ダイビングコンピュータで潜水計画は立てられない!? ~でも、9割のダイバーがダイブテーブルを使っていない矛盾~

オーストラリアでのボートダイビング、ジャイアントストライドエントリー(撮影:越智隆治)

最近、バディダイビング(セルフダイビング)のために、改めて、“潜水計画”と向き合っていたが、どうにもモヤモヤ。
その理由は、この2つの問いかけに、自分自身が答えを出せないでいたからだ。

  1. ダイブコンピュータで潜水計画って、どうやって立てるの? モヤモヤ
  2. 毎回、ダイブテーブルで潜るのは非現実的。じゃあ、潜水計画はいらないの? モヤモヤ

「ダイブコンピュータで潜水計画を立てる」と当たり前のように情報が出てくるが、ダイブテーブルで潜水計画を立てて潜っていた自分としては、「どうやるんだろう……?」と。いろいろ、聞いたり調べたりしていても、しっくりくる答えが見つからない。

では、ダイブテーブルで潜ればいいのかといえば、ボトムダイビングで潜るのはロス(あえての表現)も多く、9割のダイバーがダイブテーブルで潜っていないというアンケート結果が、その非現実性を示している。

ダイブテーブルを使えますか? 使っていますか? 

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この矛盾、このモヤモヤはなぜ? どうしたらいいの?

そして、やっと、この問題の本質が見えてきたかもしれないので、整理しておこうと思う。

それは、潜水計画の問題でなく、“潜水計画”の概念・定義があいまいであること、それに付随して、ダイブテーブルとダイブコンピュータが並列に語られるからだと気がついた。

ダイブコンピュータでは
潜水計画は立てられません!

まず、“潜水計画”という言葉が、違う定義、というか、違う“幅”で使われていることに気がついた。

狭義では「体内の残留窒素をもとにした減圧計画」。そのために必要な要素となる水深や時間を決め、さらにそれを守るためのコースなどを決めていく計画で、ダイブテーブルを使って立てている光景だ。

しかし、広義では「エントリーからエグジット、場合によっては準備も含めた潜水全般の計画」という意味でも使われているのだ。

この背景をおさえた上で、次に、ダイビングコンピュータについて考えてみる。

体内にたまった窒素量から、その水深における限界不要時間(最大潜水時間、ノーストップタイム)を算出するダイブコンピュータの本質は、“リアルタイム”だ。
一方、言葉の定義として、“計画”とは、“あらかじめ考えること、決めること”。

このことが、自分のモヤモヤの最大の原因だった。

実際に潜って、リアルタイムで得ないといけない情報をもとに、「体内の残留窒素をもとにした減圧計画」は難しく、計画書に数字として落とし込むことは不可能だ。そう、ダイブコンピュータでは、狭義の意味での潜水計画は立てられないのだ。

つまり、その本質を考えれば、ダイビングコンピュータとは、潜水計画を立てるのに使うのではなく、その計画を遂行するため、“ダイバー自身”の状況を把握し、マネージメント・管理するのに使うモノ。“一人に一台”と言われるのも理にかなっている。

ダイビング前に、ダイブコンピュータの“ダイブプラン”モードを使って潜ると、何となく潜水計画を立てているような気がするが、狭義の意味での潜水計画は立てられず、あくまで“目安”に過ぎない。

テックダイバーが使うようなかなり綿密なシミュレーショができるコンピュータもあるが、一般的なものは、予定最大水深での潜水可能時間がわかるくらい。各水深ごとに数値が出るのでマルチレベルダイビングのプランを立てている気になってくるが、時間軸はなく、あくまでその時点におけるその水深にいられる時間がわかるだけで、決して、マルチレベルダイビングの計画を立てていることにはならないのだ。

もともと、役割が違うので、「どちらで計画を立てるのか」といった、ダイブテーブルとダイブコンピュータを並列で語ることが、そもそも誤解のもとなのかもしれない。

TUSAのダイブコンピュータDC Solar IQ1202

でも、ダイブコンピュータでも
潜水計画は立てれます! なぜ?

ダイブコンピュータで潜水計画を立てられないとなると、ダイブテーブルを使わないといけないだろうか?

そんなこともない。
実際、ダイブテーブルを使って潜っていないダイバーの方が圧倒的に多いことは先述した。

では、なぜ、テーブルを使わなくても潜れるかといえば、“潜水計画(減圧計画)をもとに潜った、データや経験の蓄積”があるからだ。

仮に、誰も潜ったことのないような、まったく初めての海を潜ろうとした時は、ボトムダイビング用のダイブテーブルで計画を立てるか、あるいは、何段階かの水深を想定したマルチレベルダイビング用の計算表を使って、潜水計画を立て、数値に落とし込んで潜るしかない。

それが、ダイブコンピュータをつけて何度も潜っているうちに、「このコースのマルチレベルダイビングでは、だいたいこの水深でこの時間なら許容範囲内で帰ってこられる」と、データと経験の蓄積によりわかってくる。つまり、そのダイバーにデータや経験が蓄積されてくるのだ。

そうなってきたら、あとは、事前にダイブコンピュータで最大水深での潜水可能時間をチェックし、潜水時間やコースを決めるだけ。実際に潜った際は、深場から浅場というセオリーを心がけつつ、コンピュータの示す数値と照らし合わせて潜ればよい。これは、計画を立てていないのではなく、蓄積されたデータや経験によって、毎回、テーブルを使った計画をする必要なくなったのだ。

そういう意味では、初めて潜るポイントでは、何百本、何万本という潜水データと経験が蓄積されているガイドと潜るのがベストなのは言うまでもない。特に、ボートや流れのあるポイントなど、不確定要素や流動的な要素の多いポイントではなおさらだ。

逆にいえば、湾状のわかりやすいビーチダイビングでは想定がしやすいし、現地ダイビングセンターから聞くコース情報などは、「そのコースならこうだろう」という、それこそ何十万本という潜水データのサンプリングが蓄積した結果なのだ。

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ダイブコンピュータによる
潜水計画の手順

バディダイビング(セルフダイビング)で、初めてのポイントを潜る場合、やはり、ダイブテーブルを使った潜水計画書を作って潜るのがベスト。
そして、最初のうちはダイブプロフィールを意識して潜りつつ、ダイコンも併用すれば、やがて各ポイントの地形とコースに合わせた限界不要時間の変遷もつかめてくるだろう。

そうした経験が自分の中に蓄積したポイントでは、事前に最大水深の限界不要潜水時間をチェックし、コースを決めて潜る程度の、ダイブコンピュータによる潜り方に移行すればよいだろう。

バディダイビングの経験豊富なダイバーであれば、蓄積あるガイドと潜って自分の経験に落とし込んだり、現地ダイブセンターの情報をもとに、いきなりダイブコンピュータで潜るのもありだろう。センターが教えてくれるコースには、すでに、何万、何十万というデータと経験が蓄積されているので、その情報を頼りに保守的に潜れば、さほどリスクもない。

もっとも、海外では、ブリーフィングで「これがポイント情報です。はい、あとはバディでよろしく!」と初めてのポイントに潜らされることもある。

モルディブの海外資本のダイビングショップで、初めてのボートポイントで潜った時のこと。ガイドされるつもり満々だった自分は、日本の誇る金魚の糞スピリッツで(笑)、ブリーフィングもあまりよく聞いておらず、最後に「ダイビング終わったらフロート上げてね。拾うから。はい、どーぞ」と言われて面食らった経験がある。

結局、潜り慣れたダイバーの側をストーカーのようについて回ることに……(反省)。

【手順】
1.初めてのポイントを潜る場合、やはり、ダイブテーブルを使った潜水計画書を作って潜るのがベスト。
2.最初のうちはダイブプロフィールを意識して潜りつつ、ダイコンも併用して、各ポイントの地形とコースに合わせた限界不要時間(NDL)の変遷、イメージをつかむ。
3.データと経験が蓄積してきたら、ダイブコンピュータを使った必要最低限の計画で潜ることができるようになってくるだろう。

【前提とtodo】
■潜るダイビングポイントのデータや経験の蓄積がある
■ダイビング前
・予定「最大水深の限界不要潜水時間」をチェック
・水深、時間、コースを決める
■ダイビング中
・最大水深を越えない
・深いところから浅いところへ
・ダイブコンピュータで自己管理

まとめ

■潜水計画(減圧計画)は、計画書に数字として落とし込めないとけない
■潜水計画(減圧計画)に、ダイブテーブルは有効
■本来、ダイブコンピュータでは潜水計画(減圧計画)は立てられない
■ダイブテーブルとダイブコンピュータは土俵が違うので、並列で語ることのは誤解のもと
■ダイブコンピュータは、潜水計画(減圧計画)のためのものでなく、その計画にのっとって安全に潜る自己マネジメントのためのモノ
■ダイバーやポイント(コース)に、潜水計画のもと潜ったデータや経験の蓄積があれば、毎回、計画書に落とし込まなくても潜れるようになる
→ダイブテーブルがなくても、ダイブコンピュータがあれば潜れる

おまけ
いきなりダイブコンピュータ―で潜る!

ダイブプランと減圧不要時間(NDL)のイメージがある経験豊富なダイバーであれば、現地ダイブセンターの情報をもとに、いきなりダイブコンピュータで潜るのもあり。バディダイブを受け入れているようなポイントには、すでに、何万、何十万という潜水計画と実際の潜水の蓄積があるからだ。
自分が潜りたいコースについて聞けば的確なアドバイスが返ってくるはず。まずは、オススメのオーソドックスなコースで潜ってみよう。

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writer
PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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