかないことがあります。これは何か原因があるので しょうか?

安井先生

原因としては、鼓膜の問題、そして耳管機能の問題が挙げられます。鼓膜の問題としては、自覚がなくても中耳炎の影響で鼓膜が一部薄かったり、硬くて動きが悪かったり、時には小さな孔が空いている方もいらっしゃいます。潜水に適さない鼓膜であることもありますので、注意が必要です。

また耳管機能に左右差がある場合、耳管機能の悪い方に合わせた適切な耳抜きが必要です。耳管機能は片側だけ悪いことも、両方悪いことも同じぐらいあります。

――鼓膜が破れてしまっても、完治すれば今までどおりにダイビングができますか?それとも再生した鼓膜がまた破れやすくなることはありますか?

安井先生

もともとの鼓膜が正常であって、鼓膜が見た目にきれいで完璧に治ったのであれば、その後の潜水は可能です。しかし残念なことにダイバーの鼓膜穿孔は、ほとんどが小児期の中耳炎の後遺症で鼓膜が薄くなって再生している方に起こりやすくなっています。再生した鼓膜はトラブルが生じやすく潜水適性はありません。従ってなるべく穿孔しないように、正しい耳抜きをする必要があります。

――ダイビング中に起こった耳の障害で、一度なってしまうと、完全に治らないものはありますか?

安井先生

外リンパ瘻や内耳減圧症などにかかると、難聴や耳鳴、めまいが治らない可能性があります。また水中でのめまい(外リンパ瘻や鼓膜穿孔などが原因で起こる)は潜水事故の原因となり命の危険も伴います。いずれの場合も、一度なると繰り返しやすく、しかもどんどん重症化してゆくので、一度耳の障害を起こしたら,もう潜れない場合もあると覚悟しなければなりません。

このような耳の病気にかからないために、少しでも耳に違和感を感じたり、不調があったら無理をせず、中止する勇気を持っていただきたいと思います。

スマートな耳抜き DANスマートガイド耳抜き編の画像 

安井紀代先生
1997年 和歌山県立医科大学卒業、和歌山県立医科大学 耳鼻科入局。和歌山県立医大助手、助教、和歌山労災病院 医長、社会保険紀南病院医長、部長、主任部長を経て、2016年8月《耳鼻咽喉科ゆうクリニック》開院。ダイバーの耳のトラブルを積極的に診察、治療している。日本耳鼻咽喉科学会専門医、補聴器相談医、補聴器適合判定医師。

■耳鼻咽喉科ゆうクリニック
〒649-6425 和歌山県紀の川市中井阪205-3
TEL.0736-77-1511

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