スマトラ沖地震と大津波の経験から 前編

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2004年12月26日、スマトラ島沖地震と大津波を経験なさった、
タイの増子均さんより、「ダイバーの視点から、津波災害を考える」というテーマで寄稿いただきました。

この度の、東北地方太平洋岸を中心に発生した大地震と、
それに伴う大津波は、想像を絶する被害をもたらしました。
お亡くなりになった犠牲者やご遺族はもちろんのこと、
いまだ多数の行方不明の方々や救助を待つ避難者、
家財を失い避難所で大変な生活を強いられている被災者がいらっしゃる中、
安全な場所に身を置いて、わかったような話をするのは避けるべきことかも知れません。

ただ、これから先、この大災害から立ち直るためにも、
気持ちが後ろを向いたままではいけないであろう、という思いから、
ダイビング業に携る者として何かプラスになる事が無いか、
そして同じく未曾有の大津波と呼ばれた、
2004年のスマトラ島沖地震の経験が役に立たないか、と考え、
この原稿を書かせていただきました。

海は大自然ですから、優しい顔を見せるだけでなく時に豹変し、
人の命を易々と奪うこともあります。
しかし、我々ダイバーにとって、海はあこがれであり、
楽しみと心の安らぎをもたらす場所です。
心の傷が癒えた時、またその魅力に触れてみたい。
という気持ちは抑えられないのではないでしょうか。

ただ、今の状況下では『潜りに行きたい、でも恐ろしい』という気持ちが
生まれるのも仕方が無いことなのでしょう。
テラ和尚が引用しているように、中村征夫さんでさえ
「海は素晴らしい、と今さら言えるか」と思ったということですから。

スマトラ島沖地震の時、私はシミラン諸島の島と島の間でクルーズ船に乗っていました。
1本目のダイビングの後、朝食を終えた頃、
島の間のチャネルが急激に流れ始めたのを見ましたが
『大潮(ちょうど満月でした)にしても、すごい流れだな』と思った程度でした。

しかし、別の湾に係留していた大型のクルーズ船がコマのように回転し、
浮上して来たダイバーがラフティングのように流されて行くのを見ると、
さすがに尋常ではない何かが起きていると思いました。

しかし、その時点でまだ”津波”というものは頭に浮んで来ません。
津波のイメージは、もの凄い高さの波が沖合いから押し寄せて来る、
というものでしたが、波高の変化は全く気付かない程度のものだったのです。

この時に知ったのですが、津波の波高は例えば数十㎝から1mと低く、
ただし波長はkm単位に及ぶ。よって沖合いではわからないが、
それが陸にぶつかると、km単位の水に後押しされた波が盛り上がり、
時に10mを超える高さになるということです。

また、当時潜っていて津波に遭ったダイバーに話を聞きましたが、
突然激しい流れが生じ、特にアップダウンが急激で、
通常では考えられないほど翻弄されたと言っていました。
ただ、浮上さえしてしまえば、流れ以外に水面には異常が無く、
やはり津波が来たとは思いもよらなかったと言います。

この事例を持って、「津波が来てもダイビングは安全だ」と言うつもりはありません。
例えば浅場にいたりしたら、やはり怪我や生命の危険からは逃れられないでしょう。
ただ、スマトラ島沖地震の時には、
沖合いの船上では津波は感じられないほどのものであった。
ということと、私の知る限りですが、
潜っていて亡くなったダイバーはいなかった。という事実が有るだけです。

生きて活動している限り、都市には都市の、山には山の、潜在的な危険が有り、
もちろん津波が来なくても、海には海の危険が有ります。
そう考えれば、注意報や警報が出ていたり明らかな悪コンディションでない限り、
潜ることに特別な怯えを感じる必要は無いのではないか、と思います。

こんな大変な時で、被災した人でなくてもストレスを抱えてしまう状況だから、
何か明るい話題、前向きになれる物を提供したい。

ダイバーとしては、それが水中に有って然るべきでは、と思うのです。

 

〜後編はこちらから〜

スマトラ沖地震と大津波の経験から 後編

 

PROFILE
増子均
Hitoshi Masuko
通称Marcy
日本ではニュース番組のディレクターとして水中取材などを手がけ、
趣味が高じてダイビングガイドに転職。
約15年前、当時ほとんど知られていなかったサムイ島に最初の日本人ガイドとして常駐して以来、タイ湾の海の情報を発信し続けてきた。
中層浮遊から動かずマクロまで好みの幅は広いが、ガイドの最大の仕事は安全に潜ることだと思う。昔取った杵柄?で写真やビデオ撮影にはそこそこ詳しい。

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writer
PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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