【新発見】エモンズの傍に眠る旧日本軍偵察機の翼を日本人ダイバーが発見

沖縄県・古宇利島沖に眠る沈船「USSエモンズ」の周辺で、旧日本軍の偵察機「九八式直接協同偵察機(きゅうはちしきちょくせつきょうどうていさつき)(以下、九八式直協機(きゅうはちしきちょっきょうき))」の一部と思われるものが新たに発見された。発見したのは長年にわたりエモンズを潜り調査を行うテクニカルダイバーのww2diverさん。発見時の様子などを詳しく伺った。

エモンズに特攻した
九八式直協機

九八式直協機は、エモンズに突撃をした特攻機の一つ。1945年4月6日、第二次世界大戦に活躍したアメリカの駆逐艦(※)だったエモンズは、航行中に日本の特攻機5機の突撃を受け航行不能となり、翌7日にアメリカ軍の手によって沈められた。九八式直協機はエモンズの第3砲台付近に激突したものと見られる。

※駆逐艦:多様な作戦任務につく、重装備で高速な水上戦闘艦。

時を経てエモンズが海底から発見されたのは55年後となる2000年のこと。側には突撃したと見られる特攻機の残骸も見つかっている。2020年には、海底にある重要な戦争遺跡の科学的研究を進める九州大学 浅海底フロンティア研究センターの調査により、新たにランディングギア(※)と燃料タンクが発見され、その特徴から九八式直協機のものということが明らかになっている。

今回見つかったのは、その九八式直協機のものと見られる翼部分だ。

※ランディングギア:飛行機の降着装置。航空機の機体を地上で支える、車輪と緩衝装置で構成された装置。

発見から九八式直協機とわかるまで

翼と思われるものを発見したのはww2diverさんとバディのジョーダン・リー(Jordan Lee)さん。ジョーダンさんは2022年に海中に眠るライフル「M1ガーランド」を発見したメンバーの一人でもある。ww2diverさんは、2年ほど前にエモンズから80mほど離れた根の周りでランディングギアのようなものを発見したため、その近くで何かないかと見ていたところ、2024年7月6日に今回の残骸を発見したという。発見当時は砂がかぶっており、何か人工物だということしかわからなかったそう。翌日、急遽同じ場所を潜り、写真を撮影。飛行機の残骸ではないかと考えたww2diverさんは、一度帰京し、靖国神社まで実機を見に行き、再度7月17日〜18日にかけて何の残骸かを特定するための調査を行なった。

発見された九八式直協機のものと思われる残骸

発見された九八式直協機のものと思われる残骸

ww2diverさんは日本軍の航空機の特徴と思われる部分を撮影し、九州大学の研究チームに送付。そこでの解析結果、「九八式直協機の翼と考えて間違いないのでは」という見解が得られた。

その特徴は「沈頭鋲(ちんとうびょう)」と「円孔透かし」だ。

沈頭鋲は航空機を作る際に金属板を貼り合わせるのに使われた鋲。この技術は当時イギリスと日本でしか使われていなかったため、この沈頭鋲があれば日本軍のものと特定することができるのだ。

ww2diverさんが調査前に見に行った靖国神社遊就館に展示されている復元された零戦

ww2diverさんが調査前に見に行った靖国神社遊就館に展示されている復元された零戦

沈頭鋲が並んでいる

沈頭鋲が並んでいる

今回発見された九八式直協機の翼

今回発見された九八式直協機の翼

近くに寄ってみると沈頭鋲が並んでいる

近くに寄ってみると沈頭鋲が並んでいる

円孔透かしは、機体を軽くするために骨組みに空けられた穴のこと。残骸にもこの穴が残っている。

円孔透かし

円孔透かし

8月頭にもww2diverさんは沖縄を訪れ、そこでは電気配線コードと思われるものも発見している。

戦争の記憶に思いを馳せて

今回、九八式直協機の翼を発見したww2diverさんは累計200本近くエモンズを潜っており、2021年にはエモンズのマップを作成、公開している。ww2diverさんがエモンズに潜るようになったきっかけは、7年ほど前。ダイビングを始めたばかりの頃にポイントを調べていたところ、エモンズの存在を知り、元々歴史に興味があったことから関心を持つように。しかし水深35〜45m、流れもあるポイントで上級者向けと知ったww2diverさんは、エモンズを潜ることを目標にダイビングに没頭。100本ほど経験を積み、初めてエモンズを潜る。レックダイビングというものに魅了され、より長くエモンズで潜るためにテクニカルダイビングの道へ。

<a href="https://www.pacificwarwrecks.com/ussemmons" rel="noopener" target="_blank">ww2diverさんが公開しているエモンズのマップ</a> ※画像の改変や有償での配布禁止

ww2diverさんが公開しているエモンズのマップ ※画像の改変や有償での配布禁止

「なぜそこに沈んでいるのか、事前の調査から始まるのがレックダイビングのおもしろいところ」というww2diverさん。「たまたま発見した」と言うが、今回の発見はまさに数多くの調査の積み重ねにより、見つかるべくして見つかったのではないだろうか。さらにww2diverさんは「沈船を潜っていると、この船が使われていたころの景色を想像してしまう。調理場と窓があって、調理していた人は、この窓からどんな景色を見ていたんだろうと、80年前のことを考えると、涙が出てきますよね。それが例えば敵対していた国の船であっても。そして、今は同盟国となって、その国の人とこうやって調査を行えるのは感慨深い」と話す。

終戦から80年近く経とうとしている現在。人々の記憶とともに水中の戦跡が朽ち果ててしまわぬよう、今後も潜り、伝え続けられるよう、この場所が在り続けることを願う。

※今回見つかった残骸の元々埋まっていたものは、調査後は埋め戻す予定となっている

Special Thanks:ww2diverさん

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PROFILE
IT企業でSaaS営業、導入コンサル、マーケティングのキャリアを積む。その一方、趣味だったダイビングの楽しみ方を広げる仕組みが作れないかと、オーシャナに自己PR文を送り付けたところ、現社長と当時の編集長からお声がけいただき、2018年に異業種から華麗に転職。
営業として全国を飛び回り、現在は自身で執筆も行う。2020年6月より地域おこし企業人として沖縄県・恩納村役場へ駐在。環境に優しいダイビングの国際基準「Green Fins」の導入推進を担当している。休みの日もスキューバダイビングやスキンダイビングに時間を費やす海狂い。
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