自然写真家・高砂淳二氏特別インタビュー 「足るを知る」ことが、今の私たちに大切なこと

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受賞作品「Heavenly Flamingos」

受賞作品「Heavenly Flamingos」

――自然写真家・高砂淳二氏が「Wildlife Photographer of the Year」の自然芸術部門で、最優秀賞を受賞――。ロシアのウクライナ侵攻など、胸が塞がれるような出来事が多かった2022年、私たちに大きな喜びと感動を与えてくれたのが、このニュースだった。
 
受賞から少し時間が経ち、あらためて今、どのようなことを高砂氏は感じているのだろうか。今の世の中で、自然写真家ができること。そして私たちダイバーの一人ひとりができること…。37年に及ぶ写真家としての活動をとおして高砂氏が感じている想いを、熱く語っていただいた。
 

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欧米の人たちの自然写真への関心や評価が嬉しかった

オーシャナ編集部(以下、――)この度は素晴らしい賞を受賞されて、あらためまして本当におめでとうございます。「自然写真界の最高峰」と称される写真賞「Wildlife Photographer of the Year」のNatural Artistry(自然芸術部門)で、日本人初となる最優秀賞を受賞されたわけですが、あらためて受賞されたときのことをお聞かせください。
 

高砂淳二氏(以下、高砂氏) 

授賞式がロンドン自然史博物館のホールで行われたんですが、そこでは他の受賞者の方や博物館の方といろんな話ができたのがよかったですね。皆さん写真に対して興味があるのはもちろんですけど、自然写真に対してすごい興味もリスペクトもあって。僕の作品について、どんどんいろいろ質問してきてくれるんですよ。本当に嬉しかったですね。それと、世界で活躍されているトニー・ウーさんも水中部門で最優秀賞を受賞され、会場で久しぶりにお会いできたのも嬉しかったです。
 
そして授賞式の翌々日からそこの博物館で写真展も始まるということで、オープニングレセプションがありまして、世界各国からメディアが取材に来ていて。そういった取材の方たちも、一点ずつ作品を見て感想を言ってくれたりして、自然写真への興味が本当にあるんだなと感じました。日本のメディアでも受賞を取り上げていただきましたが、反応の仕方は違いますね。海外のメディアより、自然写真に対しての興味が薄いように感じて、そこはちょっと寂しいですね…。
 

 
――日本のメディアでの取り上げ方だと、「日本人が海外のフォトコンテストですごい賞を取りました」というのが先に来ている感じがしますよね…。「日本人が海外で頑張った!」ということが強調されているような(笑)。最近は日本の水中写真家やカメラマンの方たちも、海外のフォトコンテストに作品を出してチャレンジする方が増えているようです。海外のフォトコンテストは、英語でエントリーしたり、やり取りをしなくてはいけないし、そのへんは日本人にとってはハードルが高いですよね…。
 

高砂氏

はい。でも、僕が思うには、日本の水中写真のレベルはかなり高いと思うんですよ。自然写真もそうですし。海外の写真家は、決定的瞬間を狙うような撮り方が多いですが、日本人の写真家は被写体に対して少し控え目というかね。何か日本人の自然観や侘び寂びにも通じるような感じを受けるんです。僕の今回の受賞作品も、そっちの系統だと思います。
 


 
――この作品をフォトコンテストに出すことになったきっかけなどは、何かあるんでしょうか? またこの作品のどんなところが評価されたとお考えになりますか?
 

高砂氏

娘がドイツに住んでいるのですが、ちょうどこんなフォトコンがあるからお父さん出してみれば?と教えてくれて。それで出すことにしたんです。この作品はフラミンゴが特に何かしているとか、そういう写真ではなくて。自然とのハーモニーが実現している、そんな作品だと思うんです。この写真が評価してもらえたのは、「自然と共存する」とかそんな感じがよかったんじゃないかと思いますね。
 

――あのフラミンゴの写真を拝見して、とても穏やかで平和な世界観を感じました。戦争やコロナ禍などが起きている混沌とした地球上に、あんな素晴らしい場面があるんだととても癒されました。この作品が2022年に選ばれたことには、大きな意味があるのではないでしょうか。
 

写真家としての転機となったハワイでの出会い

――撮影に行かれる場所や被写体などは、どのように決められているんですか?
 

高砂氏

いろいろなんですけど、何かで写真を見て「ここ行ってみたいな」と思ったり、誰かから「ここはいいよ」と勧めてもらったり。受賞作品のフラミンゴを撮ったウユニ塩湖は、家族が何かで見て「こんな場所があるみたい」と教えてくれました。
 
撮影場所や対象となる動物などを決めるときは、わりと自分の興味で決めていく感じですね。たとえば最初にダイビングを始めたときに、海の中ってこんな透明で気持ちが良くって、どこまでが自分の体かわからなくなるような感覚があるんだと感動しました。それで、水の気持ち良さを撮るようになって。
 
それからイルカに出会ったら、こんな野生動物なのに、人間のところに遊びに来るなんてありえない…と思ってからは、すっかりはまりましたね(笑)。陸上でも不思議な植物や動物がいっぱいいて、「これはどういう生き物なんだろう?」といった興味からどんどんいろんなものを撮影していくようになりました。
 
あとは「たまたま誰かに出会って」というのもあります。たとえばハワイで先住民に会って話を聞いていたら、「夜の虹」の話を教えてもらって。

 
――「夜の虹」のお話は、高砂さんの著書(『夜の虹の向こうへ』小学館)で読んだことがあります。
 

高砂氏

「夜の虹は最高の祝福」であり、見た人にとって「大きな変化の前触れ」であるというのですが、なんと話を聞いた直後に夜の虹が見られたんです。それはとても感動しました。
このハワイでの経験から、目の前に出てきた自分の興味の延長だったり、もしくはそこに現れた人だったり、そういったことが縁をつないでくれるんだと実感するようになりました。自分が動かなくても回転寿司のように、次のテーマが回ってくるんです(笑)。
 

ハワイの「夜の虹」は、見た者にとって最大の祝福になると言われている。写真集『night rainbow』より

ハワイの「夜の虹」は、見た者にとって最大の祝福になると言われている。写真集『night rainbow』より

――それはすごい経験ですね!ハワイは高砂さんにとって、特別な場所なんですね。
 

高砂氏

ハワイでの人との出会いというのは、自分にとっては結構大きいんです。ある時、人を癒すシャーマンに出会って。薬草やロミロミマッサージ、祈祷などで人を癒していくんですが、その方がおもしろい方だったので弟子入りしたんですよ(笑)。毎日いろいろなことを教えていただいて。
 
その方は二言目には「“ALOHA”だぞ」って言うんです。最初、アロハっていうのは「こんにちは」という挨拶か、アロハシャツのことかくらいにしか思ってなかったんですが(笑)、実は深い意味があったんですね。“ALOHA”は大まかにいうと「愛情、愛すること」みたいな意味で。日本語で「愛が一番大切」なんて言うと、ちょっと照れくさい感じがしますが、ハワイの人たちは「ALOHAが一番大切」だと思っています。
 
人に対してはもちろん、自然や生き物たちに対しても、向き合う時は“ALOHA”な気持ちを忘れずにいたい。それは撮影するときにも、とても大切にしています。相手をリスペクトして、その場の雰囲気を壊さないように気をつけて撮影する。そうすることで、いい写真が撮れると思います。
 

――自然をリスペクトすることは、本当に大切だと思います。ほかに撮影されるときに心がけていらっしゃることはあるんでしょうか?
 

高砂氏

もう一つの柱となるのが、被写体となる自然との一体感ですね。僕は合気道や空手、柔術などの武道が好きで、ずっとやってきています。合気道は文字通り「気を合わせること」が大事なわけですが、これは撮影と相通じる部分が多分にあります。野生動物は、こちらがちょっと見ただけで、カメラを向けて撮ろうとしただけで、こちらの気を感じます。彼らは敏感なので、「何としてもいい写真を撮りたい」というこちらの気が強すぎると、警戒してしまうんです。ダイバーの方が魚を撮ろうとすると、近づいた瞬間にピュッと逃げられてしまうことってありますよね。海の中だったら、水と同化するような感じで、相手にこちらの気が伝わり過ぎないようにします。
 
一体感というのかな、そこに自然と自分も入っているような感じになると、撮影がしやすくなりますよ。ALOHA(愛)や感謝の気持ちを意識して持って、体の動かし方なども意識して行っていると、相手にも伝わって警戒心もなくなって、一体感のある空間になるんです。
 

――高砂さんの作品を見ていると、撮影者が自然の中に溶け込んでいるような印象を受けます。なかなか私たちには難しい境地のような気もしますが、そういった心がけで撮影することが大切なんですね。
 
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PROFILE
大学時代に慶良間諸島でキャンプを行い、沖縄の海に魅せられる。卒業後、(株)水中造形センター入社。『マリンダイビング』、『海と島の旅』、『マリンフォト』編集部所属。モルディブ、タヒチ、セイシェル、ニューカレドニア、メキシコ、タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア、オーストラリアなどの海と島を取材。独立後はフリーランスの編集者・ライターとして、幅広いジャンルで活動を続けている。
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