【レポート】フリーダイビング公式記録会が沖縄県恩納村の海で開催
9月29日〜10月1日の3日間にかけて沖縄県恩納村でトゥルーノースが主催するフリーダイビング公式記録会が行われ、のべ24名の選手が参加した。トゥルーノースは千葉県・浦安に本店があるダイビングショップ。沖縄店は特にフリーダイビングやスキンダイビングに特化しており、私スイカもボートトレーニングのサブスクプランに加入し日々練習をここで積んでいるショップだ。
日本ではあまり行われていないという海洋の公式記録会に、先日アドバンスド・フリーダイバーを取得した私も練習の成果を出すべく記録会に参加…と思いきや出場の5日前に軽い中耳炎になり泣く泣く棄権。
悔しい気持ちでいっぱいですが、最終日に特別に船の上から見学させていただいたので、どんな様子だったのかお伝えしていきます!
記録会は大会のように勝敗や順位はつかないが、公式ジャッジ(審判)の元で自分の記録に挑戦することができる。事前に選手登録をして公式の記録会に参加すると、そこでの記録は世界公式となり、日本記録や世界記録に挑むことができる。上位記録の選手は日本代表として召集がかかることも。
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記録会の様子
私が参加した最終日の10月1日はお天気も海況も良く、絶好のダイビング日和といったところだろうか。
朝7時ごろからショップに選手、スタッフが集合しオリエンテーションが行われ、8時過ぎには真栄田岬沖に競技が行われる船と選手の待機船2隻が並んだ。この日ダイブを行うのは全部で9名で、そのうち最後の3名はエキシビション。事前に申告している水深が深い順から競技が行われた。
普段の練習とは違いたくさんの人がいて、なんとなく高揚感のある船の上。選手はそれぞれ呼吸を整えてリラックスしたり、スタッフとおしゃべりをしたりと思ったほどピリピリした雰囲気はなく、和やか。選手は出番の45分前からフロート近くでアップができるので、アップをする選手も。
競技の時間になり、それぞれの選手の出番になると、名前と挑戦する記録、ダイブタイムのアナウンスが始まり、少し緊張感が走る。1人目は佐久間恵莉さん。トゥルーノース沖縄のボートトレーニングの7月、9月サブスクメンバーとして練習を重ね、1日目にはCWT(※1)で-50m達成、今回はCWTB(※2)で-50mのチャレンジだ。ジャッジやセーフティと談笑しながらスタンバイする様子を見ているとこちらも緊張感がほぐれる。フリーダイビングはとにかくリラックスしてダイブすることが空気の消費を抑えることにもつながるので、競技前のこの和やかというか楽しい雰囲気は独特なのではないかなと思う。
※1 CWT(コンスタント・ウエイト・ウィズフィン):呼吸を止めてフィンをつけた状態で、自身の泳力だけで垂直方向に何m潜水できるかを競う。潜水中にウエイト量を変えたり、ガイドロープを手繰ってはいけない。
※2 CWTB(コンスタント・ウエイト・ウィズバイフィン):呼吸を止めてフィンをつけた状態で、自身の泳力だけで垂直方向に何m潜水できるかを競う。CWTと違いモノフィンの使用・ドルフィンキックが禁止されており、2枚フィンでバタ足で泳がなくてはならない。潜水中にウエイト量を変えたり、ガイドロープを手繰ってはいけない。
そしてダイブをスタートする3分前からカウントダウン。ジャッジやセーフティに見守られ、リラックスできるように呼吸を整えていく恵莉さん。
カウントダウンが終わり「オフィシャルトップ」のアナウンスから30秒以内に選手はダイブを開始する。選手が水中にいる間はもちろん姿は見えないが、船についている魚探を見ながら、今何mにいるのか、安全管理責任者の臼井智美さんがアナウンスする。
20m、30m、40m…。目標深度に達し、臼井さんの「タッチダウン!」という声が聞こえ、少し安堵したのも束の間、次はちゃんと上がって来られるだろうか、ボトムにあるタグは持ってこられただろうか、ドキドキしながら浮上を待つ。
選手は浮上後、顔まわりの器材をすべて外し、ジャッジに向かって片手でOKサインを出し「アイムオーケー」と言う。そして船上と水面にいる2人のジャッジが選手の様子を見て、話し合い、判定を出す。この際、浮上後の一連の動作の手順が間違っていたり、浮上後30秒以内に口や鼻が水に浸かったりしてしまうと失格対象となる。タグがない場合は減点対象。もっとも緊張する時間だ。
判定はホワイトカード!トラブルやミスなくダイブを終えたという判定だ。一斉に歓声が上がる。すぐさま恵莉さんにハグするジャッジの河野美絵さん。セーフティも船長や船上スタッフも他の選手も、この場に参加する全員が「おかえりなさい〜!」「おめでとう〜!」と迎える。
ダイブを終えた恵莉さんからは「一緒にトレーニングしてきた仲間の成功と自分の成功をみんなで喜べるなんて、本当に素晴らしいスポーツだと思います」とコメントをいただいたが、まさにその通りだなと思える記録会だった。
2人目の下山あきさんは申告の-50mから5m浅い-45mでアーリーリターン。惜しくもイエローカード判定(失格ではないがペナルティ)となってしまったが、同じように全員が「おかえりなさい〜!」と拍手で迎えた。3人目の堅物量子さんはPB(自己ベスト)のFIM (※)-45mを達成!量子さんは5月から沖縄に滞在して、私と同様サブスクメンバーとしてボートトレーニングを一緒にしてきた選手。ホワイトカードが出た瞬間は自分ごとのように嬉しく、目頭が熱くなった。
※FIM(フリー・イマージョン):呼吸を止めてフィンをつけずに、ガイドロープを手繰りながら垂直方向に何m潜水できるかを競う。潜水中にウエイト量を変えてはならない。
そして個人的に衝撃を受けたのが西野直樹さん。70歳になるという西野さんは-38mのFIMにチャレンジ。タグを持って浮上し「アイムオーケー」と力強く言う姿が勇ましく、思わず「かっこいい…」と漏らしてしまうほど。しかし判定はレッドカード。「アイムオーケー」と言う前に声を発していたためだ。声なのか、吐息なのかとジャッジでも判断が割れたがその場ではレッドカード。とても残念だった。
吉村彰さんは美しいジャックナイフで潜り込み見事にホワイトカード。前日のダイブでは浮上後の「アイムオーケー」の前に口が水に浸かのレッドカードだったこともあり、この日のホワイトに周りのみんなも大喜びだ。そして公式記録に挑む最後は西條輝美さん。前日のダイブからさらに2m深く申告。無事にダイブを成功させてホワイトカード判定。輝美さんも数ヶ月前に一緒にトレーニングをしていたので、判定の瞬間には胸が熱くなった。
エキシビション
最後はエキシビションとしてトゥルーノースの山本拓磨さん、スポンサーのCafé&Bar Gajimaruオーナーの米田敏一さん、トゥルーノースグループのストレッチ専門店SSS沖縄スタジオの佐久本修也さんの3名がダイブ。山本さんがお手本のようなダイブを見せた後、米田さんはピースしながら潜り、さらに残りのタグをすべて取ってくるというパフォーマンスを行い、終始笑いが止まらなかった。
そして最後の修也さんも、貼り直されたタグをすべて取って来てホワイトカード。記録には残らないが、心に残るダイブを見せてくれた。ちなみに修也さんはアドバンスド・フリーダイバー・コースを一緒に受講したバディ。今回のダイブで多くのインストラクターに見守られるなか、認定条件の20mを達成し、無事に認定となった。
約1時間半で競技はすべて終了。あっという間だったが一人ひとりのダイブが心に刻まれるとても濃い時間だった。
認定式
海から上がった後は結果発表と認定式。ショップに戻りジャッジの熊澤孝典さんが水中の映像を見て、判定に間違いがないかなどをチェックする。
実はフリーダイビングの海洋競技は水深ではなく、ポイントを競う競技。1mにつき1ポイントで、イエローカードの場合はルール違反の種類に応じて減点されるので、最終的な獲得ポイントをジャッジが計算して発表するのだ。
また、結果発表後にプロテスト(異議申し立て)を行うこともできる。イエローやレッドカード判定に異議があれば、料金を払ってプロテストをすることができ、受理されれば料金は返ってくるという仕組み。今回はプロテストはなく、発表の通りの結果となった。
そして一人ひとりに認定証の授与。
都度歓声が上がる。最後までみんなで盛り上げることを忘れないフリーダイバーたちだ。
記録会を終えて
今回記録会に参加してみて、たくさんの方の協力の上で記録会が実現できていることがわかった。ジャッジやセーフティ、船長、ドクター、アナウンス、船上スタッフ…。
記録会が始まる前にはブラックアウト者が出た時のシミュレーションをしており、こういった準備があるからこそ安心して選手も競技に臨めるのだろうと思えた。
福田朋夏さんがブラックアウト者役をし、終わったあとに「楽しい〜!」と言っている姿や、セーフティの方々やジャッジの方が選手を見守りながら楽しんで参加している姿を見て、本当にみんなフリーダイビングが好きなんだなと感じた。
初めて参加した海洋のフリーダイビング公式記録会。選手として出ることは叶わなかったが、選手一人ひとりにドラマがあり、全員で一喜一憂する、心温まる記録会だった。体調を万全にして、また、全員で楽しむことを忘れずに次の記録会には臨みたいと思う。
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