ハゼとテッポウエビの共生とは? 砂地ダイビングで見られる人気15種を紹介

ハゼとテッポウエビの共生:砂地で見られる人気種の紹介

海の世界では、「クマノミとイソギンチャク」や「ホンソメワケベラのクリーニング」など、多彩な共生関係が繰り広げられています。なかでも注目すべきは、砂地の底で息を合わせて生きる「ハゼとテッポウエビ」のコンビ。巣穴を守り合い、支え合うその姿は、まるで理想のパートナーシップのようです。今回はそんな両者の共生の仕組みを紐解き、さらにダイバーに人気の共生ハゼ15種を紹介します。

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「穴掘り役」と「見張り役」

どんな環境を探せばいいの?

ギンガハゼのペアをしばらく観察していたら、運よくテッポウエビも巣穴から這い出してきた

ギンガハゼのペアをしばらく観察していたら、運よくテッポウエビも巣穴から這い出してきた

「ハゼとテッポウエビの共生」が見られるのは海底。砂地や砂泥、サンゴのガレ場などに巣穴があり、仲良く一緒に暮らしています。
ですから、中層をズンズン泳いでいては見つけられません。斜め前方の海底を見ながら、やや低層をゆっくり静かに泳いでみましょう。巣穴の前に陣取るハゼを発見できるかもしれません。周囲が開けた砂地なら、しばらく着底して探してみるのも手です。

もしハゼを発見したら、ゆっくり静かに近寄りましょう。なぜなら、驚かせるとハゼは瞬時に巣穴に逃げ込んでしまいますから焦りは禁物。また、テッポウエビはほとんどの時間を巣穴の中で過ごすので、両者のツーショットを見たいならば粘りが肝心。

どんなハゼがテッポウエビと共生するの?

海だけではなく、異なる環境である河川などの淡水にも進化の過程で生息域を広げたハゼの仲間は、魚類の中でも大所帯の重要なグループ。世界中で2000種以上が知られ、現在も毎年のように新種が報告されています。
その中で「テッポウエビと共生する」という、特異な生態のハゼは今のところ70~80種ほどのようです。主なグループはダテハゼ属やイトヒキハゼ属、ヤツシハゼ属、ネジリンボウ属、シノビハゼ属などが知られています。

一方、テッポウエビ科は世界に30属以上、種数400以上といわれています。ハゼと共生するのはテッポウエビ属のみ。種数は20以上確認されているそうですが、未記載種も多く、まだまだ増えていくかもしれません。

互いの特徴を生かして役割分担

テッポウエビの特徴のひとつは、大きくて太いハサミ脚。このハサミを使って大きな衝撃音を発する種類がいることから、付いた名前が「鉄砲エビ」。英語圏では“Pistol shrimp”、“Snapping shrimp”などと呼ばれています。
ハゼと共生するテッポウエビたちは、このハサミ脚を使って巣穴の建設および拡張、修繕を行っています。掘り出した砂泥を穴の外に押し出してくる様子は、まるで生きたブルドーザーのよう。

一方、巣穴の前に陣取っているハゼは見張り役。外敵が来ないか何か変わった様子はないか、安全確認をしているのです。ダイバーが近寄ると一瞬にして巣穴に逃げ込む俊敏な行動からも、彼らが鋭敏な感覚器官をもつことがわかります。

コミュニケーションツールは触角

ハゼが察知した「危険!」「敵、来襲!」という情報は、いかにしてテッポウエビに伝達されるのでしょう?

注目すべきはテッポウエビの長い触角。巣穴から外に出るとき、テッポウエビの触角は必ずハゼの体に触れているのです。この触角を通じ、テッポウエビはハゼから何らかの警告信号を受信すると考えられています。

テッポウエビが巣穴の外に出てくるとき、その長い触角(→)は必ずハゼの体やヒレに触れている

テッポウエビが巣穴の外に出てくるとき、その長い触角(→)は必ずハゼの体やヒレに触れている

なんとクリーニングまで!?

というわけで、ハゼ(見張り役)とテッポウエビ(巣穴の営繕担当)は相利共生、お互いにウィンウィンの関係にあるのです。
それだけではなく、両者の間にはさらに密接な関係がある可能性も、ダイバーの観察や水中映像から示唆されています。

例えば、沖縄や奄美大島、伊豆半島などでは、テッポウエビがハゼの体をハサミ脚で触れるような行動が観察されています。まるでクリーニングのようですね。エビの仲間にはクリーニング行動をとる種類がいますから、ハゼと共生するテッポウエビが同様の生態をもっていても不思議ではありません。

さらに、テッポウエビがハゼの排泄物を食べているかのような行動も観察されています。テッポウエビの胃内容物を検証しないことには証明できませんが、興味深い行動であることに変わりありません。

テッポウエビと共生するハゼ15選

ハゼとテッポウエビの共生について簡単に解説しました。ここからは、よく見かける普通種からレアなものまで、スキューバダイバーに人気の共生ハゼを紹介しましょう。

このハゼ(エビ)一筋…か?

オドリハゼ

オドリハゼ

内湾環境の砂礫底などで見られ、黒いボディに頭部から背中に入る太めの白帯が目印。大きさ2~3cmと小さい。巣穴の少し上をホバリングしていることもある。共生するのはブドウテッポウエビ(右下)1種だけ。ブドウテッポウエビもオドリハゼといることがほとんどだが、屋久島などではシロオビハゼと暮らす例が観察されている。インド‐太平洋の熱帯・亜熱帯に分布(写真/堀口和重)。

サンゴ礁で見るレア&派手な3種

ヤノダテハゼ

ヤノダテハゼ
やや深い、砂礫まじりの砂底を好み、ほとんどの場合コトブキテッポウエビ(写真右)と共生。尾ビレに炎のような暖色の斑紋が入り、大きさ10cm前後となる。西部太平洋に分布し、日本では沖縄や柏島、紀伊半島などで観察されている。「ヤノ」は西表島のダイビングガイドであり生態写真家でもある矢野維幾(これちか)氏への献名。

ホタテツノハゼ

ホタテツノハゼ

広げると帆のように見える大きな第1背ビレ、ツノ状に突出する前鼻管が和名の由来。大きさ7~8cmになり、紅白模様のコトブキテッポウエビと共生する。西部太平洋に分布し、日本では沖縄や奄美大島、紀伊半島などで観察されている。

ヤシャハゼ

ヤシャハゼ
独特の模様で他種との識別は容易。巣穴の上でホバリングしていることが多く、プランクトンを捕食する。大きさ4~5cmほどで、砂礫交じりの海底でコトブキテッポウエビと共生する。西部太平洋に分布し、日本では沖縄ほか各地で観察される。

暗色と黄色の2バージョンあり

フタホシタカノハハゼ

フタホシタカノハハゼ
フタホシタカノハハゼ

体色に2タイプがあり、暗色タイプのほうが一般的。黄化個体はギンガハゼと似ているが、背ビレや腹ビレの形や模様で識別できる。大きさ6~7cm。インド‐西太平洋の熱帯域に分布し、日本では沖縄や奄美大島で見られる。

ギンガハゼ

ギンガハゼ
ギンガハゼ

体色に2タイプがあり、黒と黄でペアをつくることも。和名の由来は、銀河の星々にも見えるコバルト色の小斑点。内湾的環境の浅い砂泥地でよく見られる。大きさ6~7cm。インド‐太平洋に分布し、奄美大島や沖縄で見られる(写真/堀口和重)。

和名の由来は飴の菓子(ねじり棒)

ネジリンボウ

黒い横帯が斜めに入る独特の模様でから、他の共生ハゼと識別しやすい。内湾的環境の浅い砂礫や砂泥を好み、伊豆半島や紀伊半島などの南日本でもよく見られる。巣穴の上にホバリングし、プランクトンを捕食する。多くがペアで生息し、ニシキテッポウエビやコトブキテッポウエビと共生する。第1背ビレは三角状。大きさ5~6cm。西部太平洋に分布(写真/堀口和重)。

ヒレナガネジリンボウ

第1背ビレの第2棘が長く伸長することでネジリンボウと識別できる。また、生息水深もネジリンボウよりやや深め。コトブキテッポウエビと共生していることが多い。大きさ5~6cm。インド‐西太平洋のサンゴ礁に分布し、季節来遊漁として南日本でも見られる。

キツネメネジリンボウ

キツネメネジリンボウ

目を通る斜めの黒帯が特徴で、これが狐目に見えることが和名の由来。大きさは4cm程度と小さい。20m前後より深いところで見られ、きれいな細かい砂底に生息する。今のところ日本の固有種で、伊豆半島や柏島、奄美大島などで観察されている(写真/堀口和重)。

ダテハゼ属から代表6種

ニチリンダテハゼ

ニチリンダテハゼ
日輪を彷彿とさせる第1背ビレの眼状斑が特徴。サンゴ礁の礁斜面やドロップオフの砂溜まりなどでよく見られる。大きさ6~9cm。西部太平洋に分布し、日本では沖縄で見られる。

ダンダラダテハゼ

ダンダラダテハゼ
頭と体に輪郭がはっきりしない赤褐色の5横帯があり、その間に不定形の斑紋がある。大きさ7~8cm。インド‐太平洋に分布。日本では伊豆・小笠原諸島、沖縄などで見られる。

ハチマキダテハゼ

ハチマキダテハゼ

目の周辺に入る細帯が鉢巻のように見えることが特徴。内湾の浅い砂泥や砂礫を好み、大きさ8~9cm。インド‐西太平洋に分布、日本では伊豆半島や紀伊半島、沖縄などで見られる。

ヤマブキハゼ

ヤマブキハゼ
全身に山吹色の小斑点が散在し、腹ビレ前方と腹部に暗色斑がある。サンゴ礁の砂礫底、水深10~30mほどでよく見られる。インド‐太平洋に分布、日本では沖縄や紀伊半島などで見られる。

クビアカハゼ

クビアカハゼ
赤い横帯が特徴で、大きさ4~5cm。砂礫やガレキサンゴなどの海底に生息する。インド‐太平洋に分布、日本では伊豆半島や紀伊半島、伊豆・小笠原諸島、沖縄などで見られる。

メタリックシュリンプゴビー

メタリックシュリンプゴビー
インドネシアやフィリピンなどで見られる、大きさ10cm以上となる大型の共生ハゼ。金属光沢のある美しい模様で、水中モデルとしても人気。サンゴ礁外縁の、やや深場で見られる。

まとめ

「テッポウエビと共生するハゼ」は、伊豆半島や紀伊半島など身近なポイントでも見られます。巣穴の前に陣取るハゼを見つけたら、5分くらい静かに観察してみるのがオススメです。きっとテッポウエビも穴の奥から出てきてくれますよ。

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PROFILE
東京水産大学(現東京海洋大学)在学中、「水産生物研究会」でスキンダイビングにはまり、卒論のサンプルであるヤドカリ採集のためスキューバダイビングも始める。『マリンダイビング』『マリンフォト』編集部に約9年所属した後フリーライターとなり、現在も細々と仕事継続中。最近はダイビングより弓に夢中。すみません。
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