海中に眠る大量のライフル「M1ガーランド」を沖縄・残波岬沖で発見

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「『M1ガーランド』というライフルが沖縄の海中で⼤量に⾒つかったから潜ってみないか?」。

沖縄、古宇利島(こうりじま)の沈船「エモンズ」などをよく潜っていて親交のあるダイバー・ww2diverさんからその話を聞き、この4⽉、私は沖縄へと向かった。

場所は残波岬(ざんぱみさき)灯台南、読⾕村のビーチの沖約1km。

ありがたいことに沖縄に到着した翌⽇には発⾒者であるタイラーさん、ジョーダンさん、ザックさんの3名と、ww2diverさん、ダイビングショップ「イングリッシュエンパイアダイバーズ」の皆さんと⼀緒にそのポイントに潜らせていただき、詳しく話を聞くことができた。

エモンズとは

ポイントは広範囲にわたるということで、私を含む4名が⽔中スクーターを持ち込んだ

ポイントは広範囲にわたるということで、私を含む4名が⽔中スクーターを持ち込んだ

広範囲の捜索を経て発見されたライフル

初めてこのポイントが話題になったのは2021年の9⽉頃だったそう。

「15年ほど前、ダイビングをしていて偶然ライフルを⾒つけたアメリカ⼈ダイバーがいたが、2度とそのポイントを⾒つけることができなかった。そこにはライフルだけではなく、沈船(レック)の⼀部もあった」。

その話を聞いたタイラーさんや、イングリッシュエンパイアダイバーズのリチャードさん、ww2diverさんらのグループが何度か調査したものの、残念ながらなかなか⾒つけることができなかったそうだ。

しかしながら、タイラーさんをはじめとする3名は、ビーチから⽔中スクーターでエントリーをしながら根気強く広範囲の捜索を続け、時にww2diverさんも加わり、30〜40回ほど潜った2021年12⽉24⽇に発⾒に⾄ったそうだ。リチャードさんいわく「発⾒した時は、すごく興奮して報告に来てくれたのを覚えています」。

⽔中スクーターは中性浮⼒にしてある為に使わない時は岩などに括り付けておかないと流されてしまう。また⽚⽅にトラブルがあった時の為に必ず2台以上で使⽤することが望ましい

⽔中スクーターは中性浮⼒にしてある為に使わない時は岩などに括り付けておかないと流されてしまう。また⽚⽅にトラブルがあった時の為に必ず2台以上で使⽤することが望ましい

実際に潜ってみたところ、ポイントにはいくつか根が存在し、サンゴや岩なども点在しているが、ほとんどが⽩砂で特に⽬⽴つものがなく、⽔中スクーターを使ってもビーチから10分弱かかるこの場所をよく⾒つけたものと感⼼させられる。

しかしながら、ポイント周辺を探索してみると、かなり広範囲に⼈⼯物と思われるものが散乱しているのがすぐに分かった。

ポイントの様⼦。⼿前に2本の棒のような⼈⼯物があるのがお分かりになるだろうか。こういった光景に違和感を感じることができないと発⾒は難しい

ポイントの様⼦。⼿前に2本の棒のような⼈⼯物があるのがお分かりになるだろうか。こういった光景に違和感を感じることができないと発⾒は難しい

聞くところによると、時には⾦属探知機を⽔中に持ち込み砂の中まで探したとのこと。放置しておくと⽩砂でライフルが埋もれてしまうことから⼀部は岩に⽴てかけられるように並べられていた。

発⾒後にダイバーによってまとめられたライフル。サイズが違うものもあり、未確認ではあるがすべてがM1ガーランドではないかもしれない

発⾒後にダイバーによってまとめられたライフル。サイズが違うものもあり、未確認ではあるがすべてがM1ガーランドではないかもしれない

いつの時代、どのように沈んだものなのか?

この「M1ガーランド」というライフルを紐解いていくと、太平洋(⼤東亜)戦争時代まで遡る。1945年、沖縄を防衛する⽇本軍は、アメリカ軍を主体とする連合国軍の上陸作戦を受け「沖縄戦」と呼ばれる激しい戦いを強いられることになるが、その際に、アメリカ軍が主⼒の歩兵銃として運⽤していたものである。

その後、警察予備隊や⾃衛隊などに供与され使⽤されるのだが、武器などにも詳しい戦史研究家の宮永忠将(ただまさ)さんに伺ってみたところ、「(アメリカ⼈向けの設計ということから)⾃衛隊では⽇本⼈の体格に合ってなくて苦労したという話もあります」。また、M1ガーランドがこの場所にある理由として、「沖縄の南⻄沖、特に今回⾒つかった場所(残波岬周辺)は連合国軍が最初に上陸した海岸の北端に当たり、上陸⽤⾈艇が転覆などして遺棄されたものの可能性もある」とのこと。

ライフルの形がはっきりとわかる⼀枚。中には肩にかけるベルトのようなものが残っているものも発⾒されている

ライフルの形がはっきりとわかる⼀枚。中には肩にかけるベルトのようなものが残っているものも発⾒されている

今回⾒つかった銃の⼀部に焼け焦げた跡などもあるため上記理由も有⼒ではあるが、かなりの広範囲でそのほとんどが銃ということから、終戦後にアメリカ軍などが使わなくなったものを海中に廃棄した可能性など、他にもさまざまな理由が考えられるだろう。

⼀緒に潜ってくださったww2diverさんは古宇利島に眠るエモンズを100本以上潜っているダイバー

⼀緒に潜ってくださったww2diverさんは古宇利島に眠るエモンズを100本以上潜っているダイバー

沖縄の海に眠る戦跡に想いを馳せる

沈没した海軍の艦船などの権利は旗国にあるという考え⽅が原則であるものの、漂流物及び沈没品の拾得時の取扱いについては⽔難救護法などにより「明確な廃棄に当たるもの⼜は経済的な価値がないものについては、その財産的保護を図る必要性がない」とある。しかし今回の発⾒が沈没品に該当するかについては、慎重に判断されるべきものであり、安易に海中から引き揚げたりするべきではないと考えている。なお、発⾒後に海上保安庁は報告済みだそうだ。

沖縄には古宇利島沖に眠るアメリカの掃海駆逐艦(そうかいくちくかん)「エモンズ」がレックとして有名で、ここ数年で多くのダイバーがその存在を知り、潜るようになった。現在までその姿を保ち、潜ることができる艦船としては⽇本において唯⼀無⼆の存在ではあるが、ここ数年、環境変化による影響などから劣化が激しく、少しずつ崩れているのが現状である。

しかしながら、エモンズがこれだけしっかりと残っていることから、他のレックもあるのでは?と⽬を向けてみると、戦後、特に朝鮮戦争などが勃発した際に鉄不⾜などの影響で沖縄近海に眠っていた多くの沈没船がサルベージをされたという話もあり、そのほとんどが知られていない。しかしながら、おそらくまだ私たちが⽬にしたことのないようなレックがまだまだ多く存在しているのではないだろうか。

今回の発⾒はそういった可能性を⽰してくれるものであろう。

ポイントからはライフル以外にも⼈⼯物が⾒つかっている。このボックスもアメリカ軍が残していったものだろうか

ポイントからはライフル以外にも⼈⼯物が⾒つかっている。このボックスもアメリカ軍が残していったものだろうか

今回、お世話にになったイングリッシュエンパイアダイバーズのリチャードさんも「私は歴史が⼤好きなので潜るたびにとても感慨深く、興味深く思っています。(特に今回の発⾒は)アメリカ⼈にとっては多くの理由で象徴的なものであり、そこに眠る銃に想いを馳せるのではないでしょうか」とのこと。

恐らくそれは⽇本⼈にとっても同じことであり、過去にあった戦いを消すことはできないが、それを知り、学ぶことができる。そして未来に⽣かすことができると私は考えている。⽔深も⽐較的浅く、レジャーダイバーも受け⼊れているとのことで、もし興味があれば、イングリッシュエンパイアダイバーズにコンタクトを取り、歴史の⼀部を⾃⾝の⽬で確かめてみてはいかがだろうか。

*今回お世話になったのは
English Empire Divers

English Empire Divers リチャードさん

沖縄、北⾕をベースに海をこよなく愛する陽気なイギリス⼈、リチャードさんがさまざまなレベルの能⼒に対応したダイビングを提供。10年以上の経験を持つガイドで、外国⼈ゲストが多いのが特徴だが、⽇本の⽅で英語に触れたい⼈も⼤歓迎。奥様は⽇本⼈の美和⼦さんでお問い合わせは⽇本語でも⼤丈夫です。

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PROFILE
1982年生まれ、埼玉県出身。
世界の海中を巡り、大型海洋生物からマクロ生物まで、さまざまな海中景観を撮影し続けている水中写真家。生物の躍動感や色彩を意識したその作品は、ウェブやダイビング誌、カメラ誌などで発表され、オリンパス株式会社の製品カタログなどにも採用されている。

また、ライフワークとして、太平洋戦争(大東亜戦争)を起因とする海底に眠る日本の艦船や航空機などの撮影を世界各地で続け、軍事専門誌「丸」にて5年にわたり連載、その成果として靖國神社・遊就館などで写真展を開催するなど活動は多岐にわたる。また、”歴史に触れるダイビング”をテーマに、レックダイビングの普及に勤めている。講師、講演多数。
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