ガラパゴス化する日本のダイビングシーンに新しい風を ~SDI代表・加藤大典さんインタビュー~

SDI

2016年1月1日、テクニカルダイビング・インターナショナルの日本ブランチがスタートした。

ナイトロックスからリブリーザー、ケーブ、レックなど、テクニカルダイビングのための特別なトレーニング教材と教育を提供するTDI(Technical Diving International)は日本でも以前から知られる存在だったが、注目すべきは、エントリーレベルのいわゆるレジャーダイビングのダイバーを認定するSDI(Scuba Diving International)とERDI(Emergency Response Diving International)の日本ブランチができたことだろう。

SDI/TDI/ERDI JAPAN代表の加藤大典さんに、ジャパンブランチの意図や今後の展開などを聞いた。

ダイビングの原点は“冒険”
生物観察だけではない潜在的な需要はある!?

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テック(注:テクニカルダイビングの略称)の世界は、一般ダイバーからすると「よくわからない」「めちゃくちゃ高度なダイビングをしている」といった印象で、大きな隔たりがあるように思います。しかし、SDIはPADIでいえばオープンウオーター、NAUIでいえばスクーバダイバーのようなエントリーレベルのCカード認定コースですよね?

加藤

そうです。すでに世界的にTDIでは、英語、スペイン語、ドイツ語、中国語、ロシア語、ポルトガル語、イタリア語、フランス語、韓国語、オランダ語、デンマーク語、チェコ語、マレー語など、ワールドワイドに展開されていました。韓国ではPADIと並ぶシェアがあるとも言われていますが、これまで日本にはありませんでした。

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なぜ、これまで日本では普及しなかったのでしょうか?

加藤

いきなり現実的な話をすると、先代の代表が高齢の方で病気などもあり、運営が10年ストップしていました。また、教材の問題があります。翻訳が必要なものが50冊以上あり、その辺の費用的な問題がありました。当面は、最新のオープンウォーターマニュアルが完成しましたので、その後は教材ありきでなく、教材を補助的に使って運営していくつもりです。

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なかなか思い切った投資ができないのは、やはりマーケット的にはニッチだと考えているのでしょうか?

加藤

そうですね。まず、日本は、テックの世界ではかなり遅れています。需要が少ないともいえますが、その辺の情報がクローズされ、ガラパゴス化しているようにも感じます。テックは、それなりに費用もかかりますし、誰もが簡単にできるとも思っていませんので、ここはやはりかなりニッチなマーケットです。ただ、テックの最も基本的な考え方は、マニュアルに頼らず「自分で考える」ということなので、これは通常のダイビングでもとりいれる考え方だと思います。

私自身、そこまでテクニカルダイビングだけにこだわっているわけではありません。最新のダイビングは間違いなくテクニカルの分野で開発されていて、そのノウハウはすべてのダイバーにとってメリットです。これがテクニカルダイビングを私が行う理由の一つでもあります。

SDI

加藤

また、日本では、カメラやフィッシュウォッチングが主流で、その後はプロコースしかない。ですが、ダイビングがもっと冒険的な遊び方であってもいい。もっと違う切り口があっていいし、そういった潜在的需要は日本にも必ずあると思うんです。ダイバーが減っている中、それが新しい顧客開発にもつながると思います。

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確かに、ダイビングの黎明期、ダイビングは冒険だった。今はすっかりレジャーな雰囲気で、それが主流なのはよいとして、他にも楽しみがあっていいですよね。

加藤

僕自身は、生物観察も大好きですが、冒険も大好きです。20年前にシパタンに行った時、こちらは普通に潜っている横で、ケーブに潜っていくテクニカルダイバーを見ていいなーと。見れば、ドクロマークの看板が水中にあり、ぞっとしましたが、むしろ、ケーブやレックをやりたくなってしまった。でも、日本ではなかなかそういう環境がなくて、経営するダイビングショップがひと段落して余裕が出てきた時に、フロリダに行ったんです。その時、田原浩一さんと一緒になったりして、とても楽しく刺激的でした。

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マニュアル化への危惧
ハウツーよるホワイが大事

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SDIを普及するにあたり、大元がテックの団体だと思われるのはマイナスではないですか? 冒頭で言ったように、テックって怖いイメージがある。言葉は悪いですが、おっかない屈強なおっさんがやっている、みたいな(笑)

加藤

確かに怖いイメージはあるかもですね。ただ、「ちゃんとやりましょう」っていうだけで怖いわけではないんですよ(笑)。実際、セノーテでは元気なおばちゃん達がワイワイ潜っていたり、チュークではオーストラリアの20~30代のダイバーがみんなでダブルシリンダーやリブリーザーで潜ったりしています。テクニカルダイビングまでいくかどうかはおといて、まずは、テクニカルダイビングの良い部分を取りいれたSDIで認定を受けていただくのが理想的です。

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もう少し具体的に、日本にある大手の指導団体とのプログラムの違いを教えてください。ちゃんとやるということは日数が多くなったり、軍隊みたいなことに?(笑)

加藤

いえいえ。そういうのがイメージを固定化するんですってば!(笑) 先ほども言ったように、辛い、大変、厳しいではなく、正しく、健全にちゃんとやろうというだけのことなんです。ですから、Cカード講習の日数や費用も大手のものと変わりません。何が一番違うのかといえば、“ハウツー”ではなく“ホワイ”を大切するといことです。つまり、「これをこなせば認定」ということでなく、きちんとスキルの意味を考えるためにも常に「なぜ?」を問いかける。自発性をうながすことで幅の広いダイバーが誕生します。

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その考え方が端的に表れているのがコンフィグレーション(装備の配置)ですよね。これまでのCカード講習だと装備は皆同じで、サイズをはかるくらい。テックの世界では、水中で快適に過ごすために、ウエイトの配置から考えさせられます。実際、ウエイトの配置ってものすごく重要で快適度がまるで変ってきたりしますよね。

SDI

加藤

そういうテックのよい考え方をエントリーレベルにも活かすのがSDIです。

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車のカーナビはそれに従ってさえいえれば目的には到着する。こんなに便利なものはないですが、自分がどこを走っているかわからず、ナビが壊れると迷子になってしまう。ちゃんと地図が読めるようになった上でナビを使いましょうって感じですかね。

加藤

そうですね。便利なものを使うことは大切ですが、基本がわかっていないと、パ二くりますよね。

インストラクターの品質保証が
ビジネスにつながればいい

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PADIはレジャーダイビング界を引っ張てきて、とても功績ある団体だと思います。ただ、ダイビングの興味という話じゃないですけど、カウンターとなるような団体があると幅ができていいですよね。20年前はあった気もしますが……。

加藤

そうですね。私もまずはきちんとしたインストラクターが育つことが大事で、寺山さんと同じように、昔のとある団体のようなポジションを意識しています。PADIはダイビングの裾野を広げ業界に大きな市場を開拓し大きな貢献をしてくれたと思います。

ただ日本人ダイバーの事故が減らない理由を考えると、教育機関の思想や方針が行き届かなくなった結果生まれてしまう、一部のインストラクターの質に問題があるのではないかと考えます。私たちは、インストラクターに必要な能力をきちんと開発し、その能力を継続してもらう事ができる教育機関でありたいと思っています。

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そういうブランディングが成功して、「あそこのイントラなら安心だ」となれば、質で勝負できるかもしれませんね。

加藤

そうですね。基本がしっかりしていることが、SDIのインストラクター品質保証となり、顧客への信頼につながればと考えています。そして、結果として、その品質がビジネスとしての武器となればと考えます。

バディダイビングの方がリスクが高い!?
ソロダイビング普及の可能性

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SDIの中でも、個人的に最も注目しているのがソロダイビング、単独潜水です。日本では「一人で潜ることは悪いこと」で定着しています。

加藤

日本で行なわれている単独潜水の多くは確かにリスクが高い。ソロダイビングの基本は、バックアップですが、ポニーボトルなど予備呼吸源も持たずに単独で潜るのは大変危険だと思います。

本質を突き詰めればバディダイビングはとても難しい。初心者ダイバーさんが安全なバデイダイビングができるようになるまでには何年もかかります。カメラを持ったダイバー同士が潜った瞬間、バディダイビングはかなり難しい。ソロダイビングができるようになって初めてバディダイビングがより安全なものとなるのです。ソロダイビングとは、なにもリスクある遊びをしようと思っているのではなく、「もっと安全に潜ってほしいからソロダイビング」なんです。

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ソロダイビングというと、一人ぼっちで潜るイメージですが、ガイド付きダイビングでもソロですよね?

加藤

はい。今、日本人ダイバーがガイドと潜るとき、対バディより対ガイドという意識の方が多いのではないでしょうか? あの潜り方は、バディダイビングという意味では形骸化していますが、ソロダイビングであればとても有効で正しい潜り方となります。

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SDIでは、エントリーレベルの講習からソロダイビングが導入されているんですよね?

加藤

そうですね。先ほども言ったように、一人で潜れる、というと大げさになってしまうなら、「自分のことは自分でできる」ようになって初めてバディシステムが機能しますからね。

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海保が「絶対に単独潜水はダメ!」と通達を出しているくらいですから、普及させるためには世論形成から必要ですね。

加藤

そういう意味ではバディダイビングの予約サイト「Buddy dive」などは、すでにひとつのネットワークですからチャンスですよね。

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今現在、バディダイビング、ましてやソロダイビングもあまり需要があるようには思えませんが、フォト派なんかはソロダイビングが普通になった方が楽しめますよね。ソロダイビングは個人的な夢として、とても可能性を感じるSDI。ぜひ、がんばってください。

加藤

まだ、スタートしたばかりでいろいろ課題がありますが、ダイバーたちがより楽しい環境を得るため、ダイビング業界の未来のためにも、健全に高い理念を持ってがんばっていきたいと思います。

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加藤さん、ありがとうございました。

■SDI/TDI/ERDI JAPAN
http://www.sditdierdi.jp/

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SDI/TDI/ERDI 説明会のお知らせ

■参加スタッフ
代表/加藤大典
トレーニング部長/田原浩一
事務局長/田中俊晶
アメリカ本部より副社長/ポールモンゴメリーさんやSDITDI台湾代表なども来日します。

■場所
豊島区民センター(コア・いけぶくろ)
〒170-0013  東京都豊島区東池袋1-20-10(JR池袋駅(東口)より徒歩5分)
http://www.toshima-mirai.jp/center/a_kumin/index.html#nav_access

■イベント名
「Murakami Diving Collection2016」

■日時 ※SDI/TDI/ERDI JAPANの活動
(一階総合展示場でのブース出展)
4月1日(金)16:00~19:30
4月2日(土)10:00~19:00
4月3日(日)10:00~12:00

(三階会議室)
プロ向けの説明会
アメリカ本部 副社長ポールモンゴメリーさんからの紹介もあります。SDI/TDI/ERDIがいかにダイビングビジネスをサポートしてくれるのか、その魅力を語ってくれます。通訳はTDIトレーニング部長の田原浩一が担当します。
4月3日(日)15:00~17:00

■SDI/TDI/ERDI JAPANプロメンバー懇親会
4月3日(日)18:00~21:00 小林牧場 池袋東口店 [予約制/会費¥4000]

「夢」を一堂に集めた総合展示会
「Murakami Diving Collection2016」開催 ~2016年4月1~3日~
https://oceana.ne.jp/event/60548

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writer
PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.jp/profile
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal


Instagram
https://www.instagram.com/teraniku/