自然写真家・高砂淳二氏特別インタビュー 「足るを知る」ことが、今の私たちに大切なこと

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便利なものを作り出したのも人間、環境問題を解決できるのも人間

――自然に向き合って撮影をされてきた高砂さんは、地球の環境問題への発言もいろいろされています。今、海洋プラスチックごみの問題など、多くの課題が山積しているように感じます。私たちダイバーに、何かできることはあるのでしょうか?
 

高砂氏

1996年、今から26年前になりますが、太平洋に浮かぶミッドウェー島へ撮影に行きました。そこで愛らしいコアホウドリのヒナを撮影したんですが、彼らのお腹にプラスチックごみが溜まって、死んでしまうという話を聞いたんです。そのとき撮影したのが、こちらの写真です。
 

ミッドウェー島は野鳥の大繁殖地。毛が生え替わる途中のコアホウドリのヒナに出会った

ミッドウェー島は野鳥の大繁殖地。毛が生え替わる途中のコアホウドリのヒナに出会った

コアホウドリの亡骸の中央には、プラスチックごみが。親鳥が食べ物と間違えて海に浮かぶプラスチック片をヒナに与えてしまい、結果的に栄養失調で餓死してしまうという(撮影:高砂淳二)

コアホウドリの亡骸の中央には、プラスチックごみが。親鳥が食べ物と間違えて海に浮かぶプラスチック片をヒナに与えてしまい、結果的に栄養失調で餓死してしまうという(撮影:高砂淳二)

――こんなに美しい自然の中にいる愛らしい鳥にまで、人間の出したごみの影響が及んでいることは、衝撃的です…。
 

高砂氏

2050年には海にすむ魚の量を、プラスチックの量が超えてしまうそうです。プラスチックごみだけでなく、温暖化によるサンゴの白化や南極などで氷が溶けてしまう現象など、いろいろな問題が起こっています。しかし「3.5%の人が変わると、状況が変わる」と言われています。こういった地球環境の問題についても、私たちが考え方や行動を変えていくことが大事なのではないでしょうか。
 
プラスチックという便利なものを生み出したのも人間、環境問題を引き起こしているのも人間。しかしこれを解決していくこともできるのも人間です。
 

――具体的に、どんなふうに考え方や行動を変えていったらよいでしょうか?
 

高砂氏

消費者として環境に配慮した洗剤を選ぶとか、ペットボトルに入った飲み物はなるべく購入しないなど、できることをしていけばいいと思います。またダイバーの皆さんは、磯焼けを起こしてしまっている海などを実際に自分の目で見て、写真に撮って人に伝えるなど、そういうこともできますよね。
 
「足るを知る」という言葉があります。お金を出せばなんでも買えて、おいしいものも食べ放題できるというような考え方は、もうやめたほうがいいと思うんです。地球上の哺乳類の割合は、野生動物はわずか4%、人間が36%、そして残りの60%は家畜と言われています。週1回肉を食べない日を作るとか、無理のない範囲で構わないので、一人ひとりが無駄な消費をしないように心がけることが大事なのではないでしょうか。
 

――「足るを知る」ことは大切ですね。無駄な消費をしないということなら、今すぐに始められそうな気がします。
 

高砂氏

あと「自分を大事にする」こと。これも大切です。ハワイで「ホ・オポノポノ」という言葉があるんですが、これは「ALOHA(愛)」や「感謝」や「相手を尊重したり許し合ったりする気持ち」などをもって周りと接することでバランスを取っていく智恵のことです。自分を大事にできない人間は、ほかの人に感謝をしたり、尊重する気持ちを持ったりすることはできないと思うんです。自分を大事にすることで、初めてまわりの人を認めたり、大切に思うことができます。これは自然や地球環境に対しても、同じです。
 

――最後になりますが、今後高砂さんが写真家としてチャレンジしたいことや、目標などがあれば教えていただけますでしょうか。
 

高砂氏

気づいたら写真家として仕事を始めてから、37年経っていました。自然の仕組みだったり、人とのかかわり方だったりを考えるようになってきて。受賞をきっかけにいろいろなメディアで取材していただいて、発言したりしていますが、写真で伝えたいことを伝えることを、しっかりやっていきたいです。また新型コロナウイルスも収束しつつあるので、3年ぶりになりますが、海外にも撮影にどんどん出て行きたいと思っています。
 

――ありがとうございました。またどんな作品を私たちに見せていただけるのか、楽しみにしています。
 

高砂氏の話を伺っていて、被写体となる自然をリスペクトする気持ちがとても強く、一体感を大切に撮影されているという話が印象に残った。また私たち人類が「足るを知る」ことこそが、今起きているさまざまな問題(環境問題はもちろんのこと国際紛争なども含めて)を解決していくうえで、とても大事だと痛感した。
 
一人ひとりができることは、わずかなことかもしれない。でも一人でも多くの人が意識を変え、行動を変えていくことで、今地球で起こっているさまざまな問題を解決する糸口は見えてくるはずだ。読者の皆さんにも、できることから行動を起こしていっていただけたらと思う。

高砂淳二
高砂淳二
写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。ダイビング専門誌の専属カメラマンを経て、1989年に独立。地球全体を仕事の場として、水中から空中まで自然の瞬間を捉え、野生生物、風景、自然現象、星を撮影しながら、世界中を旅している。著書多数。ニコンTHE GALLERY、東京ミッドタウン富士フイルムスクエア、渋谷パルコ、阪急百貨店、コニカミノルタプラザ、ザルツブルク美術館などで作品展を開催。2008年、外務省主催の太平洋・島サミット記念写真展「Pacific Islands」を担当。テレビ、ラジオ、雑誌、トークイベントなど幅広いメディアに出演し、自然への思いや自然と人間との関係を伝え続けている。2018年には宮城県の「みやぎ絆大使」に就任。海の環境NPO法人「OWS」理事を務める。また2022年、世界で最も権威のある写真賞のひとつであるロンドン自然史博物館が主催する「Wildlife Photographer of the Year」の自然芸術部門で、日本人初の最優秀賞を受賞。

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PROFILE
大学時代に慶良間諸島でキャンプを行い、沖縄の海に魅せられる。卒業後、(株)水中造形センター入社。『マリンダイビング』、『海と島の旅』、『マリンフォト』編集部所属。モルディブ、タヒチ、セイシェル、ニューカレドニア、メキシコ、タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア、オーストラリアなどの海と島を取材。独立後はフリーランスの編集者・ライターとして、幅広いジャンルで活動を続けている。
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