サンゴの白化現象は世界中で何度も起きている!白化はサンゴの生存戦略?【連載】

2024年9月に恩納村で撮影したサンゴ礁の大規模白化

2024年9月に恩納村で撮影したサンゴ礁の大規模白化 (撮影:坪根雄大)

サンゴ博士の連載第6回目のテーマは「サンゴの白化」について。地球温暖化に伴う海水温の上昇により、世界各地で「サンゴの白化現象」が発生しています。私たちの記憶に新しい大規模な白化は、2024年に起きました。沖縄島の広い範囲で、特に水深5メートル以浅のサンゴが深刻な被害を受けました。

そこで今回は、そんなサンゴの白化メカニズムについてご紹介します。

古川真央
琉球大学でサンゴの生殖や種分化を研究中。幼少期に種子島で出会ったサンゴに魅了され、気づけば博士の道へ。SNSや記事を通して、サンゴの奥深い世界を楽しく、わかりやすく発信している。将来は自身の研究室を持ち、研究を通じて「何かに夢中になれること」の素晴らしさを次世代に伝えていきたい。
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頻発するサンゴの白化現象

サンゴの白化現象が世界的に注目されるようになったのは1998年のことです。それ以前にも白化の記録はありましたが、いずれも局所的なものでした。ところが1998年には、世界中のさまざまな地域で一斉に白化が確認され、地球温暖化による環境問題として広く認識されるようになったのです。

当時の沖縄本島周辺の様子を知る教授によると、かつて瀬底研究所の前の海はミドリイシ属のサンゴが一面に広がり、トゲサンゴ属の仲間も数多く生息していたといいます。ところが、私が知る同じ場所では、サンゴは生息しているものの海底を覆い尽くすほどではありません。さらに、トゲサンゴ属の仲間を見かけることもなく、1998年の大規模白化によって沖縄本島周辺の浅場では地域的に絶滅したともいわれています。

白化現象とは何か?

ミドリイシ属のサンゴ

数が少なくなってしまったミドリイシ属のサンゴ

世界的によく知られている「サンゴの白化現象」ですが、実際には「サンゴが白くなる現象」としてしか理解されていないことが少なくありません。中には、「白化=死滅」と誤解している人も多いでしょう。そこで、サンゴの白化とは何が起きている現象なのか、正しく理解しておく必要があります。

サンゴの白化とは、文字通りサンゴが白く見える状態を指します。多くのサンゴは、体内に「褐虫藻(かっちゅうそう)」と呼ばれる単細胞の藻類を共生させています。褐虫藻は光合成によって栄養をつくり、それをサンゴに供給しています。一方、サンゴは褐虫藻に住処を提供し、互いに助け合う「共生関係」を築いています。

ところが、高水温や強い日差しなどのストレスが続くと、この共生関係が壊れてしまいます。その結果、サンゴの体から褐虫藻がいなくなり、透明なサンゴの体から白い骨格が透けて見えるようになります。これが、サンゴの白化現象の正体です。

つまり、白化したからといって、すぐにサンゴが死んでしまうわけではありません。一般的には、白化した状態が2週間以上続くと死滅してしまうといわれていますが、その間に褐虫藻が戻れば、再び健康な状態に回復することもあります。実際、2024年の白化で真っ白になったアンチ浜のユビエダハマサンゴの中には、その後褐虫藻が戻り、現在も元気に生きている群体が確認されています。

白化の前に淡い色になったサンゴ

白化の前に淡い色になったサンゴ

サンゴの白化「褐虫藻が逃げ出す」は間違いだった!?

「サンゴの白化は、サンゴ体内から褐虫藻が逃げ出してしまうことで起こる」とよく説明されますが、実はこの現象はごく一部に限られることが分かってきました。

静岡大学の研究チームは、エダコモンサンゴMontipora digitataとハナガサミドリイシAcropora nasutaを用いて、白化時にサンゴの体内で何が起こっているのかを詳しく調べました。

放出された褐虫藻

放出された褐虫藻

彼らは、これら2種類のサンゴを高水温下にさらしてストレスを与え、人為的に白化を引き起こしました。さらに、白化が起きた際のサンゴ周辺の海水を採取し、体内から海水中へ放出された褐虫藻の数を測定しました。

その結果、海水中に放出された褐虫藻の数は、サンゴ体内に共生する褐虫藻のわずか0.05〜0.1%程度にすぎないことが明らかになりました。つまり、白化現象は「褐虫藻がサンゴ体内から逃げ出す」ことだけでは説明できず、別の要因によっても引き起こされている可能性が示唆されたのです。

白化したサンゴを拡大

白化したサンゴを拡大

サンゴの白化メカニズム

白化が起こると、サンゴ体内では褐虫藻が変形したり、透明になったりする異常が確認されています。これは、褐虫藻自身が光合成に必要な色素を失ったり、光合成を正常に行えなくなったりしている状態を示しています。

褐虫藻は、太陽の光と二酸化炭素を利用して、サンゴに必要な栄養分である糖と酸素をつくり出しています。しかしこの過程で、副産物として「活性酸素」と呼ばれる毒性のある物質がわずかに発生します。

サンゴも褐虫藻も、通常はこの活性酸素を消す機能を持っているため、少量であれば問題はありません。ところが、高水温や強い光のもとでは活性酸素が過剰に生成され、サンゴや褐虫藻の防御機能が追いつかなくなってしまうのです。普段は無害な活性酸素も、量が増えると細胞を傷つける「毒」に変わってしまいます。

次に、サンゴ体内で活性酸素が発生する仕組みを少し詳しく見てみましょう。多くのサンゴにとって欠かせない光合成は、褐虫藻の「葉緑体」と呼ばれる器官で行われています。ところが、強い光を受けたとき、葉緑体が処理しきれない過剰なエネルギーが活性酸素となり、褐虫藻の細胞を損傷させてしまいます。

もっとも、活性酸素の生成自体は通常の生理現象のひとつであり、夜の間に破壊されたタンパク質を修復して葉緑体を回復させる仕組みが備わっています。

しかし、高水温が続くとこの修復機能が阻害され、葉緑体が再生できなくなります。そのまま日中の強い光を受けることで、褐虫藻はさらにダメージを受け、やがて死滅してしまうのです。

サンゴにとって、死んだ褐虫藻はもはや共生相手ではなく、体内の“異物”となります。機能を失った褐虫藻が体内に増えるにつれ、サンゴは十分な栄養を得られなくなり、次第に弱り、白化が進行していくのです。

白化途中のテーブル状サンゴ

白化途中のテーブル状サンゴ

白化はサンゴの生存戦略だった!?

光合成ができなくなった褐虫藻は、サンゴの体内にとどまり続けるわけではありません。しかし、海水中に放出される褐虫藻はごくわずかです。では、残りの死滅した褐虫藻はどこへ行くのでしょうか。

実は、サンゴは機能を失った褐虫藻を体内で消化・吸収し、自らの栄養源として利用していることが分かっています。高水温などのストレス環境では、過剰な活性酸素が発生し、褐虫藻だけでなくサンゴ自身のDNAやタンパク質も損傷してしまいます。

そのため、褐虫藻はサンゴにとって、時に“共生相手”から“危険な存在”へと変わってしまうのです。

サンゴはこうした危険を避けるために、機能しなくなった褐虫藻を体内から消化・排除することで、活性酸素によるダメージを軽減しようとします。

つまり、サンゴの白化は単なる異常現象ではなく、ストレスから身を守るための防御反応の一つだと考えられているのです。

先端が白化したサンゴ

先端が白化したサンゴ

最後に

海の中で白化したサンゴを目にすると、「もうサンゴ礁はダメかもしれない」と心を痛める方も多いでしょう。しかし、これまで見てきたように、白化したサンゴはストレスにさらされながらも、自らの命を守り、生き延びるために懸命に戦っているのです。

よく観察すると、白化したサンゴが小さな触手を一生懸命に伸ばしている様子が見られます。褐虫藻がいなくなった分の栄養を捕食で補おうとしているのか、あるいは体内に残った褐虫藻により多くの光を届けようとしているのか、その理由は分かりません。

けれども、確かなのは、彼らが“生きようとしている”ということです。そんなサンゴの姿を見ると、私は思わず心の中で「頑張れ」と声をかけたくなります。もし皆さんも海で白化したサンゴを見かけたら、ただ悲しむのではなく、困難の中で懸命に生きるサンゴたちに、ぜひエールを送ってあげてください。

参考文献
樋口富彦, 湯山育子, 中村 崇, 造礁性サンゴ類のストレスと防御機能―生理・遺伝子・生態の視点から―, 日本サンゴ礁学会誌 第16巻 47-64, 2014
サンゴ礁を救おう、静岡大の挑戦(上)世界初、白化現象の仕組み解明, 産経新聞, 2018
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お知らせ

2026年1月から1年間、那覇市の桜坂劇場で「サンゴ講座」をはじめます!
これまで、主にYouTubeやInstagramなどのSNSで皆様と交流させていただきましたが、オフラインで直接お話ができるような場所も欲しいなぁとずっと思っていました。
来てくれた方に喜んでもらえるよう、頑張って準備したいと思います。

詳細は下部を要チェック!

桜坂市民大学でサンゴ講座が開講します

●サンゴに関する質問や気になったことなど、可能な限りその場でお答えできるよう頑張ります
●私にもわからないことがあるので、その場合は、私の宿題として次回の授業でお答えできるように準備してきますね

開講スケジュール

第1回 2026年1月25日(日) 14:30〜16:00
第2回 2026年2月15日(日) 14:30〜16:00
第3回 2026年3月15日(日) 14:30〜16:00

受講料

全3回→8,800円
単発受講→3,000円

講座の申し込み方法

※桜坂市民大学の講座を受講する際には、桜坂劇場の「Sakurazaka FunC(ファンク)」への入会が必要です

※入会と受講のお申し込みは同時にできます

【Sakurazaka FunC入会がお済みの方】
①受講申し込み方法

1. 劇場窓口:申請書に記入し受付窓口へ提出
2. 電話:電話で仮予約後、劇場窓口にて申請書に記入・提出
3. ネット:「桜坂劇場市民大学」のHPより必要事項を記入
【講座番号】: 82
【講座名】 :沖縄の宝「サンゴ」を学ぶ

②お支払い方法

1. 劇場窓口:現金、クレジット、Edy、電子マネー利用可能
2. 銀行振込:指定の口座へお振り込み
3. 郵便振替:

【Sakurazaka FunC未入会の方】
Sakurazaka FunC年会費

・一般:2000円
・シニア:1000円
・学生(13〜23歳):500円

【入会特典】

・映画招待券1枚贈呈
・映画料金割引、桜坂劇場の映画がいつでも1,000円!
・家族や友人にプレゼントできる映画割引券を贈呈
・独自情報満載の会報誌「Sakurazaka FunC」の郵送
・ポイント贈呈(100円で1ポイント!100ポイントで映画1本無料)

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