“フリーフローは叩けば直る”は間違い!? ~ダイバーの常識のウソ~
海の現場で、シューシューというフリーフローの音が聞こえ振り返ると、ダイバーの皆さんが、セカンドステージをバシバシ叩いておられるのを見かけます。
こんな風に↓
器材を構造的に見て、部品ひとつひとつを気遣う私たちからするとタブーな行為なのですが、割とよく見かけます。
器材がフリーフローする原因はいくつかありますが、その前に、簡単に、「吸うとエアーが出てくる」仕組みをご紹介します。
タンクからエアーを吸える仕組み
セカンドステージのフェイスカバーをはずすと、ダイヤフラムという黒いゴムのシートがあります。
↓
ダイヤフラムをのけると、その下にはレバーがあります。
息を吸うと、ダイヤフラムが引き寄せられてレバーを押し、レバーが下がります。
息を吸うとレバーが下がるとことはわかったところで、このレバーがどういう働きをするかを見ていきます。
レバーが下がる前は、LPシート(黒いゴム)とオリフィス(金属)の間には隙間がありません。
↓
レバーが下がると、隙間ができているのがわかりますか?
この隙間がエアーの流入口となり、1stステージからホースを介して2ndステージに送られたエアーがケース内に入り込み、みなさんの口に入ってくるという仕組みです。
反対に、吐いた時にはダイヤフラム及びレバーが元の位置に戻り、LPシート(黒いゴム)とオリフィス(金属)が接地することでエアーが遮断され、また吸うと隙間ができてエアーが入ってくるというわけです。
フリーフローの原因は?
空気が流れる仕組みがわかったところで、本題のフリーフローの原因ですが、まず多いのが、LPシートとオリフィスの当たり面がズレて、空気の通り道ができてしまっているケースです。
器材の運搬中、外部からの衝撃でズレが生じ、フリーフローの症状が一時的に出るトラブルで、これは故障によるものではありません。
故障と誤認されて、「オーバーホールが済んだばかりの器材がフリーフローして、そのあと止まったけど診てください」というご連絡をいただくことが時折あるのですが、実際に器材が到着して確認すると、このケースであることが大半です。
「現地で叩いたらフリーフローが止まった!」という方も数々おられるのですが、問題なく症状の改善だけがなされて幸いだったと思います。
それにしても、なぜ叩いたら止まるのでしょうか?
”意図的に外部から衝撃を与えることでシートとオリフィスが接地し、エアーの通り道が塞がれたから” です。
このLPシート、2重に〇の跡がついているのがわかりますか?
(〇はオリフィスの刃先のあたり面)
薄い〇が見にくいので黄色でなぞってみますね。
薄い〇(黄色)はオーバーホール時にシートとオリフィスが接地していた箇所です。
お客様いわく、セッティングしたらフリーフローしたので叩いたら止まり、そのまま1年間使っていたそうです。
つまり濃い〇は、ずれてたたいた後に接地した箇所というわけです。
なぜ、叩かない方がいいと申し上げたかといいますと、叩いたときにシートにキズが入ってしまったら、もう部品交換をしなければ、フリーフローが止まらなくなるからです。
つまり、その場ではもうそのレギュは使えないということですよね。
シートだとまだいいですが、シートとオリフィスの間に小石や砂粒がかんでいた場合、オリフィスの刃先を傷つける可能性もあります。
無駄に高額なパーツを交換しなければならなくなるというわけです。
わけがわからずモノを叩くということは、ダイビング器材に限らず、良い対処法であるとはいえないですよね。
昭和の家電を彷彿とさせます。
ただ、誤解していただきたくないのは、“現在”は叩くことが最善ではないということ。
昔のLPシートは今よりもっと硬い素材でできていました。
だから叩いても、食い込むというイメージではなく、滑るというか、言葉に置き換えるのが難しいのですが、トラブルを出さずに元に戻せたといえます。
ダイビング器材も、昔に比べて部品の素材が変わっています。
LPシートに関していえば、全般的に素材が柔らかくなっています。
シリコンを用い、密閉性や反発力が高まったという利点に相反し、柔らかくなった分、食い込みやすい=傷がつきやすくなった、といえます。
もし現地で一時的なフリーフローの症状が出たら、叩く前に、まずバルブを閉めてください。
それから、インストラクターの方に診てもらってください。
水に入った瞬間のフリーフローであれば、ベンチュリー効果であると考えられるので、マウスピースを下(海底)方向へ向けてみてください。
インストラクターが、器材の構造や部品について理解しておられれば、より最適な方法で対処してくださると思います。
ご自身で対処したいという場合は、エキスパートな内容の器材講習を受講するなど構造や部品について理解を深めれば、このようなひとつのケースに限らず、現地で対処しきれないトラブルの応急処置も含め対処できるようになり、より安全快適に器材をご使用いただけるようになれると思いますので、知識とスキルのアップグレードにぜひトライしてみてください。