ダイビング器材のオーバーホールはどうして1年に1度なのか?

セブ島のウミガメとダイバー(撮影:越智隆治)

一部機種を除いて、メーカー各社、“1年に1度、もしくは1年以内に100本に達した段階”でオーバーホールを推奨しています。

「どうして1年に1度なの?」という質問をした場合、「メーカーが推奨しているから」という回答が一般的ではないでしょうか。

また、ワランティーがあり、期限が定められている場合は、「ワランティーの期限が1年だから」といった説明になるかと思います。

だけど、それだけでは説明として物足りないのでは…。
そこで今回、もっと噛み砕いたお話ができないものかと考えてみました。

そもそもオーバーホールで、何をしているのかというと、“普段の洗浄では取れない汚れを取り除く”、“劣化部品を交換する”、“1stステージの中圧値及び2ndステージの呼吸抵抗値を調整する”といった内容です。

加えて“それぞれの部品に耐用年数が想定されており、その区切りに行われる点検“としての意味合いも持ちます。

“その器材がどんな素材でできているのか”、“どのような構造をしているのか”、“消耗パーツの耐久性はいかほどなのか”が重要というわけです。

そういった意味では、トラブルがでずに器材が良好な状態で作動する期間を、メーカーとして保証できるのが、“1年”もしくは“1年以内に100本に達した段階”と解釈できるのではないかと思います。

2年に1度の器材があるのはなぜ?

一般的には“1年に1度、もしくは1年以内に100本に達した段階”ですが、同じメーカーの器材であっても、機種(モデル)により推奨されているオーバーホール時期が異なっているものがあります。

ATOMICのレギュレーターのTシリーズ(チタン製)、STシリーズ(ステンレス製)、Bシリーズ(1st:メッキ加工真鍮製+2nd:チタン製)は2年に1度。

どうして2年に1度でいいの?

それは金属パーツに、錆びないチタンや錆びにくいステンレスを採用しているためです。
また、「シートセービングオリフィス(※詳細はこちらのATOMICのカタログをご覧ください)」といった特殊な構造をしていることも理由のひとつとして挙げられます。

他の一般的なレギュレーターとは異なり、LPシートとオリフィスが完全に離れており、保管時にシートに刃先が押し付けられた状態ではないため、シートにカタがつきにくく、パーツの持ちがよいといえます。

オーバーホールのLPシート

使用頻度、期間が同じぐらいの使用済みパーツでもこんなに違う。左:ATOMICのLPシート 右:一般的なレギュレーターのLPシート

器材の構造を理解していなければ少し難しいお話になりますが、理解しておられる方から、突っ込んだ質問がくることを想定して、もう少し詳しい説明を…。

同社の、SS1(オクトパス機能付インフレーター)もチタン製とステンレス製のパーツが採用されていますが、いずれも1年に1度のオーバーホールを推奨されています。

あれっ?同じ金属素材でも、レギュレーターは2年に1度なのにSS1はどうして1年に1度なの?という疑問が生まれますよね。
それは構造の違いが関係していると思われます。

SS1も、レギュレーターと同じ「シートセービングオリフィス」が採用されているのですが、SS1にはATMICレギュレーターに入っているスプリングが1枚入っていません。

レギュレーターに入っているスプリングが、エアーが通らない(圧がかからない)状態のとき、オリフィスとシートを接地させない役割をしているのですが、SS1にはこのスプリングが入っていないため、常にLPシートが軽く触れています。
(他のレギュレーターのように、ぐっと押し付けられてはいませんが…)

LPシートとオリフィスが完全に離れているのか、常にLPシートが軽く触れてしまっているのか、の差だと思います。
それによって、部品の耐久期間が異なると判断され、オーバーホール推奨時期がすみ分けされているのではないかと考えられます。

いずれにしても、器材の中身は見えませんので、フリーフローのような、はっきりと認識できる症状がでない限り、ユーザー様自身で部品の劣化状態や交換時期を判断することは困難だと思います。

そのための“1年”もしくは“1年以内に100本に達した段階”(機種によっては2年)という目安が定められています。

ぜひご活用いただき、器材のコンディションを良好に、安全快適なダイビングをなさってください。

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PROFILE
大学在学中、グアムで体験ダイビングをしたのを機にライセンスを取り、卒業と同時にダイビングの会社に就職。
その後、数店舗の都市型ダイビングショップで、スクールや器材販売、ツアーの企画・引率をし、2000年にインストラクターに。

数メーカーのメンテナンス講習を受けた後、ダイビング器材オーバーホール専門店「アイバディ」に10年間勤務。
現在はフリーインストラクターとして活動する傍ら、ダイビング器材・オーバーホールについて執筆活動中。

「器材の中身は見えない。だから伝えねばならない」がモットー。

ダイビング器材の中身は見えない。だから伝えねばならない~オーバーホールの現場から~ | オーシャナ
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