【映像あり】日本初!「ザトウクジラ出産前後の撮影に成功」の秘話とは
ここ数日、ダイビング中にクジラに遭遇するダイバーが相次ぎ、オーシャナの記事欄もクジラに関する情報で盛り上がっている。なぜなら、1〜3月はザトウクジラが子育てや繁殖のために小笠原諸島、奄美大島、沖縄周辺等の日本の海へやってくる時期だからだ。
そんな中、奄美クジラ・イルカ協会のホエールウォッチング船「マリンスポーツ奄美」のツアー中に、国内初となる出産前後のザトウクジラ親子の観察記録に成功したという嬉しいニュースが飛び込んできた!
頑張って尾びれを動かし泳ぐ、生まれたての仔クジラ
このニュースを受け、「奄美クジラ・イルカ協会の興克樹会長に聞いた、奄美のホエールウォッチングの魅力+α」の記事でもご登場いただいた奄美クジラ・イルカ協会の興克樹会長(以下、興会長)へ早速ご連絡し、まだ世に出ていない撮影時の秘話をお聞きした。
興会長へのインタビューをお届けする前に、まずは出産前後の様子を収めた貴重な映像をご覧いただきたい。撮影日時や位置など、撮影記録の詳細についてはYouTube動画概要欄から確認いただける。
思わず鳥肌!現場の臨場感や感動が伝わる撮影秘話を聞く
編集部(以下、――)
出産当日の2月16日までの間に、妊娠しているクジラに出会っていたのですか?それとも、たまたま出会ったのでしょうか?
興会長
たまたま出会いました。
――
まず初めに、赤ちゃんクジラの尾びれが出ているのを発見したときはどんな気持ちでしたか?
興会長
実は、尾びれを発見したのは撮影した動画を確認していた翌日のことだったんです。当日は、同行調査していた午前便のスイムで、水深10m付近の真下を通り過ぎるクジラを発見しました。私はゲストに見てもらうため指をさしていました。ちょうどその時、後方から来たマリンスポーツ奄美のスタッフが浮上するクジラを撮影していました。
――
撮影時は気付いていなかったのですね!では、生まれたばかりの仔クジラを見た時のことを詳しくお伺いしたいです。
興会長
生まれたばかりと思われる仔クジラはよく見ますが、午後便で出合ったこの仔クジラは、その中でも体の線が細く、ヒレもしなやかでヒラヒラしていて、体表に傷がほとんどなく、生まれて間もない個体だと分かりました。母クジラの生殖溝からへその緒の一部が出ていて、少量の出血もみられました。
帰港した後に、写真や動画を確認し、午前便の個体から仔クジラの尾びれが出ていたのに気付いたのは、翌朝でした。母クジラの尾びれの形状で識別し、午前のクジラと同一個体であることがわかりました。約2時間半の間に出産していたものと判明しました。
――
産まれたばかりの仔クジラを見た時の印象はいかがでしたか?
興会長
仔クジラを見た時の印象は、まだ泳力が弱いようでしたが、母クジラに寄り添うようにゆっくりと泳ぐ様子に、生命の力強さを感じました。母クジラもまた、仔クジラにあわせてゆっくりと泳いでいました。
――
撮影時、クジラの親子までどのくらいの距離だったのですか?
興会長
クジラが視界に入ったタイミングで、止まって撮影していました。親子の方から寄ってきたので、逆に距離をとりました。最短で5mくらいだったと思います。
――
生まれたばかりの子クジラを撮影するにあたり、普段成体のクジラを撮影するときに比べて気を付けたことはありましたか?
興会長
親子クジラとは泳げない場合が多く、船やスイマーを避ける親子クジラを無理に船で追尾しないようにしています。また、スイム中も泳ぎ去るクジラを追うことを禁止にしています。どんなに配慮しても、休息や授乳の時間を奪ってしまうことになるので、生まれたばかりの子クジラへのスイムは、本当に気を使いますし、今後、協会としても制限していく方針です。
――
最後に、この出産撮影により、ザトウクジラの出産に関する新たな発見はありましたか?
興会長
沿岸域で日中に出産することが、国内では初めて明らかとなりました。ウォッチングを行なっている時間帯や海域で出産が行われているので、より繁殖海域の保全やクジラ達への配慮も必要で、ルールの厳格化も検討しています。
――
ありがとうございました。
新たな命が生まれる瞬間の貴重な映像は、とても神秘的でもあり微笑ましくもあるニュースだった。毎年のように日本へ帰ってくるザトウクジラたち、次はどんな姿をわたしたちに見せてくれるのだろうか。
そんな、クジラの新たな一面を届けてくれた奄美クジラ・イルカ協会の研究活動にもこれからも注目していきたい。
取材協力・提供:奄美クジラ・イルカ協会 興克樹会長、マリンスポーツ奄美